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夜会

「フェリシティ嬢、私と結婚して欲しい」

 シャンデリアが(またた)き、着飾った男女が(ひし)めく夜会の大広間で、イケメンが私に跪いて求婚しています。

 夢のようなシチュエーションですが、私は思うのです。


 あなた事故物件じゃないですかーっ



 私は田舎の貧乏子爵家の次女として生まれました。

 領内には特産品と言えるような物もありませんが、それでも以前は堅実な経営をしていたそうです。

 

 それが苦しくなったのは、私の曽祖父にあたる人がやらかしたからだと、父が言っていました。「俺の爺さんは」から始まる物語は、お酒を飲んでいる時にしか出てこないので、正直酔っ払いの戯言にしか感じられなかったものです。


 両親と年の離れた姉は常に忙しく、外が大好きだった私は、天気が良ければ、羊や山羊と一緒に放牧されていました。

 ベンじいが羊の管理をするついでに私もチェックして、「お嬢は日焼けし過ぎだから、帽子被って日陰行ってろ」と品質管理をしてくれたものです。


 今思い返してみて疑問に思うのは、ベンじいの職業です。羊飼いでは無いような……。牛や馬も世話していましたし、羊を追っていたのは私と近所のペーターでしたしね。まあどうでもいいですね。


 おかげさまで大変健康ではあるものの、令嬢としてはイマイチな仕上がりに。

 でも、悲観はしておりません。立派に育った部分もあるのです。


 身長です。まあこれが受けるかどうかは微妙ですが、最大の武器は如何なる時も存在を主張する、このお胸です。誇れる程ふかふかに育ったお胸で、手頃な男性の一人や二人、仕留めてやりますよ!

 ちなみに母も姉もお胸は普通です。

 仲の良かった乳牛のハナに似たのだと思います。


 私も年頃になり、良い相手を探す為、王都へ向かう事となりました。

 本来ならば嫁に出るところですが、姉が伯爵家の嫡男に見初められ嫁いでおりましたので、私が婿を取らなければなりません。


 伯爵家からの融資で少しは余裕が出てきたものの、安定した生活の為にも出来るだけ良い殿方を捕まえたいものです。

 具体的に言うならば、お金があって後ろ盾のしっかりした気の良い家族のいる次男以降の方で年の差14以内、ハゲはいいけどデブは程々までで清潔感があり変な性癖のない堅実な人がいいですね。


  高いのか低いのか、微妙な理想を引っさげて。はい、やって参りました社交デビュー!

  私の自慢の装甲も、知ってもらわなければ話になりません。釣書きに書くわけにもいきませんし、絵姿は当てになりませんからね。


 父に連れられて、えっちらおっちら二週間かけて王都に出て来ましたよ。

 本当は五日程で着く予定でしたが、途中で逃げた羊を捕まえたり、逃げた鶏を捕まえたり、逃げた盗賊を捕まえたり、逃げた花嫁を捕まえたりと忙しかったのです。

 

 でも皆さん謝礼金や宿の提供など、様々な形でお礼をくださったので、費用も節約になり、観光する余裕が出来たのは僥倖でした。侍女兼メイドのメアリーも、両腕を突き上げて喜びを表していましたよ。これをみた私は感動してしまいました。彼女が雄叫びを堪えるのに成功していたからです。侍女として成長しましたね、メアリー。


 ともあれ折角良質な狩り場に来たのですから、何とか上物を仕留めたいものです。



 そんな必死さが現れていたのでしょうか。夜会に出席し始めてから一ヶ月経ちますが、チラチラとこちら(装甲)を見る方はいても中々声が掛かりません。

 壁の花ですよ、壁の花。でへへ、花に例えられるなんて、人生初ですよ。


 しかも、友人まで出来ちゃいました。今も隣に座っている金満男爵の遠縁だかのエリザベスちゃんです。流行りの金髪碧眼スレンダー美人さんです。私の麦穂のような薄茶の髪と緑の目も悪くないと思うのですが、やっぱり華やかさが違います。なのにこうして私と壁の前に並んでいるのは

「貴女! 私の話を聞いてるの?!」

 気が強いからかな〜と思います。


 すみません。聞いていませんでしたので、もう一度お願いします。

「いいこと? 今度はちゃんと聞きなさいよ」

 イエスマム。彼女は男爵に色々な場所に送り込まれているらしく、そこで得た情報をこうして教えてくれるのです。優しいですよね。


「一昨日ちょっと愉快な事があったのよ」と含み笑いをしながら続けます。

「貴女のこなかった夜会で、婚約破棄騒動があったのよ。しかも複数。エドワード殿下や公爵家のリチャード様もいたわ」


 なんですと!


「最初はね、休憩用の衝立の向こうで話し合いをされていたんだけど、まあ目立つ人達が集まっているんですもの、バレバレよね」


 ですよねー。王子様にそんな場所で気軽に休憩されちゃった主催者の方の胃と毛髪も心配です。


「それで嫌がらせをやったやらないで段々ヒートアップしてきて、衝立も押し退けられて。奥に座ってた令嬢達は状況に気付いたみたいだったけれど、熱くなっていた男性陣は、衆人環視の中『婚約を破棄する!』よ」


 余程見ものだったのでしょう。扇子で口元を隠していても、もう体全体が震えていますし、クツクツ声が漏れててちょっと怖いですよ。


「一人の令嬢の寵を競ってのことらしいけど、破棄した後どうするつもりだったのかしらね。今は各家で対応に追われているようだけど、ほら、面倒の原因が可愛らしくはあっても幼女趣味を疑われそうなちょっとアレな令嬢でしょう? 変な名前の。ヤマダとかいったかしら。当人達は兎も角、どこの家も欲しがらなくて」


 乙女ゲームじゃないですかー!!


 しかも、すっごいテキトーに作られてて暇つぶしにやってたやつ。ヤマダなんて名前の令嬢、アレしかないですよ。


 異世界転生してましたよ私! 申し遅れました転生者です! 知らなかったんですよ。ずっと単に昔のイギリスに魂だけ飛ばされたか、未来視したか、誰かに暗示でもかけられてるのかと思ってましたよ。


 確かに国名も違ってましたけど、昔の人は違う名前で呼んでたかもしれないじゃないですか。戦争で色々変わったりとか。隣国だってハイランドっていうんですよ。そりゃ地方の名だったかもしれないですけど、住んでる人は『国』の認識だったのかなって。


 と若干フリーズしましたが、別に今までと何か変わる訳ではないので、関係無かったですね。良い事です。


「あ、ほら。噂のリチャード様よ」

 私が止まっていた間も喋り続けていた彼女が少し身を寄せて気を引きます。彼女の視線を追うと、確かにリチャード様がこちらの方に向かって来ているようです。


 騒ぎを起こしたばかりのせいか、少しお疲れのようにも見えますが、黄金みたいな金髪に菫色の瞳の鑑賞には十分耐える美形です。攻略対象者だったからなんですねえ。……なんだかどんどん近付いてくるんですけど。


 なんだろうと思っていると、何と私の前に跪くじゃありませんか。周りの人も何事かとこちらを見ています。彼が顔を歪めながら口を開きました。


「フェリシティ嬢、私と結婚して欲しい」


 はい、 冒頭の台詞きましたよ! そんな嫌そうな顔した訳ありの人の求婚を、受けたい訳がありません。しかし相手は公爵家です。非常に断り難いです。本来ならば!


 実は私にはお断りする正当な理由があるのです。


「あの、私はローザと申しまして、フェリシティ様ではございません」



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