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9. 目覚めるとお兄ちゃんになった

 北条と別れて家についたオレは、宣言どおり日記をつけることにした。

 日記帳なんてしゃれたものはないので、適当に大学ノートでも使うことにした。


 自分の部屋に机の前に座って、事故から目が覚めてからあったことを書いていった。

 三森と友達になったことなど書くことはたくさんあって、ページはどんどん埋まっていった。

 1月足らずのことだったのに、妙に濃い日々だった。


 だが、書いている最中変な感じがした。以前も日記を書いていたような、日記なんて初めてつけるものだっていうのに……。


 夢中になって日記を書いていると、いつのまにか時間がたっていたのか、階下から母が夕飯の支度ができたことを告げる声が聞こえてきた。


「あ、そうだ、二葉。ほら、新しいスマフォ買ってきたわよ」


 母はスマフォの充電器など一式がはいった箱を渡してきた。


「おおっ!! ありがとう、母さん」


 これでようやく三森や北条て電話番号の交換ができる。

 夕飯を食べ終えたオレは、うきうきしながらスマフォの梱包を解いていった。


 出てきたのは銀色のシンプルな筐体のスマフォだった。充電用のコードをつなげて、電源をいれると電子音がして画面に明かりがともった。

 電波の受信もちゃんとできているのを確かめると、使ってみたくなった。

 いきなり三森たちにかけても知らない番号からかかってくることになってしまう。


「う~ん、だめとわかるとなおさらやりたくなるよなぁ」


 時報の番号にでもかければいいのだが、それだと通話代がかかってしまうという、妙なケチくささが出てしまった。


「そうだ、駄目元でやってみるか」


 オレは、なくしたという自分の前持っていたスマフォの番号にかけることにした。

 ぴ、ぽ、ぱと音をたてながら番号を押すのが心地よかった。


「え?」


 だが、次の瞬間、どこからか着信音が聞こえてきた。

 自分が以前設定した着信メロディーで、耳をそばだててみたが間違いなかった。

 オレはわけがわからないまま、着信音の発生源を探した。


 その音は二葉の部屋から聞こえていた。

 二葉の部屋は、この前片付けていたためきれいになっていた。片付けたとき、自分のスマフォなんて見つけてはいなかったはずだった。


 しかし、それは見つかった。


「あった、なんでこんなところに……」


 机の引き出しの中にオレのスマフォはあった。

 二葉の部屋を掃除したときに、引き出しの中も確かに見たはずだった。いや、気づいているはずなのに、何故か目をそらしていたという感じだった。


 スマフォからはいまだに着信音が流れていたので通話を切った。


 オレは見つけたスマフォを操作して、メールの着信履歴を見ると北条が受け取ったというメールも残っていた。

 文面を見ると、たしかに北条を山の高台に呼び出す内容のものだった。


「本当に送っていたのか……」


 引き出しの中にはスマフォのほかに、茶色いハードカバーで装丁された分厚い本が入っていた。表紙には何もかかれていなかった。

 中を開けると、二葉の文字で文章が書かれていた。


「日記か、これは……」


 読み進めていくうちに、どうやらこれは二葉がつけていた日記だということが分かった。

 はじめの方のページには4年前、オレと二葉が中学に入ったころのことから書かれていた。

 

『今日は、朝起きても体調がよくならなかったので学校を休むことになった。中学生になって少しはよくなるかと思っていたが、ぜんぜん変わらなかった。小学校のころからこうやって学校から休むことが多く、きっと自分は近いうちに死ぬんだろうなぁと思った。そんな風に自分がいなくなるまでの記録をとるために、日記をつけることにした。学校をやすんで時間はたっぷり余っているから苦にはならなそうだ』

 

『今日は学校に行けたけど、途中で体調が悪くなって早退することになった。お兄ちゃんも付き添って一緒に帰ってくれた。家に帰るとわたしが眠るまで横で見守ってくれていた』

 

『今日は体調がよく、やっと、登校も下校も一緒に行けた。中学校にはいってからの念願の夢がかなってうれしい』

 

 二葉は学校を休んだりしたとき、この日記をつけつづけていたようで、日付は飛び飛びになっていた。

 誰もいない家の中で一人で、この日記をつけている双葉の姿を想像すると不憫に思えた。

 

『今日もお兄ちゃんと一緒に帰ろうとしたら、別のひとと帰るからといって、わたし一人でかえることになった。お兄ちゃんと離れるなんていやだなぁ』

 

『今日もお兄ちゃんは別の人と帰るようだ。気になって後をつけてみたら、お兄ちゃんと同じクラスの女子だった。なんでお兄ちゃんの隣にいるのがわたしじゃないの?』

 

『今日から元の通りにお兄ちゃんと帰れるようになった。やっぱり、お兄ちゃんと一緒にいると落ち着く』

 

