1 トラッカー、異世界に羽ばたく
恥ずかしながら、帰ってまいりました。
☆
走れ走れ、どこまでも。
僕らのトラック、野山を越えて。
走れ走れ、いつまでも。
大事な荷物を、大事なあなたに。
関東地方、深夜の高速道路。
俺はもちろん法定速度遵守で、カーラジオから聞こえるCMソングに合わせて鼻歌を歌いながら中型トラックを走らせていた。
大事な荷物を指定された場所に届けるために。
俺こと東野星、当年とって三十二歳。
トラッカー、いわゆるトラック野郎である。
有限会社東野通運という、家族経営に毛の生えたような小規模の運送会社、そこの専務取締役だったりもする。
社長である父親が取ってきた仕事を、段取りつけてなんとか回して、自分でもこうやって車を運転して荷受先に届けてと、結局はいちワーカーでしかない気がするが、それでも専務取締役である。
どうでもいいが、いつまでもどこまでもドライバーを走らせたら完全にブラック企業で法律違反ではあるな。
このCMソングは俺の好きなロックバンドのメンバーが歌っているので曲自体は大好きなんだが、トラックもドライバーも永遠に仕事ができるわけではないという、たかが企業製品のCMソングに対して興ざめなことをぼんやり考えてしまうあたり、俺も疲れていたんだろう。
実際、休みとか少ないからな。
それは経営者側の一員である俺の責任によるところが大きいんだが。
働き方改革とかイノベーションとか、大事なことだとは分かっちゃいるんだが、なかなか日々の仕事に忙殺されていて、それどころじゃねえんだよなあ。
というわけで、疲れからか俺は黒塗りの高級車が深夜の高速道路を逆走してきたことに気付くのが遅れた。
つーか、ライト点けてねえんだがこの車!
いやまず逆走があり得ねえがな!?
「おいゴルァー! 免許持ってんのかーーッ!!」
そんなことを叫びながら必死で左にハンドルを切った俺だが、いくら法定速度内とは言え、深夜の高速運転中。
俺の運転していた車体は道路左側のガードレールをぶち破り、谷間に向かって転落した。
ここは山ン中の高架道路だったからな……。
頑丈な暴風壁があったら転落は免れただろうが、おそらく追突の衝撃だけで即死してただろうな、などと考えながら、俺は意識を失ったのであった。
☆
目が覚めると、明るかった。
つーかまぶしい。なにも見えん。太陽の光か?
いや、ここが噂の天国なのだろうか。
次は何の生き物に生まれ変わるんだろう。
できればラッコが良い。
昆布の海にぷかぷか浮かんで、ウニやハマグリを貪り食いたい。
「いや、蜘蛛とかに生まれ変わってお嬢様女子高のプール横の樹とかに巣を作って暮らせば勝ち組なんじゃね……? ぜひそれでお願いします」
「うわ、喋った。生きているようです」
恥ずかしい妄想の独り言に反応されてしまった……。
まだ明るさに目が慣れてこないが、周囲にぼんやりと人影をいくつか認識できる。
助かったのかな、俺。
ここは病院だろうか。車と荷物はどうなったんだろう。
とりあえずドライブレコーダーが生きてたらあのクソッたれ黒塗り高級車のクソ運転をネットの動画サイトにアップロードしてやる……。
って言うかここが病院で周りの人間が医者や看護婦だったとしたら、怪我の具合とかどういう事故でどうなったとか、なにかしら説明がありそうなもんだが。
全くその気配がないよ。
どうなっとるのかねここの病院は。
「生きていたのは僥倖だな。これで龍神さまへの捧げものが不足していた場合、こいつを生贄にできる」
と、低い男の声。
「はあ……やはり、そうなってしまうのでしょうか」
しっとりとした女の声。好き。毎朝おはようって言って欲しい。
「どうなるかはわからんが、村から犠牲を出すよりはいいだろう」
先ほどの男の声。けっこう歳がいってそうな印象だ。
えーと、なにやらキナ臭くて物騒なお話をしておりませんかねあなたたち。
今気付いたが、体を動かそうとしても上手くいかん。
目がなんとか見えるようになってきた俺は改めて自分と周囲の状況を確認する。
どうやら両手と胴体がロープかなにかでぐるぐる巻きに固定されているようだ。
足はフリーだが、首に輪っかと、やはりロープかなにかがつけられていて、柱かなにかにロープが結ばれている。
ここは病院ではない。それどころか室内ですらなかった。
