17 気が付いたら悪役になってた
結局紳士淑女の押しに負けて、午前中いっぱいパークゴルフとやらにつきあってしまった。しかもちょっと楽しかったという、どうしようもねぇ結末。彼らは強くて散々負けたけど、久々にいい汗流して疲れたし、おなかもすいたし、帰ってお昼ご飯でも食おう。昼ビールもしたいな。
えっと俺、なにしにここに来たんだっけ。
戦友たちにご挨拶を告げてパークゴルフ場を後にしながら、タオル代わりにシャツの袖で額の汗を拭いていると、駐車場の辺りからこちらを見ている男に気がついた。
この場に不釣り合いな若い男。老人を物色しているようなその様子、モルモル似の顔。まさに先日見た犯人、お年寄りの服切り裂きジャックに違いない。
どうしてこんなところにいるんだ。緊張のせいだろう、全身に張り巡らせた神経に、痛みに似た電流が駆け抜ける。
そういえばもともと俺はこいつを探しにきていたのだった。それなのにパークゴルフなんて楽しんで、今すっごく疲れているうえに、わりと腹が減っている。さらには、なまった体が早くも筋肉痛になりかけていて、まともに動けるような状態じゃない。なんということだ。絶望のあまり思わず両手で顔を覆ってその場に膝から崩れ落ちてしまう。
「クロイツ~」
「な~なん」
暗黒の世界で無に浸っていると、緊迫した状況には不釣り合いな声が頭上から聞こえた。反射的に頭を上げると、そよそよとベコナがこちらへ向かって飛んでくるのが見えた。その二羽の影を追いかけるようにして、地上ではおまるがしりをふりふり、少し遅れつつも必死こいてこちらへと走ってくるところだった。
「兄上どのぉ~。マスコットのわしもいますぞ~。マスコットはベコナではございませんぞ~。わしですぞ~」
なんの話だよ。
つか、近くに人がたくさんいるのに人間語しゃべるなっての。そう言おうとするよりも早く、そよそよとベコナが広げた両腕の中に飛び込んできた。
「ようやく見つけたんだよ~」
「な~」
「おいおい、迂闊にこっちに来るな。もしかしたら今はすごく危険な状況かもしれ……」
「あのね、聞いて! そよね、水に浮けるようになったんだよ!」
「なぁっこす」
きらきらした目で見上げてくるそよそよとベコナをむげにはできない。危険だと思いつつ、あきらめて少しだけ話を聞くことにした。多分、そうしなければこいつらの勢いは収まらないだろう。
「うーん、それはすげぇ」
「ぐ、ばはあっ……はあっ……ようやっと追いつきましたぞ……ぐばあっ」
「羽をこうやってね、広げてじっとしていればいいんだよ。心を無にしてね、ムヤミヤタラと動いちゃだめなんだよ。時の流れに身を任せてあなたの色に染まるように、水の動きに身を任せてた波紋とともにゆたうんだよ。それでね、話は変わって、さっきモルモルが故郷に置いてきた身重の女房に会いたくて会いたくてふるえるって言ってたよ」
おおおい。この状況でなんか心に突き刺さる重要な情報さらっと流出させるな。
身重の女房がいるって、モルモルお前本気か。あいつの魂を人の体から抜いてハムスターに入れてしかもペットにしてる俺、ものっすごい悪役だろ。己の罪の深さにふるえる。
再び頭を抱えてその場にうずくまると、そよそよとベコナがふわりと俺の肩に降りたち、ぽんぽんと優しく背中を叩いた。
「そよはあまりおすすめしないけど、こうなったらもう悪役を突き通すしかないよ。妻ごとモルモルを亡き者にするとか」
「なんなん」
「モルモル殿の妻をわしがなぐさめるとか」
いつの間にか俺の足下にいたおまるが、だらしのない顔つきで言った。それを無視してそよそよに向き直る。
「悪役にだって家庭があるのは当然だよな……。もしかしたら、ピーチャンにも女房とかいたりすんのかな」
「ピーチャンはつきあって二ヵ月になる彼女がいるって言っていたよ。ぼいんぼいんの巨乳だそうな」
そうか。とりあえずピーチャンはそのままでいいな。
「でも、セキセイインコは好きなときにするりとふんこができるし、働かなくてもいいし、三食昼寝付きだし、歌っていればいいし、寝てても怒られないのはおろか逆に具合悪いのかと心配される始末だし、たまに手作りバードケーキも貰えるし、これはこれでいい生活だから手放したくない~、って言っていたんだよ」
そうか。やはりピーチャンは現状維持決定だ。




