ゴーレムマスター vs 自称義賊 vs 多頭亜竜(2)
(2)
石造りの壁が爆破されたことで舞い上がる砂埃と白煙の中、名乗りを上げ笑い続ける自称義賊、ギュンター・(中略)・ガイガー。
「ハーッハッハッハッ、ハッハッハッ、ゲホッ、ゲホゲホゲホ」煙でむせてるじゃねえか!「……え~っと、次の台詞は」考えてる場合かよ!
などと登場人物以前に地の文からのツッコミが入るレベル、しかも古い喜劇じみたベタベタさ、まさしくアントンが感じたとおりの「アレな人」のようである。
「え~、怪盗ギュンター・ガイガー、新しくできたと聞く『銀行』なる所に現金強奪に参上!おとなしく金を出したまえよ君タチ、ンッン~」
「イヤここ保安官事務所だし、銀行は反対側の壁の方だし」いつものボケ役をすっかり持って行かれて、冷めた声でツッコむパイリン。
そこで双方、五秒間の沈黙………………会話再開、
「ウソ言っちゃ行けないネ!二つの建物の間の隙間から、右側の壁を爆破すれば金庫のある部屋だと調べはついているんだヨ!」
「いやそれ表から見た場合の話だろ、お前裏から入ってきたじゃん」一層冷めたというかうんざりした感じの声で教えてやるパイリン。
「いっけね~ッ!間違えたァ、アハァ」底抜けに明るくおどけて、頭を自分の拳でコツン、とやるガイガー……こいつちょっとぶん殴ってもいいですかね、助走付きの全力で。
「こやつ、もしかしなくてもバカなのでわ?」ここまで黙って見ていたが流石に呆れて呟いたゲアリック保安官、いやその思いは皆も同じだ。
「この国でそこそこ顔が良い奴って、その代わりにオール馬鹿ちゃん総進撃なの?うちのエッちゃんみたいに」そういえばガイガーもまた森精系の血が濃い端正な見た目である……見た目だけは!
「この短期間に世にも珍しい、頭悪い系エルフに二人も遭遇するとは何たるミラクル、魔女のバアさんに呪われたか?」誰だよ魔女のバアさんって。
「師匠、エッちゃんさんには、お笑い関係になると急に頭がよく回る特殊能力があるんだよ!」アントンの言葉はフォローになってるんだかなってないんだか。
「バカってゆ~方がバカなんだよウェ~ン」最後のはもちろんエンジェラさん。
「やるじゃないか君タチ!なンて巧妙なワナだ!ひとまず退散するヨ!さらばだブライトインテリクトくん!また合おう」いやそれもまた誰なんだよ?
「ワナじゃなくててめーが間違えただけだし」やたらポジティブなボケ方なのは、実際エンジェラと共通、本当にキャラが被っている。
「そもそもてめーは、既に留置場の中にいる……ヘルツマン!」「GOOOOOOOM」
怪盗ガイガーが逃げようと向かった壁の穴から、鎧の大男がエントリー!反対側が鉄格子なので逃げようのないガイガー、そしてそのままの勢いで、ヘルツマンが彼に体当たり、抱きしめるように拘束した。
「むギュ~ッ!なンだいこの大きい硬い人は!ロボ?ロボなの?」世界観をブチ壊すような単語を使うんじゃねえ、いやまあゴーレムってのはある意味ロボットと言えるから、正解と言えば正解ではあるが。
「そのまま取り押さえとけよ、ヘルツマン。いやしかし早くも賞金ゲット、銀行より先にここに寄って正解だったなあ」まさかの高額賞金首捕縛に機嫌が良くなるパイリン師匠、ツイてますな。
「逃げ足が早さが取り柄の筈なのに、逃げる間もなく捕まるとは本官もビックリだよ~」
てきぱきと賞金支払いのための手続き用書類を出しながら、保安官もそう言った。うん、いったい何のために出て来たのか?こやつは。
「よーしせっかく悪党を捕まえたので、楽しく虐待しちゃうぞ、性的に」ヘルツマンに抱き締められたままのガイガーに近づいたパイリンが最低な発言、しかしとても爽やかな笑顔で。
「わぁ、何をされちゃうのかナ?」ちょっと声におびえが混じるガイガー。
「趣味ですが何か?君のおシリにいろいろブチ込んでみたい、そんな好奇心!」どんな好奇心だそれは。そして事務所のデスクの上にあった置物を取り上げると
「このとんがった形の黒水晶にて仕る」
「腐ってる!腐ってるよこのお嬢さン!」後ろの貞操がピンチで危ないガイガー、そしてそれを見ていたアントン、初めてパイリンと遭遇した時の事を思い出して戦慄する。
「そんンなことしたら、そンなことしたら、ボクまで腐ってしまって……腐ってしまって……溶けるヨ」この一言の後、彼はピクリとも動かなくなり、刹那……ドロリ、彼の顔が、体が、いきなり真っ白に変わって、次いで崩れ始めた!