 ぱらぱらとめくりながら内容を流し読みしていたが、オレとのことについて書かれているのが目に付いた。

 やがて、ページに書かれている日付は高校に入ったころになった。

 

『今日から高校生だ。お兄ちゃんと同じ高校に通える。こういうとき双子でよかったと思えるけど、小中学校から同じクラスには一度もなれてないのが残念だ』


 次のページをめくると、不名誉なあだ名をつけられる原因となった日のことが書かれていた。

 

『お兄ちゃんが新しいクラスの中で授業をうけている。消しゴムを落としてしまい慌てていたが、隣の席にすわっていた人から消しゴムをかりたようだ。だが、その後急に叫びだしたのにはびっくりした』

 

「あいつ、こんなことまで書いていたのか」


 オレは恥ずかしさを感じながら苦笑をもらした。

 しかし、そこでハタと気づいた。


「なんで二葉がオレのクラスのこと知っているんだ……」


 オレと二葉のクラスは別で、さらに授業中のできごとだった。オレ自身はこんな恥ずかしいできごとを二葉に話しているはずもなく、人づてに聞いたにしてはまるで見てきたような内容だった。

 

 オレの指先は気づかないうちに震え始め、それでもページをめくり続けた。授業中のことや、学校からの帰り道友人と寄り道したことなど、オレのことばかりが書かれていた。

 そして、その日付は決まって二葉が体調を崩したといって学校を休んだ日だった。

 

『最近、お兄ちゃんに絡んでくる女がいる。頭をポニーテールにしばった女子で、お兄ちゃんをからかって遊んでいるように見えた。そのときのお兄ちゃんの表情は楽しそうに見えた』

 

『なんでだろう、上手くいかない。お兄ちゃんに寄ってくる女は排除してきた。女と遊ぶ約束をしたとき、わざと体の調子が崩れた振りをして、お兄ちゃんが看病のためにデートの約束をドタキャンするように仕向けた。そうすると、たいていの女は怒ってお兄ちゃんから離れていった。だけど、アイツだけは違った。お兄ちゃんと出かける約束をしていたのを知ったので、後からわたしがワガママをいってお兄ちゃんとでかけるようにすると、じゃあみんなで一緒に行こうなんていいだした。しぶとく付きまとい、お兄ちゃんもそんなアイツに関心を示すようになっているのがわかった』

 

 高校に入ったころの内容を読んでいくうちに、頭の中で二葉の声が再生されるように聞こえてきた。

 もはや、文章を追っているのか、頭の中の声を聞いているのか区別がつかなくなっていた。

 

 夏休みに入るまえにお兄ちゃんがアイツに告白をして、付き合い始めるまでになってしまった。そんな二人をみながら、わたしの心には徐々にすき間ができていくのを感じた。


 そんな中で、アイツに聞かれたことがある。


「二葉ちゃんって、一葉のことが好きなの?」


 だけど、その質問に答えずわたしは首をかしげた。


「好きってなあに?」


 お兄ちゃんの中をわたしという存在で満たし、わたしの中をお兄ちゃんで満たしたいという思いしかなく、好きとか聞かれても疑問符しか浮かばなかった。

 

 でも、今のお兄ちゃんの頭の中を、あいつという存在が大きなウェイトを占めるようになってしまったという事実は許容しがたかった。

 もし、アイツを消したとしたら、優しいお兄ちゃんのことだから、あいつのことで気を病みずっと思い出しつづけるだろう。


 それでは、兄の頭をわたしで一杯にできない。兄の頭の中がわたしだけになるようにしなきゃいけない。

 


 このときのオレは既に自分が“一葉”なのか“二葉”もう分からなくなっていた。読んでいる内容は、元から知っていたかのように、映像として脳内で再生されていた。

 そして、日記は先ほどの部分で終わり、次のページは空白になっているにも関わらず、脳内での再生は止まらなかった。


 

 お兄ちゃんのスマフォを使ってアイツを目的の場所に呼び出しおいた。

 わたしはお兄ちゃんを、昔一緒に遊んだ山の中に連れて行った。その山の中に切り立った崖になっている場所があり、そこから山の全体が見渡せ紅葉のときには絶景だった。

 ひさしぶりにきて、なつかしがるお兄ちゃんを見ながら、高台に呼び出したアイツがわたし達の存在に気づいたことを確認した。アイツが立っている場所からは、わたしたちがよく見えるはずだ。


