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パイリン・ザ・ドラッケンマスター?(2)

 「みげを!ふっこんれふるろ!」

 どうやら『逃げろ!突っ込んで来るぞ!』と言いたかったようだが、口いっぱいにウッドーン料理をほおばってるので、滑舌悪くパイリンが叫んだ。

 慌ててそれぞれのお椀を抱えたまま、城塞の壁際から離れるアントンとエンジェラ。しかし簡易ゴーレムであるヘルツマンは、食事前からの壁際に佇んだ姿勢のままだ。


 「ヘルツマン!鍋を守れ」「GOOOOOMゴオオオオオム!」

 命令を与えられ即時起動したヘルツマンが焚き火の上の鍋をつかみ取ったのと、犀竜リノドラッケンが真っ直ぐ突っ込んでくるのが同時、ちょっと遅すぎた。


 CRACKーAーBOOOMクラッカブーム

 凄まじい衝突音、ヘルツマンごと城塞の石壁にめり込む犀竜リノドラッケン!そして激しい土煙が収まると、やがてぐらりと傾き、地響きを上げて地面に転がった。

 暫く脚や尻尾をピクピクさせていた犀竜リノドラッケンだが、苦しそうな呼吸が次第に小さくなり、やがて完全に動かなくなり、眼の光も失われた。


 「ご臨終デス、この竜さんから魂が抜けていくのが見えます」

 エンジェラが死霊使い《ゴーストマスター》のスキルでそう宣告、頭の左右に浮かんだ二匹の死霊と一緒に、手を合わせて拝みポーズ「ナム~」え?仏教徒なの?


 ヘルツマンは鍋ごと壁にめり込んでいたが、さすがはゴーレムの一種、あの激突でも完全に壊れることなく、ギシギシ音を立てながら動き始めた。しかし体を構成する鎧が潰れてペッタンコ、果てしなく二次元に近い騎士になってしまった。


 「またヘルツマンがぶっ壊れたよ!いくら捨て値とはいえ、こう毎回毎回全身鎧を調達するのも大変なんだっつうの!」

 悲惨というか面白い有様のヘルツマンを見たパイリンが嘆く。

 「そしてウッドーン鍋が!まだ半分残ってたのにッ!オレは今、この怒りを糧に賞金首の千や二千刈り取ってやれる程にテンションMAXです!」

 さらに激怒するパイリン、でもお椀に残った分を食い続けながら。

 「拾い物で作った鍋料理半分に対し何て安い命なの、賞金首さんたちって」


 「アコヴァ!おお、なんということだ、アコヴァよ!」」

 それはおそらく竜の名前なのだろう、絶叫しながら巨漢が一人、こちらにすごい勢いで走って来た。服装から見て、ここの騎士修道会の関係者に違いない。

 「何がおきた?!いったいどうしてこうなったッ!週末には闘竜祭の準決勝だというのに!」

 動かなくなった竜を前に巨漢の修道騎士はひとしきり嘆き、そしてガックリと膝をついた。そしてその騎士の姿に既視感を覚える、パイリン以下三名。


 頭の中央だけ縦にそり残された髪、脂ぎった顔の中央に集まった、睨みを利かせた小さな目、顔の下半分は竜の顔を模した金具付きのマスク、ぶっとい首、両肩と胸元を守るごっついプロテクター、でもそんな物は無用なんじゃないかと思わせる、分厚く弾も刀も通りそうにない全身筋肉の塊。装飾の付いた皮のブーツ、背には大空龍教団騎士修道会独自の青いケープ、それらに付いた真鍮の飾りやら刺繍やら……


 ?、アレ~?若干違う、けどかなり似ている!

 ……我々は知っている、はず!この男を……いや、この男の声を!!姿を!!その名前を!!

 「ゲアリック?!」パイリンたち三人の声が見事にハモった。

 「んん?確かに吾輩はゲアリックと申すが、何故存じておるのか?見知らぬ少年少女たちよ」応えたその声は馴染みのバリトンではあったが、いつもと少し感じが違う。

 「アレなんかすごい違和感、親分にしては言葉遣いが畏まりすぎだし」とアントン。


 「親分?いや吾輩そのような立場に非ず。ここの騎士修道会の騎士長を勤むるウドー・リッター・フォン・ゲアリックなり」

 とゲアリック(仮)さん。なるほど言われてみれば、風体こそ極めてゲアリックじみてはいるものの、服装は厳ついながらもきちんとした騎士の装備で揃えてある。

 「吾輩、奉納闘竜祭では当地の騎士修道院からの代表として、何度も優勝した選手でもあるから、それで存じておられたかな?」

 名前を知ってる理由を推察するついでに、今ちょっと自慢入ったよね?


