クニ抜け
授かり岩の下に数人の人々が集まっていた。朝焼けに岩肌は赤く染まり、人々の影は重たく動いている。
ナツイの葬儀の準備であった。
空の国の葬儀はひっそりとしめやかに行われる。授かり岩の下にある浜辺から棺舟に乗せられて海に流される。立ち会うのは家族と村長、大長老、そして巫女。
作業をするものが数人いる。「葬儀役」と呼ばれているが普段は東浜に住む漁師である。もともとはモトン族の慣わしである「水葬」を真似て始まった儀式であった。
棺舟の大きさはひとりが横たえられるほどである。舟に亡骸が横たえられ、海に流されるわけであるが葬儀役に遠く沖まで先導され、そこで死体は海に落とされ、海の糧となる。
冷ややかな声で指示をするものがいた。
ガクウである。
棺舟には鮮やかな花や草が敷き詰められている。死体の腐臭を消すための草が多く敷かれ、亡骸が置かれ、その上にもたくさんの花や草を置く。通常ならば死の翌日の午の刻に葬儀が行われるのでさほどの腐臭もしないのであるが、今回はあのナツイである。
数人の黒い作業着を着たものたちが白い布に包まれたナツイの亡骸を抱え、舟の中に静かに置いた。布は厳重に巻かれていたがさすがに腐臭は隠せない。
岩下には粗末な小屋があり、常に幾艘かの棺舟が置かれている。そこから一人の老人が出てきた。浜の大長老ギンカである。授かり岩の管理はギンカ一族であり、葬儀にはギンカが立ち会うことが多い。
ギンカは細身のからだを少し前かがみにして歩く。しかも気難しい顔で常に考え込んでいるので簡単に話しかけることができない。ひどいなで肩で手足が長く、頼りなくも近寄り難い。若い時からそうであったが年を取ってから筋肉が衰えてしまい、頼りないというよりは情けなくも見えるようにもなった。その姿をウルクは「カマキリ」と称し、しばしばギルを激怒させていた。
この日のギンカも難しい顔をして、大きな掌で口を包み込むようにして考え込んでいた。
ガクウはギンカを目にとめると静かに歩み寄った。
「ギンカさま」
ギンカはふと顔を上げ、
「ガクウか」
とため息まじりに返事をした。ガクウは声を落として
「何艘でしたか」
ときいた。ギンカはふっと笑った。
「聡いのう。二艘、消えておるわ」
「さようで」
浜辺には静かに波が打ち寄せている。湿った風が吹きつけた。
ガクウが口を開いた。
「やはり、クニ抜けで?」
「まず間違いないのう」
空は赤黒い雲に覆われはじめている。ギンカは海の果てでもみるような目をした。
ガクウは瞳をせわしく動かして作業者たちに厳しく指示をしながら、からだだけはギンカのそばから離れない。ギンカはガクウのききたいことがなんであるかよくわかっていたが自分からいう気にはなれず、かといってガクウから離れることもできなかった。
「それで」
ガクウが探るようにして問うと、ギンカはあきらめたように答えた。
「ふう。白浜から一艘。七浦から一艘消えとる」
「恐れ入ります。南には行方不明の者がおりますので」
「じゃろうな。ガンザンもウルクも同じ質問してきよったわ」
「さようで。西でもクニ抜けが」
「そのようじゃ。さすがにあれの情報はこたえたとみえる」
ギンカはそういって棺舟に収められた白い布の塊をあごで示した。
「ええ。・・・しかし、抜けられるわけがない」
ガクウの声は冷徹に響いた。
ギンカはガクウの声を聞くに堪えず、特に聞く必要もない質問をした。
「ガクウ、コウさまは」
「数珠の念入れでしょう」
「そうじゃったな。御前谷に巳の中刻に集合じゃったの」
「はい。数珠を受けとってそのあとナツイの葬儀をいたします」
「ふむ。クニ抜けの報告が遅れるのう。コウさまがいまどこにおられるか、おまえ知っておるか?」
