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3. 妹の日常を体験してみた

 昼休みが終わる前にオレは二葉のクラスに戻った。

 昼休みの残り時間は10分ぐらいしかなかったので、オレは急いで昼飯を食べることにした。

 席に座って、母さんに持たせてもらった弁当を広げて食べ始めた。


「いい食べっぷりだねぇ」


 オレがかきこむように弁当をたべていると、三森が話しかけてきた。オレは口の中の食べ物を飲み込んでから、弁当から顔を上げた。


「ん、そうか? 時間がないからね、早くたべないと」


「前はひな鳥がついばむように少しずつ食べてたけど、いまは飢えた犬のようだったよ。なんていうか、食べ方が男子っぽい」


 三森は興味深そうにこちらを見て笑っていた。

 妙なところを気にするヤツだなと思いながら、オレは弁当の残りを平らげた。


 午後の授業中、睡魔と闘いながらなんとか授業を聞いていると、背中をちょんちょんとつつかれた。

 なんだろうと思いながら、後ろを振り向くと、折りたたまれた紙を渡された。

 オレのクラスでも、授業中にこうして女子同士で手紙の受け渡しをしているのを見かけることがあったが、まさか自分にくるとは思わなかった。


 先生に見つからないように机の下で、紙を開いた。


『今日一緒にかえろう 茜』


 だれからの伝言かとおもったら、すぐ後ろの席の三森からのものだった。

 それなら、授業が終わった後に言えばいいだろうと思いながらも、三森の書いた文の後に『いいよ』と書いて手紙を渡した。

 でも、おかげで眠気は覚めて授業中に居眠りすることは避けられた。


 授業が終わると、三森がうれしそうな笑顔を浮かべながら話しかけてきた。


「二葉っち~、かえろうぜ~」


「いいけど、部活はいいの?」


「今日は休みなのだよ。これは二葉っちと一緒に帰りなさいと神様がいってるんだね」


「なんだそりゃ。まあいいや、かえろっか」


 オレは机に入れていた教科書やノートをかばんにつめ終えると、席から立った。


 帰り道を歩きながら、三森と雑談をしていた。


「二葉っちって、家どの辺にあるの?」


「高校からあるいて20分ぐらいのところかな。小中高と全部歩きで通ってるから、電車通のやつらにちょっとあこがれてるよ」


「へぇ、わたしも歩きだからなぁ。でも、二葉っちが朝の通勤ラッシュにもまれたりしたら、つぶされそうだねっ」


「う、まあ、そうだな……」


 オレは、満員電車の中でもみくちゃにされる二葉の姿を想像してげんなりした。

 それから、授業のことやクラスメイトのことなどとりとめもないことを話していたが、おれは気になっていたことを聞いてみることにした。


「ところで、どうしてオレ……ワタシと一緒に帰ろうと思ったの?」


「う~んとね、前から二葉っちとは話して見たいと思ってたんだよ。前はひとを寄せ付けないような感じで、話しかけづらかったけど、いまならいけると思ってさ」


 妹よ、もう少しクラスメイトとは仲良くしておけよ。


「えっと、そんなにワタシ変わったかな?」


「変わった変わった。なんていうか、男っぽい? わたしんちってさ、兄弟が男ばっかりだったから、いまの二葉っちみたいな方が話しやすくていいよん」


 一応女っぽいしゃべり方を心がけていたが、所詮付け焼刃だったようだ。

 だけど、こいつとならなんとなく馬が合いそうで気兼ねなく話せそうだなと思った。


「あ~っと、ワタシの家こっちだから、ここでお別れかな」


 オレの右の道を指差して、三森と別れようとしたら、三森は急に真面目な顔になってオレを見てきた。


「君のうちがたいへんなことになってるって聞いてて、お節介かもしれないけど、何か力になれることがあったらいってくれ」


「もしかして、わたしの兄のことって学校で知れ渡ってる?」


「うん、まあ、ね。同じ学年の人が事故に会って亡くなったって聞いてるよ」


 それで、妙にクラスの連中がなにかを気にするようにこっちを見ていたのか。


「そっかぁ。ごめんね、気を使わせちゃって」


「いやいや、大変なのは君のほうっしょ」


 それから、互いにじゃあねといって別れていった。

 


「ただいま~」


 オレは家の玄関をくぐり中に向けて声をかけたが、返ってくるのはシンとした誰もいない空気だけだった。


「ふぅ、あ~、つかれたぁ」


 家に帰ると、オレは制服のまま居間のソファに体を投げ出して、うつぶせになった。

 スカートがまくれて中が見えてしまっているが、ここは自分ひとりなので構わないだろう。


 この体になって初めての学校は、緊張のせいか予想以上に疲れた。

 さらに、二葉が家と学校でずいぶんとキャラが違っているのもあって、戸惑いの連続であった。


 ソファの上でごろりと仰向けに転がり、天井を見ながら、家での二葉の様子を思い出してみた。


 

 オレが学校から帰ってくると「おかえり~」といいながら、先に帰ってきていた二葉がふにゃっとした笑顔で出迎えてきた。


『ねぇねぇ、お兄ちゃん、一緒にゲームしようよ。わたし少しは上達したと思うんだ』


 二葉はオレがやっているゲームをみて、自分もやりたいと言い出し、ゲームになれていない二葉に操作の仕方を教えながら一緒にゲームをしていた。


『わかった、わかった、ちょっと待ってろ』


 オレは自分の部屋で学校の制服から部屋着に着替えると、二葉がまっている居間に向かった。


『おまたせ』


『はやく、はやく~』


 二葉はソファーに座って、自分の携帯ゲーム機を両手で持ちながらせかしてきた。

 オレは二葉の隣に座って、携帯ゲーム機の電源を入れた。


『お兄ちゃん、わたしほしい素材あるから、クエスト手伝ってほしいの』


 ゲーム機から軽快な音楽が流れ始めると、二葉が目をキラキラさせながら聞いてきた。


 いまやっているゲームは、モンスターを狩って素材を集めることで武器防具を製作できることを目玉にしたもので、より性能の高い装備をつくるには難易度の高いモンスターを倒す必要があった。