屋外、露天の広場のようなところに大きな柱が立っており、その近くに俺はロープで体を拘束され、犬のように首輪をはめられている。
地べたに寝かせられてたのかよ俺。
俺のすぐ近くには若い女と、年配の男。
遠巻きに、俺たちを囲うようにしてその他数十人。
「いやいや、これを楽しむのはかなり難易度高いプレイだな。なにがどうしてこうなった……って言うか」
俺は、すぐ近くにいる二人を見てどうしても聞かなきゃいけないと思ったので、素直に聞いた。
「あんたらめっちゃ耳が腫れてんだけど、痛くねえの? なんかの病気?」
浅黒い肌、赤茶けた髪、幾何学文様があしらわれた民族衣装のようなゆったりとした衣服。
そんないでたちの彼らは、長く尖った耳をしていたのだった。
「これで決まりだな。こいつはどうやら『向こう側』から来たようだ。こちらの住人でないなら、生贄にするのに何の支障もないだろう」
「気の毒に……」
「そう言うな。神の糧として命を終えるなら、こいつの魂も救われる」
「ねえちょっと!? 無視しないで!?」
女の方はなんか涼しげな目元とぷっくりとした唇が色っぽい中々の美人さんで、しかも俺を心配してくれてるっぽいのでなんか好きになっちゃいそうだが、オッサンの方は道端の石とかその辺の虫とかを見るような目でしか俺を見てないね?
「少しうるさいな。シュアラ、眠らせておけ」
「はい村長。ごめんなさい。あなたには何の恨みも落ち度もないのですけれど……」
シュアラと呼ばれた娘が拘束されている俺の頭に自分の両手の指を当てる。
そしてなにかゴニョゴニョとわけのわからない言葉を小声でつぶやく。
そのうち俺は瞼が重くなり、意識が薄れていったのだが……。
朦朧とする中、別の誰かが大声を上げるのを聞いた。
「そ、村長ーッ! そいつが倒れてた森の奥に、わけのわからない大きな箱がーーーッ!!」
箱、箱ねえ。なんだろうねえ。まさか俺のトラックじゃねえよな。
ああ、お客さんに荷物届けないといけねえのにな。
うちの会社も送り主も荷受先もパニックだろうな……。
なんてことを考えながら再び俺は意識を失った。
☆
「あの箱はなんだ!」
「目覚めるなりなんだいきなり」
今度は室内で目覚めた。
土壁で床部分も土、ゴザかムシロのような植物を編んだ敷物の上に俺は横たわっている。
見知らぬ天井ではなく、村長と呼ばれていたオッサンの髭面が寝ている俺の上に見えた。
「お前が倒れていたところの近くにあった、白く大きな箱だ。あれは、鉄か!? 巨大な鉄の箱なのか!?」
「だからいきなり順序もへったくれもなくそんな話をされても何の事だかわからねえよ……」
そもそもあんたらの耳はどうなってるんだ。痛くないのか。俺はその質問に答えてもらってないぞ。
「村長。彼が『向こう側から来た』のなら、当然こちらのことは何一つ知らないはずです。軽くでも説明をしてからでないと、彼も話を進められる状態にはならないのでは……」
えーと、この人は確かシュアラさんという女の人だ。
長い髪がボサボサなのがもったいないくらいに美人で、落ち着いた声色がとても美しい素敵な人だ。
耳が尖ってて長いのが、どうしてそうなったのか気になる。
「どうせいずれ生贄になって死ぬような奴に、いちいち説明する意味などあるか!」
「で、ですが彼をこのまま死なせてしまうと、あの箱の正体もわからずじまいでは……」
「ぬ、ぬぅ……」
おや、なにやらシュアラさんは俺の扱いを改めろと村長に談判してくれてる雰囲気っぽいぞ。
「あれは高度な魔法や錬金術で組み上げられた、私たちの力が及ばない神器、宝具の類かもしれません……少なくともこの村、いえ村どころか山を越えた所にある街でも、あれほど精巧な鉄の器具は造れません……」
「鉄じゃなくてアルミだけどな、荷物を入れるボディ部分の箱は」
余計なことを言ってしまったらしく、村長もシュアラさんも「ア、アル、なに……?」と混乱しただけだった。
「とりあえず俺の乗って来たトラックが気になるってんならさ、確認したいから俺もその場所まで連れて行ってくれや。こんなにぐるぐる巻きに拘束されて身動きもできないんじゃ、わかるもんもわからねえよ。実際にこの目で見てみねえと」
「だ、ダメだ。お前をあの箱のある場所まで連れて行くわけにはいかん!」
「いや、なんでだよ……」
俺は別におかしなことを言ってないと思うんだがなあ。
一体この村長オヤジは何が気に入らないんだろうな?