 「エッちゃんは、てっきりお笑い用語で言うところの『天丼』かと思ったデスよ、しつこい繰り返しネタでまたお前か~っ!とくるやつ」とエンジェラ。

 「エッちゃんさんはお笑い評論家志望なの?いや、いくらなんでもこの人だって、ウケを狙ってのこの人相風体じゃないと思うんだけど。」とアントン。


 「しかし実際名前はゲアリックなんだろ?体格も顔、ってゆーか目の辺りも、強盗団の頭やってたゲアリックたちとソックリだし」とパイリン。

 それを聞いたゲアリック(仮)さん、憤慨したように

 「強盗団!それは分家の不良息子どもに間違いなし!戦が終わってから騎士団を離れ、竜を使った悪行に走った、一族の恥さらし共めが」


 「たしかこっちの坊主の元親分がシュテファン、ラングラングファレイの森の方の、こないだ竜と焼けちゃった方のは何ていったけ?」

 「そいつはシュテファンの従兄弟のアーベルトであろう!全く分家のクズ餓鬼どもめが!伝統ある竜使いの家元、我らゲアリックの名誉を汚す奴らよ……貴奴め焼け死んだとな?全く因果応報よな、火遊びの罰が当たったのであろう」


 流石にパイリンも、その原因が自分だと言うのは止めといた。しかしゲアリック家というのは、竜使い業界ではけっこうな大家だったのか?というか、家元制なの竜使い《ドラッケンマスター》って?


 「我がリッター・フォン・ゲアリック本家と、あの爵位も剥奪された堕落ゲアリックどもを一緒にしてくれては困るぞ少年。本家ゲアリックはあくまでも竜と共に大空龍タイクーロン様に仕える、常に公明正大、すなわち『わかりやすい』正義の使徒であるッ!」


 出た!「わかりやすい」のフレーズ、これはいいモノわるモノ関係無く、間違いなくゲアリックであるという証拠に他ならない!よって以降は表記から(仮)を外し、彼をゲアリックと認定する。

 「なるほど、このオッサンはいわば『きれいなゲアリック』なのだな」

 「言葉の意味はよくわかんないようでわかるけど、ちょっとシツレイでは?」


 「ところでこの竜、なんで暴れてたの?ってゆ~か、何で死んだんだろ」

 「皆目わからぬ……飼い葉を与えていたところ、急に泡を吹いて暴れ出し、小屋と城門を破壊して飛び出していったのである……得体の知れぬ病とか?」

 「師匠、狂竜病とかってあるの?」

 「そんないきなりおかしくなる病気はねえだろ、おそらくは毒だな」

 「毒?!」今度はパイリン以外の三人がハモった。


 「ホラ、口腔内の粘膜が紫に変色してるだろ?たしかこれって神経性の毒にやられて、呼吸困難になったやつの症状だったと思うが」

 「師匠あいかわらず博識ですね。」

 「いやオレも違う種類の毒でだけど、以前別の強盗団の飯に一服盛って、一網打尽にしたことがあったのさ」


 恐るべしパイリン、保安官に言っていた一服盛ってくる云々、っというのは冗談ではなかったようだ。

 「なんたる外道!毒殺魔ですかあんたは」

 「いや致死量に若干足りなかったのでギリギリセーフ、生きたまま捕らえて賞金額アップだったし。まあ一週間くらい笑いが止まらなくなって、死んだ方がマシという苦痛だったと聞くが」

 やっぱ外道じゃん師匠、と思ったけど堪えるアントン。


 そしてふと倒れた竜の方を見れば、エンジェラと死霊二匹が、竜の少し上、何も無い空をぽかんと見上げている。そして死霊の一匹、ワニ口のビーちゃんこと悪竜ビートゥナがなにやらエンジェラの耳元に囁いた。

 「ふむふむ、パー子さんの推理は大当たりのようデスよー。」

 「ビーちゃんがこの竜の霊に聞いたところ、干し草に何か変なモノが入っていて、それ食べたら苦しくなったっていってますデス」


 「すごいや、エッちゃんさんが 死霊使い《ゴーストマスター》のスキルで役にたってる!」

 「お前もたいがいシツレイだね、いやオレも全くそう思ったけど」

 「エッちゃん有能~、霊が竜族の場合、ビーちゃんが通訳してくれるのデス。鬼族の場合はボーちゃんね。」

 ちょっとバカにされているという自覚は無しに、ポジティブ思考100%でエンジェラは得意満面の笑顔。


 「干し草に異物とな?」

何か思い当たったのか、ゲアリックはくるりと背を向け、城塞の中へ向かって走り出した。興味を持ったパイリン以下三人もこれに続く。

 犀竜リノドラッケンが飼われている厩舎は、4ブロックに別れた高級宿屋街(元騎士団員の宿舎)に挟まれる位置に複数あった。そのうちの一つ、死んだ竜が居た厩舎に駆け込む四人。


 ゲアリックは先ほどまであの竜が食べていた、干し草の残りを調べてみた。

 「これは……キノコ?」

見ればそれは異様に細長く、とても小さな傘をもつキノコだった。ご丁寧に色まで干し草にソックリ、よく見なければこんな異物が混じっているなど気付かないだろう。


 「ははあ、ワライロナガボソエノキか。これ本当は米のワラとかに生えたりする毒キノコで、飼い葉の干し草に混じるようなもんじゃなかったはずだが……てことは……犯人はお前だーッ!」