「存じません。コウさまのことは長老の皆さまのほうがよくご存じなのでは?」
ガクウは右頬を少しひきつらせるようにしてギンカを見た。ガクウの右頬に赤い朝日があたっていた。ギンカはそれがまぶしいふりをして片目をしばしばさせた。
「なんの、わしらが知っとるもんかい。いや、知らんのじゃったら別にいいんじゃ」
ギンカはそういうと、ガクウにくるりと背をむけ、
「じゃ、ガクウ。あとは万事頼む」
といって手をあげた。
「かしこまりました」
慇懃な返事をしてガクウは作業場に戻った。
ギンカの歩幅が自然と狭くなる。
クニ抜け。
確かに昔は頻繁におこなわれていたものだった。やみの力が強く、毎夜のように幾人も呑まれていけば精神状態が普通ではなくなる。この国から逃げる手だてを考えるのはとうぜんであろう。
三方を高い山で囲まれている。その険しい山奥に足を踏み入れようものならやみに呑まれるか、獣に襲われるか。いずれにしても命はない。命からがら戻ってきたものが過去には数名いたが、戻ってきたときには正気ではなかった。羽犬に乗って山を越えようとしたものもいた。が、なぜか羽犬は途中で戻ってくるらしい。羽犬だけではない。牛や馬、山羊までもが山を越えようとしない。
そこで望みは「海」となる。海の向こうに陸地があるという保証はないが、昔、モトン族の祖先は海を渡ってきたといういい伝えがあり、人々はそのいい伝えだけを頼りに舟でクニ抜けを試みるものが多かった。
しかし海にもやみひとは存在する。一日中海の上にあの小さい舟で浮いていたら必ずやみひとの餌食になる。また呑まれなかったとしても生きて戻ってはこない。戻ってくるのは死体ではない。肉塊である。
東浜村には「戻り浜」という海岸がある。舟の破片や誰のモノともしれない肉塊が戻ってくる浜であった。そこには腐った腕の一部や髪の毛のからまった頭部などが魚に食い荒らされた姿で打ちあげられる。
クニ抜け防止のための「みまわり役」が置かれている。東浜村の管轄であった。「みまわり」は夜中であるので当然祓い師が配置される。しかしここ数日間は全祓い師が避難所の管理に当たっていた。
ギンカが考えこんでいるとうしろから肩をポンとたたかれた。
サキイであった。
「仕方なかろう。いままでもそうじゃった。ここんところ少なかったから油断しとったがの」
サキイはしわがれた声でひっそりといった。ギンカはことばが出なかった。「油断」ということばがギンカの胸にずしんと響いていた。
(確かに油断していた)
「すべてをしょわんでもええ」
サキイはしわくちゃの顔を少し伸ばすようにして目を開いていた。サキイなりにまじめな顔をしているつもりなのかと思うと、それがおかしくいじらしく、ギンカは少し笑った。
「わかっとるわい。・・・それにしてもおたくの村長どのはまったく聡いことよのう」
ギンカは嫌味をいってみた。
「そういうな。あれでもわしにゃあ、かわいい娘婿じゃ」
サキイはあごをつんと前に上げるようにしていった。
「わしらのことは村長たちにはもうばれとるかのう」
「まあ、わからんような村長はちょいと鈍かろう。わかっとらんのはギルだけじゃないかのう」
「サキイよ、おまえはなんもわかっとらんのう。ギルはおたくの婿さんより聡いぞ。あまりにも聡いために変人扱いされてきた。じゃから慌て者で愚かなふりしとるんじゃ。ま、本人は自覚しとらんがの」
「へっへっへ。あんな慌て者でもおまえさんにはかわいいか」
サキイは抜けた歯を見せながら笑った。ギンカは軽く舌打ちをした。
「そうじゃあ。おたくの高飛車な婿どのよりよっぽどかわいいわい」
「確かに高飛車じゃ。ひゃっひゃっひゃ」
サキイは豪快に笑ったあと、しまったというように口に手をあて、
「こりゃいかんわい。葬儀の準備中じゃった」