でもこのオッサンが俺に向かって直接に話したのは、一歩前進だな。
「あ、あの中に得体のしれない邪法や呪術の道具があったら、それを手にお前が暴れた時、それを止める手段がないではないか……」
「は、はあ。えーと、うーんと、まあ、そうなりますなあ、確かに」
言ってることに間違いはないし、村長オヤジが俺を警戒する理由はわかったが。
それを俺に対して正直に言っちゃったらダメだろ……。
仮にね、俺がテロリストで、あの中に爆弾や重火器を満載にしていて、俺しかその兵器の使い方を知らない、俺だけがトラックの荷物を開封できる、という条件が存在したら、本当にそうなっちゃうからね。
この村に対抗手段がないって、村長自ら告白しちゃってるんだもの……。
村長の言葉が失言だったのはシュアラさんも察しているようで、真っ青な顔色でアワアワしている。
「危険なものなんか別にねえんだが、そう言ってもあんたらは信用してくれないんだろ? もうそれはそれでいいよ。とりあえずシュアラさんは何か俺に説明してくれることがありそうだから、その話を聞きてえなあ」
わけのわからない状態に放り込まれたものの、なんだか気の抜けた俺はそう提案した。
村長が苦虫を噛んだような顔で黙りこくる傍ら、ほっとしたような表情のシュアラさんから、俺はざっくりと以下の説明を受けた。
☆
俺の住んでいた世界とここは明確に、なにからなにまで違うこと。
戻る手段はどうやらないこと。
俺は異世界に来ちゃったらしい。
「要するにここは俺の生まれ育った愛すべき日本国ではないわけだな」
うさぎおいしかのやま。こぶなつりしかのかわ。わすれがたきふるさと。
「ご理解いただけてなによりです。ニホン、というのがあなたの生地なのですね」
「ああ。夏暑くて冬寒いがメシが美味い、良いところだよ。特に海の幸が美味い。四方八方海に囲まれてるからな。季節ごと、地方ごとにいろんな海産物を美味しく食べられる」
こちとら運送業なもんで、文字通り日本全国を走り回って、その土地の四季折々の美味い物を食ってきた経験だけは人一倍だ。
連続長時間運転勤務とか、マジで美味いものでも食っておかないと心がへし折れるからな……。
「それは、素敵なところですね……海、私も行ってみたいです」
シュアラさんはどうやら海を見たことがないらしい。
「で、質問っつうか説明して欲しいことの続きだが」
「あ、はい。どうぞ。私に答えられることなら」
「たま~~~~~に俺みたいに、こっちの世界に迷い込んでくるやつがいて、え、なに? 生贄とかにされてたの?」
俺の質問にシュアラさんは黙りこくってしまった。
彼女は村長に目配せをして、なにかしらの指示を仰ごうかと思ったようだが、村長はふてくされてそっぽを向いている。
溜息とともに、俺の質問に対する答えとしてシュアラさんはこう言ったのだ。
「実は私たちも、こうして外の世界から来た方を目の当たりにするのは、はじめてのことなんです。昔の言い伝えや、他の村や町から聞いた噂話で、そういうことがある、と知っていただけで……」
「え、じゃあ生贄云々とかはこの村のしきたりでも昔からの慣習でも何でもないってことなのか?」
「は、はい。そういうことになります……」
ならどうして俺は殺されなきゃならねーんだよ。
理屈も何もあったもんじゃねえな。
「そ、その、他の村の言い伝えでは、外から来た者が死の病をもたらして、村が全滅寸前にまで陥ったとか、その者を神への生贄に捧げたのちに災厄は収まったとか、そう言う話は古今東西を通して非常に多いので、それで村長はあなたを警戒しているのだと思います……」
「はあ、なるほど」
