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ゴーレムマスター師弟、新たなマスターに出会う(3)

 去り際にゲアリック(従兄)が語っていたパイリン襲撃計画では、徒歩で森を北に抜けるであろうパイリンの移動速度を推定し、翌日の昼に戦爆竜ヤーボドラッケンに乗った強盗団員が発進、追いかければ森を抜けるタイミングで補足可能、というものだった。


 森の中で襲撃をかけるより、草原を抜ける街道でなら逃げ隠れもできず、しかも北の街の警察権の及ばないそのあたりでの襲撃なら確実、ということだろう。

 同時にそれは、昼前までは少なくとも連中の主力がアジトにいることもまた確実、ということを意味し、逆にこっちから奇襲をかけることもできる、ということだ。


 南の方に逃げるという選択肢はない。ゴーレムの実戦試験、加えて賞金により、次にゴーレムを動かすのに使うための宝石の購入……あ、あとついでに悪党退治して世のため人のため(優先順位、最下位)、これらを同時に行えるチャンス。彼女にとってリスクはいつものこと、どうってこたあないのでる。


 「だから今夜はのんびりと、風呂につかって鋭気を養え、明日のためのそのイチ!」

 つまりパイリンは、早くに休んで戦いに備えよう、と言いたいらしい。もっともアントンだけは別、例の鎧の加工作業の続きにおおわらわ、である。


 具体的に何をどうしているのかと言うと、二メートル近い身長の騎士のための鎧に、パイリンがうまく収まるようにしようというのである。もちろんパイリンの方がずっと小さいのだから入れること入れるのだが、手足の長さが足りないので「着る」というわけにはいかない。そこで脚などは内部を高ゲタ構造にして、腕に新たな関節部分を追加したり、フレキシブルな背骨にあたるパーツを新造したり……で、これヘルツマンにするのに使うはずなのに、そんなことしてどうするの?とも思ったが。


 「第四世代ゴーレムの、新しい使い道の実験だから、絶対明日までに間に合わせれ」

 とのお達しなので仕方がない。一番面倒な背骨部品の新造は、流石に間に合いそうもないので近所の大工や鍛冶屋、金物屋を回って、蝶番など部品として流用できそうなものを見繕い、いろいろ組み合わせやっつけた。しかし時間の割には決して悪い仕上がりではないし、なんとか徹夜もせずに済みそうだ。


 *


 さて一方、いろいろアレな点は多々あれど、美少女といえば美少女なお二方は、ご入浴の最中である。

 この宿場では自分で汲み上げた水と拾ってきた薪で湯をわかし、風呂場を借りるだけなら格安である。水も薪も豊富な地であるし、手回しで噴水するシャワーと小さなバスタブ、仕切りのカーテンしかない野外の簡易風呂だから、まあ安いのも当然だろう。

 バスタブが狭いのに、無理矢理二人は一緒に浸かっていた。こうすると水かさが増して肩まで浸かれるのがいい、というパイリン流生活の知恵だという。


 美少女二人が全裸で密着、と表現するとビジュアル的に素敵な読者サービス、という感じではあるが、今のところこれは絵物語ではないので見えないのである。ちなみに大昔は少年ガンガン掲載の読み切り漫画だったけど、こんなシーンは無かったし、残念。


 互いに手回しポンプのシャワーを浴びせてやったり、背中を流し合ったり、昼間にいろいろやりあっていたわりには随分仲良しそうに見える。

 「わ~、パー子さんてけっこう胸、大きくないデスか?巨乳《きょぬ~》って感じじゃないけど、張りがあって形もなんかツンツンしててカッコいいし~」

 「ハッハッハッ、そーゆーエッちゃんてば、全然おパイないのな」

 「社交辞令もないデスか、このヒト!ビーちゃんボーちゃん、殺っちゃいなさい!」


 ……ううむ、仲良しというべきなのだろうか、これは?ちなみにあの二匹の死霊たちは、シャワーカーテンの外でフワフワ漂っていて、主人(?)を侮辱した女を成敗しようとか、そんな気配は全く無い。


 「ところでエッちゃん、お前ってばなんでまた賞金稼ぎなんてやってんの?他にもっとマシな仕事ありそうじゃん、見た目だけはかわいいんだし、でもおパイ小さいけどな」

 「森精系エルフォイドだから小さくて普通なのキィキィ(ヒステリー)!あと仕事とおパイ、関係ないデスし~」

 「いや、その顔とスタイルで、もし巨乳なら貴様は天下を獲れるッ!」

 いったい何の話だ?