動きを止めたガイガーを見て、何事か?と思って近寄っていたパイリンたち、流石にこれには心臓が止まりそうな程にビックリした!
「ギャ~ス!溶解に~んげん♪」パイリン師匠、何故後半に歌うような節が?
「オバキャ~!」ちなみにこれは単語「オバケ」と悲鳴「キャ~!」が繋がったエンジェラの叫び。いやまて、君は死霊を使役する死霊マスターじゃなかったか?
今やドロドロのスライムというか、いや今度は宙に浮き始めたので濃い煙のようなというべきか、不定型な白い謎物体と化した怪盗ガイガーは、ヘルツマンの拘束をスルリと抜けて、壁の穴から逃げ出した!
「なん~だありゃ!あいつ人間なのか?」いや人間なワケはないだろう、人間がそんな風に変化する特殊能力とか、そんな技を使う使い手がこの世界に存在するだなんて、聞いたこともない。
「アレ、なんかどっかで見た何かに似ているような……」謎物体を追いかけるため、真っ先に外に飛び出し走るアントンが呟いた。
「なにお前、あんなオバケ、前に見たことあるっての?」ヘルツマンを引き連れ、パイリンとエンジェラが追いついてきた。
「いや前ってゆ~か、つい最近ってゆ~か、このところしょっちゅう見ているような……」ん?お前は何を言ってるんだ?とパイリンもエンジェラも思ったが……
そんな三人と一体の前に、フワフワと漂い出でる二つの白い物体、エンジェラに憑いている死霊、ビーちゃんことビートゥナ、そしてボーちゃんことボスフォー!どちらも小さなお手々で、「これこれ」と言いたげに、お互いをちょいちょい挿す仕草をしている。
「これだーッ!オバケ!ってゆ~かエクトプラズム!あれエクトプラズムが化けてたんだよ!」
「えーッ!ならあのギュン太くん、ビーちゃんボーちゃんのお仲間デスか?」
「何だよ『ギュン太くん』って!いやしかしあいつ普通の人間のはずだろ、実は死んでいた、ってことなのか?」
「ハーッハッハッハ、遅い遅い、ボクは既に銀行強盗を終えてランナウェイ中なのサ!」三人と一体が走る道の先、坂の上に現れたのは……もう一人の怪盗ガイガー!
「またしてもギュン太くん?さてはあなたもゲアリックさんとこみたいにそっくりさん一族なのデスか?!」
「ギュン太くん?……」しばし熟慮のガイガー、「……いいネ!」この呼ばれ方、気に入っちゃったみたいだぞ!
「君も死霊マスターかい?同族な上、同じ職業のよしみで教えてあげよう、カワイイお嬢さン!」
そう言って一旦言葉を打ち切り、わざわざカッコいいポーズをビシィ!と決めてから、再び語り始めるギュンター・ガイガー。
「実はボクが本物で、君タチに捕まっていたのは、エクトプラズムで作った『ドッペルゲンガー』なのサ!」
「わぁい、カワイイって言われたデスよ~、エッちゃん歓喜~!」前半で喜んでしまって、後半の肝心の部分を全く聞いてないエンジェラさん。
「これは君に憑いてる死霊クンたちの同類サ!ただしこっちの三体はゲッツ、ゴットハルト、グスタフ……ボクの亡くなったお爺さンとお父さンとお兄さンの霊で、死後も協力してもらってるンだけどネ!」
そう言う怪盗ガイガーの周囲に漂う白い煙条のものが二つ、そこにパイリン一行が追ってきた一つが合流し、彼の空けた口の中にスルスルと吸い込まれて消えてしまった!