遠くに聞こえない小声でシュアラさんが教えてくれた。
余所から未知の病原菌を持ちこまれることが厄介だというのは、物流関係で働いているとどうしても神経質にならざるを得ない問題だ。
たとえばの、仮の、一昔前の話。
海を渡った日本の隣の国が、土地も人件費も安いので工場を作ったとする。
で、図画工作や日曜大工で使うような、木工用ボンドを大量にその工場で作ったとしますわな。
例えば1万本とか。
コンテナに積めて、船便で日本に運んで、運送会社の倉庫に木工用ボンドが1万本届くわけです。
「ノリの中に雑菌が入った可能性があると報告があったので、全数検品して不良品を除去しないと出荷できません」
と、税関の検疫関係の職員が運送会社に来て通達したときの、関係者の顔色ったら、軽くホラーだったぜ!
1万本の木工用ボンドを全数検品ってお前、開封しなきゃならねーじゃんかよ。
箱も、ノリの蓋も全部。
海の向こうから工場長だというオッサンも来て、当然日本語は通じないので関係者と英語で喧嘩しまくってたわ。
知り合いのツテで開封検品作業の手伝いに駆り出されたが、あの1万本のボンド、結局出荷できたんかなあ……。
ま、うちの会社で扱った荷物じゃねーから、どうでもよかったけどな。
いやいや、リアルな話じゃなく、仮の、たとえ話だし。
某大手ディスカウントショップの外国(具体的な国名は伏せる)工場の工場長が、英語で「ところで日本で女の子が買える街はどこですか? もちろん日本人の子を。半島の女も大陸の女も飽きているのでね!」とか聞いて来た気がするけど。
そんなことはなかったし、そんな工場長もいなかった。
夢。幻。この話はおしまい。
「確かにあんたらから見れば俺は異物で異邦人で外来種だからねえ。どうせ死んだような身の上だがもう一度死ぬことが決定されてんのは、かなり精神的に来るな……」
そもそもこの世界の住人達には、俺を生かしておく理由も動機もない。
どんな神さまにどんな風に捧げられるのかは知らんが、生贄として役に立つという使い道があるなら、この世界の住人としては俺を殺すのに十分な理由になるだろう。
その理由に「俺から見た」合理性とか客観性があるかどうかは別の話としてな。
少なくとも全身を拘束されている以上、生殺与奪の権利は俺ではなく、この世界の彼ら、村長オヤジとかシュアラさんとか、取り巻きの村人たちにある。
彼らが俺の命を使うことに彼らなりの妥当性や合理性を見出してしまっているなら、俺がいまさら何を言ったところで特に意味はないんだろうな。
こんなことなら、事故った時にサクッと死んでた方がまだマシだったんじゃねえのかな。
いや、そんなこと言っちゃいけないのはわかってるけどさ。
「わ……」
「うん?」
シュアラさんが、口をもごもごさせてなにか言いかける。
「私の兄がもうじき、龍神さまへの捧げものを山向こうの大きな街で買って、村に帰って来るはずなんです……」
へえお兄さんが。それは何より。って言うか……。
「捧げものって、普通に売ってるもので間に合うの? なら俺、死ななくてよくない?」
「え、えと、それは、あの……兄が買ってくる品物が、龍神さまにとって満足のいくものかどうかという問題があるので……」
選り好みするとか龍神さまとやら、ワガママかよ。
と、そこで俺は素朴な疑問をシュアラさんに投げかける。
ほぼ俺の中で分かっていることなんだが、確認の意味でな。
「龍神さま、っていうのは、本当に『いる』んだな?」
「え? そ、それはもちろん。山の中腹にある洞穴に……今朝も山々の上空をゆるりと、雄大に飛翔しておられました」
