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7. わからなくなってきた

 三森がくるようになってから、昼休みの屋上にならぶ人影は3つに増えていた。

 オレをはさむように三森と北条が座って、弁当を一緒に食べていた。


「茜まで、こんな暑いところに来なくていいんだよ」


「ボクは暑いのあんまし気にならない体質だから。それにここで食べると景色もいいしね」


 照りつける日差しは強く、いまだに秋という感じがしないほど暑かった。


「そういう君こそ、体はあまり丈夫じゃないほうだと一葉からきいていたが、大丈夫なのかい?」


「まあね。なんか知らんがあれ以来体の調子がよくなったみたいだ」


「ふうん、妙なこともあるものだね」


 北条は、オレの言葉にどこか納得がいかないような素振りを見せた。


「質問いいっすか!!」


 北条と二人で話していると、急に三森がシュタッという擬音がつきそうなほど、ピンと指先まで伸ばしながら手を上げた。


「お二人はどういう関係なんですか!!」


「どういうって……」


 ここで『妹の体に入っている元恋人です』だなんていえるわけもなく、なんと言おうか迷っていると北条が答えた。


「ただの知り合いだよ。楠木二葉の兄とわたしは付き合っててね。まあ、何度か顔を合わせたことがある程度さ」


「つ、付き合ってた!? それは、恋人ってやつッスか!!」


「そのとおりさ、ダーリンとハニーと言い合う仲だったんだ」


 妙なテンションになる三森に、悪ノリするように北条が説明を始めた。


「おい、妙なことをいうんじゃない」


「なんだい、お兄さんをとられたと思って嫉妬でもしてるのかな」


「んなわけないだろ」


 オレがツッコミいれていると、またも三森が探るような目つきでこちらを見てきた。


「二葉っち、知り合い程度とかホントなの? 二人ともすっごい親しげなんですけど~。口調もいつもとちがうし」


「そ、そんなことない、よ」


 いつのまにか、北条のペースにまきこまれて男だったころの口調で話していた。


「ほ、ほら、チャイムなったし教室にもどろう」


 予鈴が鳴ったのを聞いて、オレは三森を急かしながら屋上を後にした。


 午後の授業が終わり、教室の中の人間はめいめいに動いていた。


「じゃあ、また明日ね」


「じゃあね、部活がんばってね~」


 放課後、いつものように部活にいく三森を見送った後、オレはカバンを肩にかけて帰ろうとした。


「やぁ、一緒に帰らないかい?」


 北条が教室に入ってきて声をかけてきた。


「いいけど、おまえの家って、オレ……ワタシの家と逆方向でしょ」


「なにをいってるんだい、君が私を家まで送ってくれるのだろう」


 当然といった感じでいうと、北条はさっさと歩きだしたので、 オレはしょうがなく北条のあとをついていった。


「急にどうしたんだ?」


「昼休みだと、三森さんがいて話しづらいこともあったんじゃないかと思ってね」


 北条と並んで歩きながら、気になっていたことを聞いてみることにした。


「なあ、オレが、一葉が、事故にあったとき、おまえに送られてきたメールってどんなことが書かれてたんだ?」


「君のスマフォを直接見れば話は早いのだけど、見つからないものはしょうがないね。書かれていた内容は、ある場所に私を呼び出すものだったよ」


「ある場所?」


「見晴らしがいいという以外とくにこれといったものがない山の中の高台だよ」


「なんで、そんな場所に……」


「さあね、そこから見える風景でも見せたかったんじゃないかな」


 北条はなにかの感情を隠すように目を細くした。

 北条が何を考えているかわからないまま、オレは北条の家への道を進んだ。


「ちゃんと、私の家への道おぼえてるんだね。やっぱり君は一葉なのかい?」


「やっと信じてくれたのか」


 横を歩くほう上が、確認するようにオレに言ってきた。


「ところで、君はまだ元に戻ることをあきらめてないのかな?」


「あきらめられるかよ、この体は妹から借りてるようなものなんだから。借りパクになっちまうよ」


「おそらく、君の妹は喜んで自分の体を差し出したとおもうよ……」


「なに? なんでおまえがそんなこと言えるんだよ」


 北条の言葉にオレは思わず立ち止まり、声のトーンが低くなった。


「君と付き合うようになってから、二葉ちゃんと話したことがあったんだ」


 北条は暗い顔をしながら、そのときのことを話し始めた。



――二葉ちゃんとは何度か会ったことがあったけど、距離をとられているような気がしてね。一度、サシで話して見たいと思ったんだよ。

 話してみると、少しブラコン気味だったが、まあ普通の女子だと感じた。

 そこで、悪戯心がうづいてこんな質問をしたんだ。


『二葉ちゃんって、一葉のことが好きなの?』


『え?』


 二葉ちゃんは、私の質問の意味がわからないといった感じでキョトンとした顔をした。


『ごめんごめん、変なこと聞いちゃって』


 もしかして、男として一葉のことが好きなのかと思っていたが、まあ、そんなことあるわけもないかと思って謝ったんだ。

 だけど、二葉ちゃんが次に口にした言葉なんだけど


『お兄ちゃんとわたしは同じものなのに、好きとかよくわからないよ』


 そのときは、言っている意味がよく分からなくて曖昧に笑って二葉ちゃんと別れたんだ。

 だけど、今にして分かったんだ。二葉ちゃんは自分と兄が同じ存在なんだと言っていたんじゃないかと……。

 そして、今の状況は二葉ちゃんの体の中に君の意識が入り込むという、“同じもの”になった状態だ。


 話し終わると、北条は立ち止まり顔を伏せた。


「二葉がそんなことを……。同じものってどういうことだ? いくらオレたち兄妹は双子だといっても、別々な人間なんだから」


「そう、だね……。彼女が言いたかった本当の意味は、私にはわかりそうもないよ」


 北条にしては歯切れの悪い返事をしたあと、どこか縋りつくような表情をしながら、オレに近づいてきた。


「なあ、もしも君が元に戻ったとしたら、私はまた君を失ってしまうことになるんだぞ。君はそれでも、元に戻りたいっていうのかい」


「それは……」


 そんな北条の表情をみて、オレは何もいえなかった。


「すまない、今いったことは忘れてくれ。二葉ちゃんは君にとってかけがえのない妹だものな」


「こっちこそ、無神経なことをいっちまって、悪かった」


 妙な空気が二人の間に流れ、無言で歩いていると北条の家についた。


「じゃあね」


「ああ、またな」


 家の前に立つ北条に見送られて、オレは自分の家に向かっていった。

 

 その晩、オレは夢を見ていた。

 いつものように学校に行くための身支度を整えて、鏡の前にたって変なところがないかチェックをしていた。

 すると、鏡の中に映る自分の姿が、一葉の姿になった。元の男の姿になったのかと思い自分の手をみたが、小さくて白い二葉の手のままだった。

 だが、鏡に映るのは一葉で、オレはどっちなんだと訳がわからなくなったところで目が覚めた。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 飛び起きたオレは荒い息をつき、寝汗で下着がぐっしょりぬれていた。


「オレは誰なんだ?」


 真夜中の暗い部屋のなかで、オレの言葉がむなしく響くだけだった。 

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