『いいぞ、どこにいきたいんだ?』


『えっとね、雷龍ボルクスっていうモンスターらしいんだ』


『残念だけど、それオレのハンターランクじゃ、まだいけないクエストだぞ』


『え~、そうなの? でも、わたしのは行けるみたいだよ』


『ちょっと待て、おまえハンターランクいくつになってるんだよ』


 オレは二葉の持つゲーム機の画面をのぞいた。そこにはランク6と書かれていた。


『おまえ、いつのまにそんなに上げたんだよ』


『ん~っと、お兄ちゃんに教えてもらったことを練習するために、適当なクエストやってただけだよ』


『それで、おれより2つもランクが上がってるとか、どんだけやったんだよ』


 オレは驚きながら二葉をみていると、二葉はよくわかっていないのかきょとんとした顔をしていた。

 それから、二人でいけるクエストを選び、同じステージに二人のキャラクターが立っていた。


『お兄ちゃん、いっくよ~』


 二葉の操作するキャラは軽快な動きで、敵モンスターに攻撃を加えていた。

 少し前までは、モンスターから逃げ回るだけだったが、オレが教えたセオリーなどを覚えたようで、明らかにプレイヤースキルがあがっていた。

 二葉は何かに取り組んでいる最中の集中力は高く物覚えはいいのだが、興味のないことにはまったく手をつけようとせず、いわゆる、やればできる子ってやつだった。


『やったね!! お兄ちゃん、倒せたよ』


 モンスターの討伐に成功しましたというメッセージが表示されて、二葉は喜びながらオレに笑顔を向けてきた。


『よしよし、よくやった』


 二葉のつややかな黒髪の生える頭に手をのせてなでてやると、二葉は気持ちよさそうに目を細めた。

 昔から、ほめるときや慰めるときにこうやって頭をなでると二葉は喜んだ顔をしていた。


『ただいま~』


 そこに、玄関のドアが開く音がして、母が居間に入ってきた。


『おかえり、母さん』


『あんたたちホントに仲がいいわねぇ。高校生ぐらいになったら、兄妹って離れていくものと思ってたわよ』


 帰ってきた母が呆れたようにオレたちを見ていた。


『わたしとお兄ちゃんはずっと一緒にいるの』


『あらあら、一葉どうするの? 二葉からプロポーズされちゃったわよ』


『いや、いまのはそういう意味じゃないだろ。というか、兄妹で結婚とかありえんだろ』


 からかうように言ってくる母さんにツッコミをいれると、二葉が不思議そうにこっちを見ていた。


『結婚? そんなことしなくても、わたしとお兄ちゃんは同じものだよね?』


『なるほど、結婚しなくてもあんたらは兄妹なんだから苗字は同じものだね。こりゃ、一本とられたわ』


 母は二葉の言葉をきいて、声を上げて笑っていた。

 しかし、二葉は母のいっていることがわからないといった感じで、首をかしげていた。



 

「あれ? いつのまにか、寝てたのか」


 どうやら、二葉との日常を思い出している内に寝ていたようだった。


「おはよう、良く寝れたかしら」


 オレの体の上には毛布がかけられていて、起きたオレに母が声をかけてきた。


「もう、こんな時間かぁ、ふあぁぁ~」


 外の景色はすでに暗くなっていて、ソファーから身を起こすとあくびをしながら体を伸ばした。


「もう、そんなに大あくびしちゃって」


「おっと、えへへ」


 男だったころのようにしたら、母さんにたしなめられてしまった。女子らしい振る舞いをすることを忘れていた。


「ほら、ごはんにするからね」


 部屋の中にはいいにおいがただよっていて、もしかしたら、このにおいで目が覚めたのかもしれないと思いながら食卓についた。

 母の作った夕飯を食べながら、今日のことを話した。


「どうだった? ひさしぶりの学校は」


「えーっとね、なんというか新鮮な感じがしたよ」


 自分のクラスじゃなくて、二葉のクラスにいったんだから当たり前だよなと、内心で自分にツッコミをいれた。


「体の方は大丈夫? 疲れているみたいだし、無理しないで明日は休む?」


「大丈夫だよ、ただ昼寝してただけだから」


「それならいいけど、無理はだめよ」


 そういった母は心配そうな表情を浮かべていた。

 元々、二葉は体があまり丈夫でなく学校を休みがちだったので気を使っているのだろう。

 それに加えて、“一葉”がいなくなってしまったので、気弱になっているのかもしれない。


 夕食を終えると、オレは2階の自分の部屋に向かうことにした。


「今日も一葉の部屋で寝るの?」


「うん、あっちの部屋のほうが落ち着くんだ」


「そう……、おやすみ」


 母は何かいいたげな顔をしながら、階段を上がっていくオレを見ていた。

 “一葉”がいなくなって“二葉”は寂しがっていて、オレの部屋にいってるんじゃないかと思われているのかもしれない。


(これ以上心配をかけるようなら、そろそろ、二葉の部屋で寝るようにしないといけないな……) 

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