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地獄の用心棒・決闘銃砲市場(6)

 城塞ツィタデルゴーレム!その素材が木であろうと石であろうと鉄であろうと、建築物とその中にあった武器や器材を取り込み、ゴーレムの形に変化させたもの。故に名前が他のゴーレムのようにその素材ではなく用途になっているという、珍しい例である。

 他に比べ大きく重く動きは鈍くなりがちではあるが、その建物にあった火器を多く取り込んだ場合、その名の通りの動く城塞となり、あらゆる敵からの攻撃に耐え、大火力をもって粉砕するのだ。

 そのゴーレムが今二体、僅か数十メートルの距離で向かい合い激しい砲撃戦を開始した。噴き出す炎、広がる煙、響く爆音、飛び散る破片、たった二人のゴーレムマスターによって行われる、砲兵大隊レベルの撃ち合いだ。

 「クソ!近すぎて互いに回避も何もできやしねえ!先に弾が切れるか、ゴーレムが壊れるか、耐久力勝負になっちまった!」爆発と破片から逃れ走るパイリンの姿。

 相手が城塞ツィタデルゴーレムより小さいならその巨体と重量での体当たりも有効な攻撃手段だが、同型のゴーレム同士では意味が無い。


 「ヘルツマン!『地獄のフィア・ディア・ヘレ』!!」

 パイリンの叫びに応え、彼女のゴーレムは両腕の肘を曲げ腰だめに構える。同時に両肩の上にある、元は発射器ランチャーの砲座だった塔の部分が前に倒れる。すると両手両肩の四箇所、それぞれ四連装の砲身が正面を向く形に!

 「全門発射フォイアーフライ!」

 4×4,全部で十六発の噴進ロケット弾が一斉に放たれる!相手から受けた弾に倍する反撃、いや、直ちに再装填され再び十六発を発射!犀竜リノドラッケンのうなり声を思わせる砲声、即座に響く命中の爆音と共に、今度はペー師匠のゴーレムが赤・緑・紫・黒の派手な煙に包まれる!


 恐るべき大火力をくらい揺らぐペー師匠のゴーレム。だがしかし、今度も派手な爆発の割りにさほど大きな破損は見られない。これは彼のゴーレムの正面から見て、鋭角に尖った胴体の傾斜に秘密があるのだ。

 この噴進ロケット弾では、弾頭の先端ではなく炸薬と推進剤の間に信管が付いており、目標に命中し弾頭が潰れた所で炸裂させる構造になっている。このため命中時に傾斜で滑ってから一瞬遅れて炸裂、密着しての爆発より大きく威力を削いでいたのだ。

 「被弾経始と言います、この効果を、専門用語で」

 ゴーレムのデザインではペー師匠に軍配が?いやしかし、彼のゴーレムは取り込んだ砲座が四連装二器しか無いため、肩の部分の噴進噴進ロケット砲が無い。これではパイリンの物より火力半減ということになるのでは?

 「発射器ランチャーは必要無いのです必ずしも、噴進ロケット弾には……『噴進弾発射枠ラケーテンヴルフラーメン』!」


 今度はペー師匠のゴーレムの胴体や肩、二の腕を構成する、城壁の四角い石材が何カ所もスライドし、開いた穴から噴進噴進ロケット弾が姿を現す!

 「全門発射フォイアーフライ

 単なる四角い穴から次々に飛び出す噴進ロケット弾!狙いを付けるのにいちいち体全体を動かして相手に向ける手間がかかるものの、発射器ランチャー無しで次々に噴進ロケット弾を放つことができるのだ。

 石造りの塔を素材にしたパイリンのゴーレムの曲面の胴体は、浅い角度で命中した弾を同じように弾いたが、何カ所かでは直撃したところで爆発、うち一発が右肩の砲座を破壊してしまった!