 「え!あの飼育係らしいおじさんが?」

 「いや適当に指さしたらあの人がいただけ。つまり、これは事故ではなく何者かがあの毒キノコを仕込んだ殺竜事件だ、って言いたいわけ」


 「それは何奴?!一体何の恨みがあって」

 「あの竜、闘竜祭の準決勝に出るはずだったんだろ?ならあいつに勝ってもらっちゃ困る誰かさんの仕業と考えるのがスジじゃね?」

 「ムウ!そう言われてみれば思い当たるフシが」


 「どーしたんでえ、御本家の兄さんよ、表でおっんでるの、あんたの竜じゃねえのかい?」

 いきなり入り口に姿を見せ声をかけてきた一人の巨漢、その姿は

……頭の中央だけ縦にそり残された髪、脂ぎった顔の中央に集まった、睨みを利かせた小さな目、顔の下半分は牙を模した金具付きのマスク、ぶっとい首、両肩と胸元を守るごっついプロテクター、でもそんな物は無用なんじゃないかと思わせる、分厚く弾も刀も通りそうにない全身筋肉の塊。装飾品をみれば、全ての指には相手を殴る時のナックルガード代わりであるごっついリング、装飾の付いた皮のブーツ、背には派手な色のケープ、それらに無駄に打ち込まれた鋲やら棘々やら・・・


 アレ?アレアレ~?……我々は知っている、今度こそ!この男を……いや、この男の声を!!姿を!!その名前を!!

 「ゲアリック!いつもの方の」

 「何だお前ら?オレ様を知ってるのか?」と赤マントのゲアリック。

 青マントの騎士ゲアリックと違い、こっちはまんま以前の二人の再現みたいな風貌である。


 「エッちゃん爆笑~」ケラケラケラ、と大笑いするエンジェラ。

 「やられたデスよ!ちょっと違う人に続いて、まんまそっくりさんが出て来てくるとは天丼ネタの高度な応用デスね。アントンくん座布団5枚持ってきて!」

 「エッちゃんさんは何でいつもお笑いに結びつけちゃうの?ってゆーか座布団って何?」

 「いやいつもの強盗団の頭やってるゲアリックさん家の一人なんだろ、量産型かこいつら」

 「いやいや、こいつの場合は強盗団ではなく、ここの裏社会のヤクザな一家を束ねるボスなのだ。まあ似たようなもんだが」と青ゲアリックから説明が入る。


 「つまりこっちの青いのが改良強化新型ゲアリック、あっちの赤いのがシャー専用ゲアリックとゆーわけだな」

あいかわらずの珍言動に、思わず聞き返すアントン。

 「言葉の意味がサッパリわからないけど、シャーって何?」

 「ヴァーラントで人気のゴーレムマスター同士の戦争を描いた芝居、『魔像戦士ギャンドム』に出てくる、主人公のライバルで……」


 お前らいい加減にしろ、と地の文からもツッコミが入りそうになった時、

 「思いあたるフシとは貴様のことだ、ヴォルフ・ゲアリック!」青ゲアリックが叫んだ。

 「よくもぬけぬけと!闘竜祭の選手として、優勝候補の我と当たるのを避けるため、アコヴァを暗殺しおったか!」

 「そそそそんなことはねえぜウドーの兄さんよ」

いや思いっきり動揺してるだろ赤ゲアリック、どもるなってーの。


 「しょしょしょ証拠があるってのかい?」

 お前は時代劇のお白砂でおいつめられた下手人か?金さんを呼ばなきゃダメなのか?

 「わかりやすい、実にわかりやすい!」思わずハモって叫ぶパイリン以下三人。

 「いや吾輩が言いたかったのだがなその台詞……なるほど外道働き揃いの分家者らしい汚い手管、全く許し難し!」


 「だだ、だから証拠がねーだろーがよォ!訴えっぞゴラァ!」

 お前マントだけでなく顔も真っ赤だぞ『汚い』ゲアリック。どうも芝居ができないたちのようで、態度でバレバレである。

 「ちょ、ちょっと心配して見に来てやっただけなんだからね!犯人が現場に戻ってきたわけじゃないからね!」

 何だその口調。そして赤ゲアリックは慌ただしく走り去って行ってしまった。


 「あ、逃げた」とアントン。

 「チョーわかりやすい犯人デスね」とエンジェラ。

 「ねえ、試合に使う代わりの竜って手配できねえの?」とはパイリンの質問。

 「ルールで選手か竜、どちらかの交替は認められておるが、アコヴァのような騎士団の竜は、それこそ卵から生まれた時から人に慣らし育て訓練したもの。他所から竜を借りてきても、違う使い手によって実力を発揮させるのは困難なり」


 「となると、選手の方が交替だな……オレが使い手として出る」

 「?アコヴァはもう死んでおるのだぞ?!」

 「そうさ、このオレが、あんたに代わって、死んだアコヴァと、準決勝に出てやる、と言ってるのさ!」 (続く)


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