「そ、そう、飛んでたの……まあ龍神なんだから、飛んでもおかしくないよね……」
「はい、ほぼ毎日、朝は泰然としたお姿で大空を羽ばたいておられます」
ああ、物理的に神さまがちゃんと存在しているんだな、この世界は……。
俺たちの住んでいた世界のように「いるともいないとも言える」神さまではなく、本当にそこに「いる」神さまなんだな、龍神さまってのは。
「で、生贄とか捧げものって言うのは、具体的に言うと龍神さまの食料ということなのか」
「はい、ご明察の通りです。兄は街に行って『大海蛇の肝』を無事に入手して、今は村への帰り道のはずなのですが……」
「デカい海蛇のキモが龍神さまの好物かあ……」
「もしも兄が用意した肝の量や品質に龍神さまが満足されなければ、残念なのですが……」
残念ですが、なんだよ。
いや、食われるんですね、俺が。うん、わかりますよそれくらいは。
しれっと言ってくれるなあ、この姉ちゃんも。
いや、それなりに気の毒に思ってくれていることは伝わるから、シュアラさんを憎たらしいと思う気持ちはこれっぽっちもないがな?
その時、土でできた俺たちのいる小屋の外が騒がしくなったことに俺は気付いた。
「シュアラ! 今帰ったぞ! お前の兄はよくやったのだと、我らが神に高らかに伝えてくれ!」
やたらデカい声の、背もやたらデカい、薄汚れた髪と衣服、しかしイケメンの耳の長い青年が、けたたましく小屋に乗り込んできた。
「ゼレク、帰ったか。ご苦労だった」
「ゼレク兄さん! ああ、無事でよかった……本当に良かった……」
村長とシュアラさんに出迎えられたその男は、どうやらシュアラさんの兄でゼレクと言う名前らしい。
しかし二人との再会を喜ぶゼレクくんの顔が、一瞬にして驚きに変わった。
「なんだ、ここに寝てる男は? まさかとは思うが『向こう』から来た者か?」
「どうもはじめまして。わけもわからず拘束されて取り調べ中、いずれ神さまのエサにされる予定らしい、東野星と申します。妹さんも美人だけどあんたもいい男だなあ。イケメン爆発しろ」
イケメンを見ると機嫌が悪くなり物言いがぶっきらぼうになるのは持病なんだ、許してくれ。
と、俺が軽く呪詛を含んだ感情でゼレクくんを眺めていると、彼は俺がガチガチのぐるぐるに拘束されている様子を見て、烈火の形相で憤慨した。
「村長! この僕が、サリアカの息子であり龍の巫女シュアラの兄であるこのゼレクが、必ず神の御心にかなう捧げものを用意すると告げて旅立ったのだ! なぜかような異邦人をとらえて、神への生贄の足しにしようとするのだ!!」
なにやら芝居がかった台詞回しだ。
ゼレクくんはどうやら「自分が捧げものをちゃんと買って帰るからそれを信用してくれるのが当然だろう」という理由で、村長に怒っているようだった。
体もデカいし声もデカいゼレクくんに怒鳴られて、髭の村長はすっかり小さく縮こまってしまったのだった。
「に、兄さん、落ち着いて……兄さんの帰りを、村のみんなが喜んでいるわ。怒鳴り声を抑えて、今日は楽しく晴れやかな日にしましょう……」
シュアラさんがおろおろしながらゼレクくんをなだめる。
必然、俺のことを気にかけてくれる人は誰もいない。
ところでゼレクくんが持ち帰った荷物、ずいぶんと小さいが、龍神さまは小食なのかね。
それで満足してくれるなら、そもそも最初っから俺は要らなかったんじゃねーのかな……。
などとやさぐれた心持で、俺は耳の長い連中がアメリカのホームドラマ的にやいのやいのと騒がしく言い合っている様子を、体を縄で縛られた状態で眺めるしかなかったのであった。
トラックの中の荷物明細
※まだ秘密