 アイツにはこれから起こることを見せれば、お兄ちゃんとわたしの関係を理解できるだろう。


「みてみて~、こんなに高かったんだね~」


「おい、危ないからあんまり身を乗り出すな」


 わたしは崖から身を乗り出して、下を覗く振りをした。

 そんなわたしを心配そうにしながら、慌ててお兄ちゃんが近づいてくるのを目の端で捕らえていた。


「あっ!?」


 わたしは体のバランスを崩して、崖から落ちそうになるようにし、指がかろうじて崖の縁にかかっている状態になった。


「二葉!! 待ってろすぐに助ける」


 お兄ちゃんが焦りながら、身を乗り出してわたしの手をつかもうと、手を伸ばしてきた。

 このとき、お兄ちゃんは必死にわたしを助けようと、わたしだけを見ていた。


――――ああ、これがほしかった……


 お兄ちゃんの手が届く前に、崖の縁から手を放した。

 だけど、次の瞬間、想定外のことが起きた。


「え、お兄ちゃんっ!?」


 落ちていくわたしを見て、お兄ちゃんが躊躇せず飛び込んできた。

 でも、結果的にこれでよかったのかもしれない。


 落下中、お兄ちゃんはわたしの体を両腕でだきしめ、わたしもお兄ちゃんの体に抱きついた。

 落ちていく最中、わたしと兄は、ただただ互いのことだけを考えていた。

 そして、ぐんぐんと地面は近づき、やがて激突した。

 

 落下後、気を失っていたようで、ゆっくりと覚醒していくのを感じた。


「あ、お兄ちゃん……」


 そして、わたしの下には動かなくなったお兄ちゃんの体が横たわっていることを知った。

 お兄ちゃんがわたしをかばって下敷きになってくれたおかげで助かったようだ。


 あのまま一人で落ちて、強烈な記憶としてお兄ちゃんの頭の中を満たし続けることを望んだのに、予想外の結果となってしまった。


「お兄ちゃんの体がこわれちゃった」


 お兄ちゃんの体だったものに触りながら残念に思った。


「じゃあ、今度はわたしがお兄ちゃんをやるね」


 わたしとおにいちゃんは同じものなんだから、わたしがお兄ちゃんをやれば済むことだ。


 お兄ちゃんだったものの胸の上に頭をのせると、失われつつある熱が自分に移ってくるような気がした。

 同時に、これまで日記に書き続けてきたお兄ちゃんの記録をすりこむように、自分の意識を書き換えていった。

 

 あいつが通報したのか、やがて救助がやってきて、わたしとお兄ちゃんの体は病院に担ぎ込まれた。


(お兄ちゃんとわたしはひとつになるんだ……)


 それから、一週間、意識の混濁する中、スイッチが切り替わるように、わたしという人格から兄のものに代わっていった。



 

 わたしはあの日あったことを完全に思い出した。

 そのせいで、せっかくお兄ちゃんになれていたのに、わたしに戻ってしまった。


「ごめんね、お兄ちゃん」


 お兄ちゃんのスマフォを足で踏み砕くと、液晶は割れ中の基盤も壊れた。

 それから、お兄ちゃんとの日々について書かれた日記を脇にかかえて、階段を下りていった。

 ママはでかけているようで、居間には誰もいなかった。 


 仏壇の前に置かれた線香に火をつけるためのライターを手に取って、玄関にむかった。


「わたしにもうこれはいらない」


 庭にでると、日記を地面に置いてライターで火をつけた。

 端からブスブスと煙を放ち、全体に火が燃え移り、やがてただ一塊の灰になった。

 

「だって、わたしがお兄ちゃんなんだから」

 

 思わず笑みがうかんだところで、意識が深く深くしずみこむように消え、同時に自分の中が兄で満たされていくのを感じた。



 

「……あれ? うわっ、なんだこれ」

 

 オレは目の前にあるまだ煙をたてている灰に驚いた。

 手にはライターを持っていて、どう考えても、これを燃やしたのは自分だった。

 だが、燃やしたときの記憶はなく、さっきまで二葉の部屋にいたところまでしか思い出せない。

 

「なにしてたんだっけ、オレ? そうだ、スマフォの設定してたんだよな」


 頭をひねっていると、庭の門を開けて母が帰ってきた。


「二葉、そんなところでなにしてるのよ?」


「え、ああ、ちょっと涼みに外にでようかな~って」


 母が庭に突っ立っているオレをいぶかしげな目で見てきたので、足元の灰の塊を隠すように前に立った。

 

 母がいなくなったあと、灰の塊を片して二葉の部屋に戻った。

 

「あったあった。明日、三森にスマフォ買ったこと自慢してやろう」

 

 机の上に置かれていた新しいスマフォを見つけて、ポケットにいれた。


「さて、今日はスマフォを買ったことでも書いておくか」


 日記に今日スマフォを買ったことなどを書いていった。


「日記ってのもいいものだな、自分を記録に残すって感じがするよ」

 

 今日の分が書き終わると、日記帳を閉じてベッドに入って目を閉じた。


これで、この物語は終わりとなります。

ここまで読んでくれて、ありがとうございました。

いかがだったでしょうか? 超現実的な要素をいれないで、TSする方法を考えた結果このようなオチになりました。

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