 「冗談はさておき、やっぱまともな仕事してないのは、ゴーストマスターなのと関係あんの?」

 アントンがこの場にいれば、「師匠、他人のこと言えないでしょ」とツッコミを入れそうな発言だ。

 「う~ん、あたしは平気なんデスけどぉ、おバケが普通に見えるのがキモい、とかよく言われる」

 「あの二匹みたいに実体化してない幽霊でも?」

 「見えるデスよ~、死んだお父さんとか、たまに会いににきてくれるし」

 「こええよそれ!成仏してえねのかよ!!」


 それが本当なのか思い込みなのかは定かでないが、少なくともエンジェラが死霊に守られているらしいのは、状況証拠的に事実なのだろう。

 「お父さんも賞金稼ぎだったんデスの。でも二年前に、強盗団に返り討ちにあって死んじゃったデス」

 「……なるほど……もしかしてその仇討ち、ってことで後を継いだのか?」

 「ゲアリック強盗団の一つがお父さんの仇みたいだけどぉ、ここのゲアリックなのか余所なのか、よくわかんないけデスど一応」


 「それで、オレと組んでヤツをやろうってことか……」

 「うううん、お父さん(霊)も仇とらなくてもいいからって言ってたし、それよか同い歳くらいの女の子の同業者って、珍しいからお友達になろうかなぁって思ったのデス」

 「なにそのヌルい理由!あとオレはこう見えて十八ですが何か」

 「ええっパー子さんてばあたしよか三つも上なのデスか、エッちゃん驚愕!さすがおパイだけはご立派なだけのことはあるデスね」

 などと言いつつパイリンの乳をぽよんぽよんともて遊ぶエンジェラ。またもビジュアル的においしいところだが、残念、やはりまだ絵物語ではない。



 「あっ、師匠。ヘルツマンの鎧の改造、終わったから見てください。元設計からいじった部分があるんで、気に入ってもらえるかどうかわかんないけど」

 湯上がりでいい匂いの湯気を漂わせた二人の少女に、ちょいとドキドキしながらアントンが声をかけてきた。どれどれ、とパイリンは、自分の体に鎧の手足を当てて、試してみる。

 「早いな仕事!……おお、機能を損なわない程度の簡略化が大変宜しい、アレンジが上手いな。」

 必要充分な出来で締め切りに間に合わせた仕事っぷりが評価された。このあたり、決していきすぎた理想主義の職人でも技術馬鹿でもない、実戦主義の彼女らしい物の考え方だ。


 しかし裸にガウンをかけただけの状態でやってるので、あやうく胸の先やらナニやら見えそうなアングル続出、アントンは真っ赤になって目をそらす。

 「絶対に手を抜くべきじゃない部分は、きちんと分けて仕上げてるし、構造を理解してやってるいい仕事だ」

 互いに「わかってる」職人同士。そのお褒めの言葉のうれしさに、さっきとは違う理由で、少年の耳が赤く染まった。


 「よしよし、ご褒美として風呂場に行って、美少女二人のだし汁を、思う存分腹に満たし堪能してくるが良い」

 「言ってる意味はよくわかんないけど、絶対エロい話を振られてるよ!」

 だいなしだよパイリンさん。普通に「よくやった、残り湯があるから一風呂あびてこい」とか言えないのだろうか、この人は。


 「では早速、ヘルツマン復活の儀を執り行う~。皆も唱えよ、エコエコアザラク、エコエコゾメレク、エコエコアラデア、エコエコケルノーヌス~」

 なんだその呪文、そりゃむしろゴーストマスターっぽいんじゃね?