と舌を出した。ギンカはにやにやして
「ほーれ、かわいい婿どのから睨まれるぞい」
と小声でいった。
サキイは「こほん」と一つ咳払いをしてちらっとガクウを見た。ガクウはやっぱりサキイを睨んでいた。サキイは内心ぎょっとしたが、何事もなかったかのように厳粛な顔つきを作ってガクウに目を合わせ、しかめつらしくうなずいてみせていた。ガクウはあきれたような顔をして作業に戻った。
ギンカはふたりの一連のやり取りを眺めながら、サキイの人柄に感服した。
(いまさらながら、あのガクウを手元におけるのはサキイしかおらんのう)
「ところで」
ギンカはそう切りだしたものの、ことばを止めた。サキイはしびれを切らして
「なんじゃい。はよいわんかい」
と促したがギンカは黙っている。
「いわんのやったら、わしゃ、ガクウんとこに行くで」
サキイが歩き出すとギンカがやっと口を開いた。
「いや、あのこともそろそろ長だけには伝えたほうがええと思うて・・・」
サキイは足をとめてギンカにむきなおった。しかしギンカはサキイに背をむけていた。
「ほんにおまえさんは若い時からうじうじと考えてばかりじゃ。なに、焦るこたあない。すべてはお空さまの御心のままじゃ。コウさまを信じとりゃええ」
「そうなんじゃがのう・・・」
ギンカは朝焼けの光を背にうけていた。サキイはその背中をしばらく眺めていたが、おもむろにこぶしを作って思いっきり、がつんっと殴った。
「あたっ! な、なんじゃあ」
ギンカは細長い手を後ろにまわしながら慌てて振りかえった。サキイは顔をしかめ、こぶしを構えたままであった。
「ふん。腰が痛うなかったら、蹴り入れとったわ! あほうめ。そんなことより今日は雨になる。そっちのことを考えんかい! わしゃ、もう行くで」
サキイはさっさとガクウのところに戻っていった。ギンカはサキイの忠告は効き目がなかったらしく、やはり考えこんでいた。
(サキイもずいぶんと弱くなったもんじゃ)
サキイとその妹ヨキイはともに粗野で暴力的であった。とにかく人を叱咤する。
「病気になるやつはうじうじ考えよる。すべてはお空さまがいいようにしてくださると信じられんからじゃあ」
などといってところ構わず人をひっぱたく。不思議なもので叩かれたところが後になって熱くなり痛みが和らぐ。完治するものまでいた。どうやらその掌には「治癒の気」がこもっているようで、人々は喜んで叱咤され、叩かれた。
サキイ、ヨキイの村、南麓村は牧畜・放牧・畜産などが盛んで、四足の肉こそ食しないが鶏肉は食し、牛や山羊の乳を生産する。また田畑では牛、馬が使われる。羽犬はあくまでも急ぎの用事や番犬であり、荷物運びや畑仕事には適さない。南麓では羽犬、牛、馬を提供することで生計を立てているものが多い。
自然、家畜の病気やけがなどを診る「獣医」が必要になり、サキイ一族は代々その家系であった。それから人々の病気やけがも診るようになったと言われている。
南山には古くからたくさんの種類の獣がいるとされていた。したがって四足の肉を食するモトン族の「山つき」は南に多く棲む。西、北の山にも獣はいるが根源はどうやら南山で、食べ物を求めて西と北に移り棲んだといわれていた。あの白狼犬も空の神の庭から南山の頂に降りてきたといういい伝えもある。
三方の山はそれぞれに高く険しい。一番高いのは西山であるが、奥深く険しいのは南山であった。それだけにいまもどんな動物が生息しているのか未知であり、未知の動物とやみが互いに捕食し合いながら共存しているかと思うと、空人たちは底知れない恐怖を覚えた。
そのなかで獣の保護、研究をし、獣医の役割を担ってきたのがサキイ、ヨキイ姉妹の一族であった。獣を愛し、人間と同じ生命体として尊重し、人から虐待されていないか管理し、それを生業としていた。
