神の壁?巨大都市?
第三話です、良ければどうぞ見ていってください。
「…とまぁ、こんな感じで俺が何でここにいるのかもよく分かってないんだよ。」
ユウキは自分の今の状態を説明した。ここがどこなのかは名前だけ知ってる程度でそれ以外は知らないこと。いきなり何の脈絡もなく、この土地に自分は突っ立っていてどれすればいいかと途方にくれていたこと。自分はそれまでは日本で普通に過ごしていたことを。
「ふむ…嘘を言っている、というわけではなさそうだ。あたしはここに住んで長い、さらにここじゃ有名でね。この辺りの人の顔はほとんど覚えてる。だが、トロみたいなのは見たことがない。おまけにこんな服、貴族でも着ているところを見たことがない。となると、トロは…」
スカラはどうやら心当たりがあるらしい。ニヤリと笑顔を作り、何かを喋ろうとした。
「…いや、ちげぇな。だとしたらトロがこんなに弱いわけがない。」
「えっ」
喋ろうとしたのだが、スカラは途端に真顔になり、つまらなそうに自分の考えたことを否定した。その豹変っぷりにユウキは困惑してしまう。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!俺は今この世界のことをほんとに何も知らないんだ!頼む、何でもいいから教えてくれ!」
だが手がかりが何もない状態だ、ユウキは藁にもすがるようにスカラに聞こうとするしかなかった。
不安なのだ。
異世界に来たということを喜ぶ前に暴行を受け、痛めつけられたなのだからそれも仕方がないことだろう。その上、異世界というわりには何か前の世界になかった特別なことやものはない。日本には親しい友人も家族ももういなく、未練などは無かったがそれでも帰りたいと今は一心に思っている。
必死なのだ。
「…探求者。この世界の全ての場所に行ける権利を持つ者。仮にトロがここじゃない別のところから来たというならあんたが探求者だというくらいだとあたしは思う。」
「…探求者…」
「だがそうだとしてもおかしいところがいくつもある。探求者だとしても神の壁から出た外の世界はとにかく危険らしいしな。大方、モンスターがまだ大量にあふれてるんだろうが。まぁ、あんなチンピラにボコされる程度のお前じゃまず無理な話…。その上、これではお前の話と辻褄が合わん。」
「神の壁?モンスター?」
「…ほんとに何も知らないんだなテメェ。まぁいい、あたしも明日までは暇だからな、昔話でもしてやるか。」
スカラはそう言うとこの部屋の唯一の灯りである切れかかっていた蝋燭を新しいものに替えたあと、再び座り直した。
「これは今から数千年も前の話だ…」
この世界には人間の他にも様々な種族の生物がいて、そして共に共存していた。ドワーフ、ゴブリン、エルフ、獣種、スライム、ドラゴン…挙げだしたらキリがないほどだ。全ての種族は神々に守られながら幸せに暮らしていた。
だが、そんな長く続く平和な世界は魔族の王 フィナーレという怪物によって絶望の世界へと変えられた。フィナーレは一部の生物たちから自我を奪い、狂わせ、暴走させた。狂った者も狂った者に殺された者も、沢山の生き物が死んでいった。その中で人間からは狂った者はいなかったが、代わりに一番弱い種族であったがゆえに絶滅までしかけていた。
最高神 ワルツアはこのことから人間のみが暮らす街7つを神の壁により隔離し、人間の絶滅を阻止した。この壁は、神が認めた者しか出入りを許さない絶対的なものであった。
ワルツアはその後、フィナーレとの全面戦争をしかけた。神と魔族による対決だ。この戦争は何年も続いたが、ワルツアは自らの命と引き換えにフィナーレを封印することに成功した。
だが、神の壁から出た先にはまだ危険がある。人間たちは神の壁に隔離された都市を隔離都市と呼び、そこで平和に暮らしていったのであった。
「…と、確かこんな感じだったかな。昔、親に聞かされたのは」
「………………」
静かにユウキはスカラの話に耳を傾けていたが、内心は動揺しかなかった。この際、自分は何故そんな世界に転移したのかだとかそんな戦争があったとか、そういうことに驚いているのではない。
「…他の、他の種族の奴等はどうなったんだ?」
あまりに急展開過ぎる。その上、それだけ聞いたのなら人間しか救われていない。神の壁とやらは人間だけにしか与えられていない。それに何千年も前に作られた神の壁がまだあるということは、まだ、外が危ないからではないか。色々なことがユウキの頭のなかで巡っていた。
「知らねぇ。」
「…知らないって…」
「言い伝えはそれだけで終わってるんだ。だからこそ、知らなきゃならねぇ。」
「…そうだ、探求者っていうのは一体何なんだよ?」
「そう、探求者だ。それこそが外の世界を知れる人間たちの唯一知る手段なんだ。」
再びニヤリとスカラは笑いだした。まるでそれを言って欲しかったと言わんばかりに。
「神は唯一、神の壁の外を知れる手段を一つだけ作った。人間の調査兵、探求者。探求者は外の世界に行き、自分達の土地へ外がどうなっているか教えることが出来る唯一の人間なんだ。探求者になれる条件は2つ、歳が18以上、そして神に認められるほどの強さを持つことさ。…だが、この今いる隔離都市の一つ、ロストでは今誰もいないんだ、その認められた奴ってのが。昔はいたらしいんだが、外の世界に行ってからそれっきりらしくてな。多分死んだのだろう。それだけ難しいってことだろうぜ。」
「神に認められた強さ…なるほど。それじゃあ、確かに俺はそもそもなれないようだ。」
「おうともさ。…さて、色々と言いたいことがあるがまずは……お前にこの家くれてやる!」
「え…。は、はぁ!?」
「あたしは今忙しくてな、生憎だが何日もお前の面倒見てやれねぇんだ。それに日本…だったか?そこに帰れるのはまずしばらくは無理だな。」
「ここまで面倒見てくれたんだ、もう充分なくらいだが…それよりとどうして帰れないと思う?」
「どうやってここに来たのかも分からないのに帰れる方法が何かあるのかなんてそう簡単には見つからないよ。しばらくはここに住みな。大丈夫、すぐに慣れるさ。だからこの家はくれてやる。」
確かにそうだ、現にスカラに教えてもらうまではここのことをまるで知らなかったのだから。それに恐らくだが、7つの都市には、日本はないだろう。ここは間違いなく異世界だ。ユウキは少なくともそう考えている。ここで生活しながら、日本に帰る方法を考えるのが現実的だろう。
「…家をくれるって言ってたけどスカラはどうするんだよ。恩人追い出してまで欲しいとは思わないぞ。」
「あぁ、あたしは3日もしないうちにこの家から出るつもりだったから別にいいんだよ。まぁ3ヶ月ほど待ってな。もしかしたら帰れる方法あたしが見つけてやれるかも知れねぇからよ。」
「何、アテでもあるのか!?家から出るって…詳しく教えてくれよ。」
「…明日だ、明日に探求者試験がある。五年に一度のね…」
「そこに私が出るのさ。まず間違いなく合格だね。」
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