 「とゆーのは冗談で、ヘルツマンを作るところを見せてやろう」

 今のは一応ボケだったらしい。


 パイリンは風呂場にまで持ち込んでいた、旅の荷物を治めたバッグの中ををあさり、あの角の丸いハート型の装置・心臓ヘルツを取り出す。そして中心にある宝石をはめ込んだ軸をキリキリねじると、時計仕掛けが作動して、かすかに規則正しい音が聞こえてきた。


 「『呪文パスワード』」

 その一言に反応し、ヘルツ全体に光の模様が浮いて出た。中心の宝石から、心臓ヘルツの外装の隙間から見える細かな配線に輝く動きが見える。

 アントンとエンジェラは、そこに「見えない何か」の気配を感じていた。中心のルビーは言うなれば「入り口」であり、何処かの空間からそこに流れ込んでくる「何か」が、心臓ヘルツ全体に力を与えている感覚。


 特に常人に見えない物を見ることのできる死霊ゴーストマスターは、その「力」に含まれる「意志」さえ感じ取っていた。

 この光、生きている……エンジェラは漠然とそう思った。そしてそれを肯定するかのように、心臓ヘルツは本物の心臓のような脈動を始めた。

 パイリンは心臓ヘルツの稼働の具合を確認すると、床に寝かされた全身鎧の胸に、それを載せて詠唱を続けた。


 「『ハインリッヒ』!『エーミール』!『ルードヴィッヒ』!『テオドール』!『ツァハリーアス』!」

 一瞬心臓ヘルツがふくれあがり、その裏側から大量の「根」が吹き出すように生えだした!そして鎧の胸部装甲を浸食したそれらは、鎧の裏側一面を覆い尽くしていく。


 「呼ばれし名に課せられし、己が役目を果たすべし……『ヘルツマン』!」


GOOOOOOOOOOOMゴオオオオオオオオオオム


 アントンが列車の中で初めて出会い、鷹竜の攻撃で破壊された、あの鎧の大男・ヘルツマンが蘇った!むくりと立ち上がったヘルツマンは、人間そのものの動きで歩き、主人であるパイリンの前に跪いた。


 衝撃的な巨大なゴーレムの出現に比べれば、ささやかな復活シーンではあったが、ゴーレムを初めて目撃したエンジェラは興奮している。

 「ねえねえ、これ生きてるデスか?」

 「正確には『宿している』というべきだな」

 パイリンは説明を続ける。

 「中心の宝石はシステムの起動に必要なエネルギーの発生源であると同時に『どこからか』流れ込んでくる力と意志を集めるのに絶対必要なユニットであ~る」

 なんだか偉い学者の講義っぽくなってきたぞ。


 「これは今を去ること十五年前、それまでのゴーレムに比べ、作り方が格段にシスティマティックになった第三世代ゴーレムから使われるようになった。

 それまでのゴーレムは粘土細工みたいなもの……ああ、第一世代ゴーレムなんかは実際、泥人形にお札貼って、使役するようなシロモノだったしな」

 「師匠、それはどこからくる、どういったモノなんですか?」

 「これタマシイがあるみたいに感じるんだけどぉ、そうなんデスか?」


 「フフフ、実は何百年もの歴史を持つゴーレムマスターの歴史において……

 それだけは未だに解明されてない、最大の謎なんだよ!」

 「な、なんだって~!?」

 わかってなかったのかよ!それであんなに強力なモノが扱えるのか?

 「いや、原理がわからなくたって『使う』ことはできるんだよな。たとえば塩や酢に漬けた食い物は、腐りにくく長持ちする、と皆知っている。でも、何故そうなのか?とは昔の人は知らずに、そうなるという経験上の結果だけを知っていて、保存のきく漬け物にして喰っていたわけじゃん?」


 「え~っと、つまり『ゴーレムが何故動くのかはよくわかんないけど、それを作り従わせる方法は知っている』ってコト?」

 弟子の即答に対し、パイリンは笑顔で頷いた。

 「正解だ!褒美としてエッちゃんのぜんぜん無い胸を、思う存分なでまわすことを許可する!」

 「人として御免こうむるッ!」

 だめだこの人、最後には絶対こっちの方向に行ってしまう……人を感動させるようなことは、例え一ミリ秒でもやりたくない意地とか理由でもあるんだろうか?