「こいつも死霊マスターだと!……うむ、『イケメン森精系=お馬鹿ちゃん=死霊マスター』の新公式が今ここに証明!学会に発表せねば!」
「師匠、言ってる意味がわかるような、イヤわかったら森精系の皆さんにシツレイなのでわからないことにしますが、あのお兄さんも死霊マスターですと?」
「え~っ?エッっちゃんはあんな面白技つかえませんケド~?」
「そりゃおめーが能無しなだけだろ!いつも死霊が勝手に動いてるだけだし」
「ならばゆるすまじデス!ただでさえエッちゃんと天然ボケキャラが被っているのに、人種や職業まで被ってて、そっちは便利なワザ持ちで有能アピールデスか!」急に激おこなエンジェラさん。
「エッちゃんさんは天然ボケって自覚あったの?」とアントン。『自覚してたら天然じゃなくね?ってゆ~か、被ってるのはボケ役というかお馬鹿ちゃんキャラだし』とは流石にシツレイなので言わなかったが。
「なるほど、今までもあの分身みたいなので揺動したスキに、本人が仕事を済ませて逃げ延びてたのか」実際、このパイリンの分析は正解なのだ。
今回は保安官事務所と銀行、両方の壁を同時に爆破、ドッペルゲンガーの一体が事務所でわざと捕らえられ、銀行でも一体が正面から乗り込んで注意をひき、もう一体が煙状になって金庫室に侵入し中から鍵を開け、本人が金貨の袋を抱えて逃走していたのである。
「やるな、お馬鹿キャラは演技だったか!」
「ハーッハッハッハッ、演技ってなンのことだい?」相変わらずの馬鹿明るい口調のガイガー、どうやら元々こんなキャラのようだ。
「しかしそっちも対応が早いね、混乱からすぐに立ち直ったし。さすがは賞金稼ぎにして賞金首、一千万コーカの『白零』さン!」
「またマイナーな方の呼び方を……以後"パイリン"と呼ぶことを強制!ってゆ~か、お前俺のこと知ってんの?」
「そりゃ高額賞金首なわけだし、おウワサはかねがね。そこで提案だけど、今回は賞金稼ぎではなく、賞金首の方として、一口乗ってもらいたいことがあるンだよネ」
「……それって、儲かるのか?」
「ボクにかかってる賞金よりは絶対に儲かると補償しちゃうネ」そいう言ってガイガーは、坂の上から村を囲む鉱山の一つを指さした。
「狙うは水晶、それも超、超々でっかい紫水晶がドッサリさ!」
「よし手を組もう」光の速さの即断に、思わずズッコケるアントンとエンジェラ、死霊たちとヘルツマンまでもズッコケらしき動きをしてみせる。つきあい良いな、お前ら。
「師匠、こんな胡散臭い話、信じちゃっていいの?」
「そうデス!こんなキャラが被ってる人はただちにデストロイでス!」いやお前の私情はどうでもいいから。
「追い詰められている状況でもないのに、あんな美味しそうな取引を持ち出してきたあたり、奴の言葉には嘘が感じられない。」仲間二人にそう囁くパイリン。
「そしてもちろんその紫水晶とやらを手に入れたら、直後にあいつも捕まえて換金しますが何か?」
「あいかわらず鬼ですかあんた!」そんな会話はもちろん聞こえていないガイガー、
「ハーッハッハッハッ、賢明なご判断に感謝するよパイリンさン!では今夜にでも、お泊まりの宿にお邪魔させてもらって、この話はのちホドに!」
そして遅れてドタドタと走って来たゲアリック保安官を視界に捕らえた彼は、素早く坂の向こう側に姿を消し、去っていたのだった。
(続く)