サキイ、ヨキイの姉妹は子どもの頃から、他の村に提供された獣たちが南麓村ほど丁寧に扱われていないことを憂えていた。ふたりは能力者であったので早くから祓い師として実力をつけ、村の有力者になることで他の村に干渉し、獣たちの保護をしていくことを目的とした。
サキイ十六歳、ヨキイ十五歳の頃。ふたりは当初の目的を果たした。サキイは若くして村の長補佐になり、ヨキイは教育指導役となる。当時の南麓の長にふたりは嘆願し、許可をもらい、各村に直接赴き、真の飼育について説いてまわる機会を得た。
ふたりの働きによって一時的に獣たちの飼育環境も改善され、仕事率もあがった。が、こういうことは定期的に伝える場を設けないと定着はしない。ふたりは教育の場を各村で設定したかったが、なんといっても空の国では呑み込みを阻止することが最優先である。「獣の飼育環境改善を!」などと呼びかけたところで各村役は、いや、巫女でさえ二の次に考えていて定期的な開設に至らない。
そのころ中央の学び場ができて四年が経っていた。巫女タイが十七歳の頃(当時の西麓村の長、ヨク十七歳、北麓村の長、テルイ十九歳)に作った学び場であり、主に祓いの学びがなされていた。が、村の有力者が集まる場でもあり、自然と村人の悩みなどを互いに話し合うようになる。するとそこが情報交換の場になった。東浜からは製塩法や漁法。西麓からは農法。北麓からは建築法。そして南からは獣の飼育法である。
サキイとヨキイはそこを利用することにした。家畜についての簡単な悩み相談の時間を設け、管理の状態に危険を感じればすぐに出向いて獣たちを診る。ついでに人も診る。そのうえで病気やけがだとわかれば無償で治療するという強硬策に出た。
その動きは評判になり、各村の有力者たちを通じて必ず情報が入るようになった。また、サキイとヨキイに弟子入りをしたいという者も増え、活動する労働力も増えたため四つの村を管理できるようになった。
サキイ、ヨキイ姉妹が精力的に各村に出張り、献身的な治療をするようになって人々は活気に満ち始めた。「献身的な」といったが、それは求められていなければ「ただのお節介」として疎んじられる。求められていれば、つまりその場の気に合えば「神の遣い」とさえいわれる存在になる。
事実、サキイとヨキイは「神の遣い」であった。彼女たちは自分たちでも理由はわからないが、得体の知れない大きな力に強く引っ張られるようにしてがむしゃらに動いた。それは彼女たちのからだの力を優に超えていた力であったし、まさにわが肉体を使って「お空さまの力」を実現したのである。
姉妹はモトン族「山つき」の血が濃く、ずんぐりとした体つきで胸板が厚く手足が短い。頑丈な腰を持ち、その体力は驚異的であった。山奥にいる患者(たいていはモトン族「山つき」)の住まいにもふた時もあればたどり着き、その日の昼過ぎには下山してきたかと思うと、もう隣の村へと移動する。
ふたりとも恋愛も結婚もせずに(少なくともギンカの知っている限りでは)空の国の医療だけに命をそそいでいた。しかしサキイは三十過ぎた頃、娘を産んだ。それがアキである。父親が誰なのかサキイは決して明かさなかったが、アキはサキイ以上にずんぐりとした体格、奔放な性格、敏捷な動きといった特徴があり、父親は「山つき」だと容易に推測できた。
サキイはアキを出産する前日まで働き、出産した翌日から働いた。よくも動けたもんである。アキの首が座ってからは常に背中にアキをくくりつけて働いた。アキの存在は、サキイ、ヨキイのふたりにささやかな幸せをもたらした。