 「ここではない『何処か』に居る『何か』が、宝石を通してやってくる……それは実体のない霊のような、エネルギーの塊のような、しかし明らかに『意志』を持った存在だということは、ヘルツマンを見ればわかるな」

 バカ発言など無かったかのように、まじめな声でパイリンの講義が続く。

 「そしてそれにゴーレムという『体』を与えると、不思議なことに『何か』がこちらの言うことを聞いて、役にたってくれることがあるとわかった。


 そして、長年かけて何をどうすればそうなるのか、どう命じればどう動くのか、という法則性が少しずつ明らかになっていった……犬とか馬の調教の仕方とか、野菜や果物の品種改良が発達していったようなもの、だな」

 なるほどわかりやすい例えである。今は亡きゲアリック(従弟)もあの世で聞いていたなら感心しているだろう。


 「同時に、ゴーレムを作るための技術も進歩していった。呪いの泥人形みたいな第一世代ゴーレムの頃は、『何処かから来る何か』の存在すらわかってなくて、呪いの札に術者自身の持つ魔力が宿るとか、間違って解釈されてたようだしな。魔法マジックマスターもそうだが、使い手自身の魔力なんて微々たるもの。要は力を貸してくれる『何か』の使いかたを解明し、それに用いる体を開発、体系化したのが『魔像使い』なワケだ」


 ふむふむ、とアントンは興味津々で話の続きに聞き入っている。

 「第二世代になると、それまで大味な作りの像だったゴーレムの構造が、最初から大きなからくり人形のような可動部の多いものとなり、動きが格段に良くなった。この世代のゴーレムは実に二百年もの間に少しずつ発達していったが、コントロールの技術と、『何か』の器となる体の素材や製造技術が多様化し、初期と最後期では、全くの別物と言って良いほどの進歩ぶりを見せたのだ。


 18年前の内戦で活躍したのが、この世代の最後期型であ~る。アントンも見ただろ?ヴィルデグリュンの平原に朽ち果てた、たくさんのシュタイン・ゴーレムを。アレは加工が雑でも問題なく動く、量産が容易で稼働時間も長い、実に実戦向きな『働きワークホース』なゴーレムだったのさ」

 「じゃあ、それを復活させた師匠版のゴーレムは、第三世代?……アレ?たしか以前、第四って言ってたよね?最新型の」


 「第三世代と第四世代の差は、その制作にかかる時間の劇的な短縮にある!

 第二世代最後期型をベースに、あの根だか触手みたいな神経策を全身に張り巡らせる『心臓ヘルツ』……伸ばすのが神経なのに『ゲヒルン』じゃなくて何故かこう呼ぶんだが、それを搭載したのが第三、それを宝石コアの導入で得た圧倒的エネルギーの流入により、きわめて短時間に素材から加工して、ゴーレムを完成させてしまうのが、第四なのだ」


 ふむふむ、だんだんわかってきたぞ。

 「じゃあ、ヘルツマンは第四世代ゴーレムになれる、第三世代ゴーレムってこと?元になる鎧はできあいのものだから、今は第三でしょ?この前の岩石ゴーレムは、素材が壊れた第二世代だけど、加工されてるからほぼ第四世代、つうか三・五世代?」

 「またまた正解だ!褒美としてエッちゃんのはえてないツルツルの……」

 「もはや聞く耳すら持ちたくな~いッ!!」


 もっとも余計な情報公開の犠牲者たるエンジェラは、何を言われているのかちゃんと認識してもいないのか、ぽわ~んとした感じで聞いていたが、おもむろに挙手して発言した。

 「は~い、ところでゴーレムってなんデスかあ?」

 

 …………。


 「今頃になってそれか、馬鹿エルフ~ッ!」

 「いやでも師匠、エッちゃんさんは、大型ゴーレム見たことないし、さっきヘルツマンを見たのがゴーレム初体験だったんじゃないの?」


 …………。


 「むう、言われてみればそうだった。特に最新の第四世代を目撃した部外者は皆お亡くなり……いや、オレと戦った賞金首ばかりだったから。もちろん、第四世代のキモたるヘルツマンの制作過程も見せられるのも、弟子たるお前くらいで……」

 「アレ?でもエッちゃんさんは弟子じゃないでしょ?」


 …………。


 「しまったぁぁぁ!部外者に秘密が漏れた!スパイだ!スパイがシークレットをゲットしてランナウェイ!追跡班出動せよ!!」

 何言ってんのこの人。つ~か、自慢しながら全部見せちゃったのは自分自身じゃなかったか?