 

 これほど轟音響き爆煙吹き上がる大騒ぎともなると、流石に街の外で花火に気をとられていた人々も気がついて、何事かと騒ぎ始めた。ゴーレム同士の戦闘が見える位置にいた外壁上の見物客達などは、当然大騒ぎしながら下へと逃げ始めている。

 さらに北外壁中央の噴進噴進ロケット砲座からの花火の打ち上げも止まっている。パイリンにより何らかの騒ぎが起こることを事前に知っていたジモーネさんが、騒ぎの起こり始めた早々に、花火職人達に退避命令を出していたのだ。

 そして炸裂前にペー師匠のゴーレムに弾かれた噴進ロケット弾の一発が、流れ弾となって遂に外壁上部を直撃、無人となっていた観客席で派手に爆発!これを見て街の様子を伺いに戻りかけていた外の人々が、パニックをおこして川の方に逃げ始める。

 「あっぶね~ッ!避難が一歩遅かったらまきぞいで人死にが出るところだったぜ!」流石のパイリンも少しばかりゾッとっする。


 今回は本来、抗争のドサクサに外壁の一部や雑然とした町並みを、ゴーレムで踏みつぶし破壊し整地するのが目的であり、その後の復興のためにも余計な死傷者が出たら困るのである。

 ところが今や大火力を持つゴーレム同士の戦い・噴進ロケット弾の撃ち合いという想定外の大破壊の危機に陥ってしまったのだ。これでまたあらぬ方向に流れ弾が飛んだら、街全体が破壊と火災に覆われかねない。

 「ちょっとあんた!コ……じゃなくてペー様!ここで撃ち合い続けるの、正直ヤバくね?!」

 砲撃を一時中断、声が届くようにしてからパイリンが叫ぶ

 

 「『抗争に紛れて適度に建物や壁を破壊、街の区画整理と新しい門を作るきっかけとする』、それがお前の目的ですね今回の、パイリン」

 「なんでそこまでわかるんだよ!」察しが良いってレベルじゃねえぞ!

 恐るべき洞察力……いや、これも事前にパイリンの動きを調査して得た情報と、そこから彼女の思考をシミュレートした上での結論なのだろう

 「私は詳しいのですよ、世界一、お前のことについて、何もかもわかっている」

 「キモッ!ストーカーかあんたはッ!」

 「いやそれ以前に夫婦でしょあんたら!」爆発を逃れるためかなり離れた所に逃げてるのに、しっかり会話を聞いていたアントンが今回のツッコミノルマを達成!


 「育ての親ですから、更にそれ以前は」ペー師匠が続ける。「おしめだって何百回も取り替えました」何故か得意げに付け加え。

 「そんなの関係ね~ッ!」思わず顔真っ赤なパイリン、あ、ちょっと可愛い珍しく。

 「あと、ずっと後にお赤飯も炊いたことも、私自ら」

 「よけーなことをゆ~な~ッ!」更に真っ赤になるパイリン、これは夫によるセクハラというべきか?

 絶叫のパイリン、そしてゴーレムが彼女の感情のままに猛然と突撃、ペー師匠のゴーレムに肉薄を試みる。

 

 今までの物より大きく、動きの重く遅いゴーレムによる近接戦闘・格闘戦というのはありえない発想である。城塞ツィタデルゴーレム同士、互いに重く遅く、手脚を振り回しての攻撃も回避もままならない、無様な戦い方になるだろうに。

 姿勢をやや前傾させたパイリンのゴーレムは、スカート状の石組みの内に収められた長い脚を限界まで大股にして前進を開始。摩擦で削れた石材の粉を吹き出しギシギシと身を軋ませながら、足下の雑多な店舗や倉庫を踏み散らして突撃する

 「あれッ?上手い具合に中央広場から北壁に向かう通りができそうじゃん」と気がつくパイリン。いつの間にか当初の計画どおりになっているではないか。

 そういえばペー師匠のゴーレムは、内壁の北部分を素材に使って穴を開け出現し、それから常にパイリンのゴーレムに対し、外壁の真北を背にするように占位しているのだ。ではこれもまた、彼の計算のうちだというのか?


 「うまくコースにのりました、しかしよくありません、決着がついてしまうのは、この場で」

 素早く後退を命じるペー師匠。彼の城塞ツィタデルゴーレムは、器用にもスイスイとムーンウォークで、突進するパイリンのゴーレムに正対したまま、同じ速度での移動を開始した。

 「なんとゆ~滑らかさ!さすが大師匠、技術力ハンパないよ!」鈍重なはずの城塞ツィタデルゴーレムでこの動き、この速さ、見ていたアントンが思わず感嘆する。

 「エッちゃん感動!アントンくん小銭ちょーだい!ペー師匠におひねり投げるデス!」いや芸人じゃないんだからゴーレムマスターは。


 「よし、北の壁までもう少し!追い詰めたぜ」

 後退するペー師匠のゴーレムの背後に立つ外壁、つまりそこで行き止まり。内壁や中央塔の砲台から外を撃つために、彼らのゴーレムの身長より低い十メートル程度の高さに作られている。