アキは天真爛漫な娘に育った。はっきりいって美しくもなく女らしくもなかったが、底なしの体力と医者としての知識と包容力を持っていた。南麓村の各里に神出鬼没し、出会う人々の病気を治し、生きる勇気を与えた。本人にそういう自覚はなく、ただなんにでも首を突っ込んでいただけであったが、空の国全体でも有名になっていて、美人でもなくきわめてモトン族に近い娘がここまで空人に人気を得ることは奇跡といえた。
そのアキがあのガクウと結婚することになったときは、空の国全体がどよめくほどの衝撃であった。いちばんの嫌われ者ガクウといちばん人気のアキ。もちろんガクウの政略結婚だということは皆の知るところであった。しかし、アキの器は偏執したガクウをあっさりと取り込んだ。夫婦仲がよく、アキは家庭的になったし、ガクウは社交性を帯びてきた。このことも奇跡であった。サキイとヨキイの人生でいちばん幸せな希望に満ちた時期だったのかもしれない。
しかし、アキは原因不明の重い病気を患い、死に至った。その間もふたりは淡々と働き続けていたのでアキの死に目に会えなかった。彼女たちにとっての仕事、つまり空の国の医療を支えることが、生まれながらにしてからだに植え付けられた「一定不変の作業」なのだ。その作業の中でふたりに訪れたささやかな幸せは空の国の奇跡にまで膨らみ、そして一気に消失した。ふたりが体験した哀しみと絶望の大きさは計り知れない。
ガクウはアキとの結婚前より陰湿で屈折した性格になってしまった。医療の現場はガクウに完全に後継されているが、ガクウの統治と医療の方向性が徐々にいびつな軌道を刻んでいくことが多く、サキイとヨキイは日々、軌道修正に頭を悩ませている。現場に出向くことがなくなってからもふたりの「作業」は一度も止まることなく続いていて、これからも淡々と続くのだ。
ふたりの体力も気力もめっきり衰えてきていることはギンカの目から見ても明らかであった。年齢ということもあろうが、やはり「お空さまの力」の体現者というのは無理がたたるのであろう。
ギンカはサキイの小さくなった背中を、腰をおさえ脚をひきずるようにして歩く姿を、まぶしそうに目を細めて見つめた。
(お空さまに愛された存在。それゆえに衰えたからだ。美しいもんじゃ)
後先考えず神の力をそのまま実行するには、あのふたりのような頭の中に存在すると思われるねじが何本か足りないのではないか、と思ってしまうほどの「変わり者」が都合がよいのだろう。
(ギルもその類じゃな。わしのようなうじうじ考えるもんはお空さまも使いにくかろうて)
そう思ったとたん、ギンカはふふっと笑った。これはギンカの癖であった。思うだけではなくついことばにしていってしまう。他人と比べて自分を卑下してしまう。それは大長老と呼ばれるいまでも直っていなかった。ただあるときから、もうひとつのことばを付け加えることができるようになった。
(いや、使い方はいくらでもある)
これは巫女ライがギンカに伝えたことばであった。
ギンカが十五歳のころ、浜の村長補佐として村役会議に出席した初日であった。ヨク、テルイ、サキイ、ソウイ、といった実力者を目の前にしてことのほか緊張し、つい、
「私のような小心者は、お空さまもどうしたものか考えあぐねていらっしゃるのではないでしょうか」
とお決まりの卑下することばを発した。すると当時の巫女ライがギンカの顔をじいっと見てこういった。
「ギンカ、空の神を見くびるな。使い方はいくらでもあるのだ」
そしてライは豪快に笑ったのであった。
(ライさま)
そのライが崩御する前にギンカはライに約束したことがあった。クニ抜けを防ぐことであった。だからこそ今回防げなかったという事実は後悔しても後悔しきれない。
ギンカは肩を落としたまま、とぼとぼと小屋の中に入っていった。背中がじんわりと温かくなってきたことだけがギンカの心を支えていた。