 なんかショック状態の硬直した表情でプルプルしてるパイリン、脇に置いてあった着替えの中から仕込み籠手だけ取り出した。そして腕に付けるや否や、籠手同士を打ち付け合って仕込んだ刃を出し、クルクル回りながらエンジェラめがけ突進する!


 「なにやってんの師匠~ッ!」

 無意味にクルクル回るもんだから、バスローブがはだけて一瞬お尻が見えたので……じゃなくて、刃をエンジェラの首筋に近づけたパイリンに対し、アントンは叫んだ。

 対してパイリンは脂汗を顔に浮かせ、重々しく宣った。

 「このパイリン、ゴーレム・ハイ・マスターの身でありながら一生の不覚、かくなる上はこの娘をぬっコロして我が主、グランドマスターにお詫びを」

 「そこは自決して詫びるところでしょ、普通は!」

 「うるさい黙れ馬鹿弟子めが、オレに死ねとゆ~のか、貴様の血は何色だ~っ!……たぶん艦底色(錆止め)+モンザレッド」

 「知るか~ッ!」

 やっぱ駄目だわこの人、ある意味天才だけど、それ以上に天才と紙一重の何かの方に限りなく近いような悪寒。


 「それにエッちゃんさんを攻撃したりすれば……」

 いつの間にやら二匹の死霊は、軽く二倍の大きさに膨れあり、ぼんやりと青白く発光している。しかもなんだか、顔の彫りが深くなっていて、ちょっと不気味な表情に見えるのは気のせいか?さらに怪しげかつ生ぬるい気流が、どこからともなく流れこんできてるし……こ、こわ~。

 「なぁんちゃって、今のナッシ~ング!」

 そう叫んでパッとエンジェラから離れるパイリン。すると死霊たちの外観はシュルシュルとしぼんで、元ののほほんとした、拳大のぬいぐるみ風に戻ってしまった。


 「ねえ師匠、こうなるとエッちゃんさんも弟子、は無理としても、今後も旅のお供に連れていくしかないんじゃないの?」

 「ふむう、そして毎晩貴様がエロエロ調教、身も心もドロドロにしてやって『ご主人さまぁ』とか言わせてミート奴隷スレイブに、という魂胆だな。うおお、我が弟子ながら末恐ろしい奴よ~」

 「あんたのその品性だけは、今すぐ地獄に堕ちて欲しいですッ!」


 もはやお約束になりつつあるダメ会話のパターンを打ち切って、パイリンはエンジェラの方に向きなおる。

 「というわけで……イヤお前のことだからよくわかってないだろうが結論として、今からオレたち仲良しグループ、一緒に悪党ぬっコロし旅の道連れ」

 「え!これからもず~っと一緒でおともだちデスか!エッちゃん感激~!!」

 なんかアレな部分は脳内フィルターで自動削除して、好意的に解釈したみたいだぞ。


 「と、いうわけで明日のために今日は寝る!ちなみに部屋にはセミダブルベッド一つなので、三人で仲良く川の字スリーピング・ナウ!」

 「いや師匠、ボクは床でもソファーでも……」

 「却下!貴様は御添い寝としての義務を果たすべし!」

 実はアントン、一緒に旅を始めてからというものの、同衾を強制されていたのである。女の子に対し免疫のない彼は猛然と抗議したが、

 「旦那と長く離れていて、独り寝が寂しいの、だからウフフ」

 などと浮気妻か未亡人みたいなパイリン(18)の命令で。


 そして、今晩は美少女二人に挟まれてのヘブン状態。十代男子にとって夢のような状況なのだが、免疫が無いので緊張するばかり。後頭部にはパイリンの胸のぽよんぽよんした感覚、顔の方にはエンジェラのささやかな膨らみ……はともかくいい匂いがするし、生殺し状態である。少女二人の方は、少年一人ごとき気にする程ではないようで、あっさり眠りに落ちてしまった。

 しかし、その匂いに包まれているうちに、彼は幼い頃に死に別れた母親のことを思い出していた。

 少し涙が出て、しかしもう何年も一人で生きてきた男が今更情けないな、と思いつつ、程なくアントンも寝息をたて始めた。 (続く)


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