 これは大型竜ドラッケンの体当たりでも簡単に壊せないレベルの強度を持たせるため、二重に石を積み間に土を詰めた厚い作りになっている。それがゴーレムであってもやはり破壊は困難、「解体するのにも金と手間がかかる」と言われるのも道理な頑丈さである。

 

 「ここです、決着をつけるべき場所は」

 壁に背を預け、どっしりと姿勢を安定させたペー師匠のゴーレムが、再び両手の発射器ランチャーと、胴体などに開いた穴からの噴進ロケット弾同時一斉発射の構えに入る。

 無誘導の噴進弾では移動しながらの命中が期待できないが、固定された砲座と化したゴーレムから、真っ直ぐこちら向かってくるゴーレムを撃つのなら命中は確実だ。

 だがしかし、ペー師匠が全弾発射を命ずる直前、パイリンのゴーレムが急停止!「装甲擲弾兵パンツァーグレナディーア!」


 今度はパイリンのゴーレムの、腰から下を覆うスカート状の石組みが何十箇所も一斉に開き、その四角い穴から何か棒状の物がガチャガチャと姿を現す

 「全弾発射フォイアーフライ!みんな吹き飛べ~ッ!!」

 たちまちポンポンと響きわたる多数の発射音と同時に噴き出す白煙、だが今度は噴進ロケット弾ではない!パイリンのゴーレムの材料となった塔の武器庫に多数保管されていた擲弾筒グレネードランチャーだ!

 小はアントンが強盗団時代に使っていた中折れ式の大型拳銃サイズから、大は携帯可能な迫撃砲サイズまで、それを撃つのはゴーレムの体内に潜んだ、やはり武器庫にあった鎧から作られた簡易ゴーレムたち!

 兜と胸甲と籠手、それらに心臓ヘルツから伸びる神経索を通し、言わば上半身だけのヘルツマンを組み上げ操って、素早い装填と発射を繰り返すのだ。


 「そんな物が石壁のゴーレムに効きますか?いいえ効きません」

 ペー師匠の言うとおり、それらは対人用に鉄片をまき散らす小型榴弾を撃ち出すもの。これが野戦で敵歩兵に対してなら絶大な威力であるが、石材のゴーレムに対しいくら撃ち込んだところで豆鉄砲も同然、音と煙と破片が無駄にばらまかれるだけである。

 「ゴーレムそのものなんか狙っちゃいねえッ!」

 BAZOOMズウウム!突然の爆発!ペー師匠のゴーレムの両手指にあたる、噴進弾発射器ロケットランチャーが吹き飛んだ!

 「ゴーレムの体内の、噴進ロケット弾さ!」


 続いて胴体や腕に開いた穴からも火が!本来、初速が遅く弾道が山形の擲弾で、噴進噴進ロケット弾の発射口をピンポイントで狙撃などできはしない。だがしかし、何十門もの擲弾筒により立て続けに放たれた一発が、まぐれ当たりで発射口に飛び込む、これは確率の問題だ。

 そしてそこに収められた噴進ロケット弾の弾頭部を直撃、更なる誘爆、また誘爆をひきおこす!

 「やられました!」

 そしてそこから内部に収納された残りの噴進ロケット弾に火が回るのは早かった。連鎖爆発で激しく震え体の穴や隙間から炎を噴き上げ、ついに砕け散るペー師匠のゴーレム!そしてその大爆発は、寄りかかっていた外壁をも巻き込んで破壊する!

 瞬間的な爆圧で外壁の一部が街の外側に崩れ落ち、濛々たる煙と砂埃で何も見えなくなっていく……


 「勝ったッ!」格上であるグランドマスターのゴーレム撃破を確認し、感無量のパイリン。

 そして渦巻く煙の中からクルクルと回りながら飛び出してきた「何か」、いや「心臓ヘルツ」が落ちていく先、そこに……ペー師匠の姿!飛んできた心臓ヘルツを華麗にキャッチしてから、彼はパイリンに語り始める

 「認めねばなりません、見事であったと」敗北したはずの彼の顔は、しかし微妙に誇らしげで嬉しそうに見える。

 「そしてお前の計画通り、外壁に穴をあけることにも成功しました……が、しかし、終わりでは無いのです、これで」


 「どーゆー意味だ!?まだ何か……」

 パイリンが言い終わる寸前、他の誰かの大声が響きわたる!「火痰弾フレイムフラム!」

 そして突然壁の穴の方から、煙と砂埃を裂いて飛び込んできたのは火の玉!それがパイリンのゴーレムを直撃する!

 「何ィ!この攻撃はッ!」慌てるパイリン、燃え上がるゴーレム、この厄介な攻撃には覚えがある!


 そしてうなり声を上げ、煙の中から姿を見せたのは機甲竜パンツァードラッケン!以前戦ったゲアリックのものと同じ、ここのゲアリックが河に待機させていた一匹!前の「シュッツヒェン」とは異なり、奪われゴーレムに変えられてしまった鋳鋼製の甲羅は背負っておらず、身軽な分動きは速い。

 「ゲアリック!」突然の乱入に驚くパイリン。いや、つい先ほどペーリンは言った、「これで終わりではない」と……ならばこれも計画のうち、彼の読みどおりだとでもいうのか?

 「カールヒェン!火痰弾フレイムフラム連打!」続いて姿を見せた使いマスター、ゲアリックが叫ぶ。

 竜は喉を鳴らしゲル状の油脂玉を三連続で吐き出し、空中で着火したそれは、パイリンのゴーレムに全弾直撃!貼り付くように燃える炎が全身を包む!!

 

 「やべえ!これじゃオレのゴーレムの噴進ロケット弾も……」

 言い終わる前に体内の爆発が始まる城塞ツィタデルゴーレム!穴から流れ込んだ燃える油脂が噴進ロケット弾を焼いているのだ。そして火災と小爆発をおこしながら、ゴーレムはよろめきつつ壁の穴の竜の方に動き出す。

 「よおしカールヒェンもういいぞ、下がれ!」

 命令に素早く反応した機甲竜パンツァードラッケンは、スルスルと後退して穴の外に逃れ出る。そして一方パイリンのゴーレムは力尽きたように、先ほど砕け散ったゴーレムの残骸に重なるように倒れ込み、再びの大爆発!

 しばしの時をおいて煙が晴れると、先ほど半壊した壁の穴は一回り大きく広がっており……そこには既に、ゴーレムマスターたちの姿は無くなっていた。



 「ゲアリック強盗団改めゲアリック暴力団、再び改めゲアリック自警団、街の平和を守るゲアリック自警団をヨロシク!」

 新しくできた街を貫く大通り、そこを進むは巨大なドラッケン、そしてその背にはドラッケンマスター・ゲアリック親分。あの夜からいきなり「他所から来たゴロツキ」から「街を危機から救った英雄」へとジョブチェンジした彼に、街の住人は歓声を上げ手を振っている。

 ゴーレムに使われ破壊された塔や壁、失われた噴進弾発射器ロケットランチャーの代わりに、彼ら「ゲアリック自警団」と機甲竜パンツァードラッケンが新たな街の守り手として、街の住人に認められたのである。

  

 あの祭の夜、花火大会の最中に突然起こった、ゴーレムマスター同士の戦いにより、街は大変な被害を出した。

 ただ幸いにも、あれだけの大破壊にも関わらず死者はおろかけが人一人発生せず、また破壊された区画にはバラック型の安普請な店舗が多く、そこには保安上営業してない夜の間は高価な品を置かないため、金銭的な被害も予想以下だったのである。

 花火職人たちの工房も完全に踏みつぶされてしまっていたが、何故か金目の物や商売道具、花火の在庫は持ち出されていたので、損害は少なく花火が誘爆して火災を起こすようなこともなく、更には保険金が入り、むしろ儲かったという。


 「まさか街を遅う強盗団だった俺らが、街を守る自警団になろうとは」ゲアリックと竜に付き従う部下の一人が呟いた「読めねえよこんな展開!発想がとんでもねえですな、あの兄さんは」

 「まんまとノせられた、のかもしれねえが、そう悪い気分でもねえんだよなあ、コレが」

 当初複雑な気持ちのゲアリックであったが、女子供からの歓声に表情を崩し手を振りかえしたり、すっかり「いい者」と化している。

 結果的に言えば、パイリンとペー師匠の戦いは、街に取り返しの付く程度の損害と、大きな将来性、そして悪党達にまっとうな就職先を残したのであった。

 

 さてしかし、件のパイリン一行は、そしてペーリン師匠は今、何処に?消息不明につき、彼女たちの旅がまだまだ続くったら続くのかも不明、嫌も応もなく! 

 

(インターミッションに続く)

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