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廻天列系における逃走の格律  作者: トトホシ
廻天列系における逃走の格律*ジャイアント・インパクト*

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9 君は海を見たか

 空は見事に晴れ渡り、白い雲は水平線の向こうにうっすら見えるくらいの快晴だ。ここまでご機嫌に晴れなくてもなぁ、と痛いほどにまぶしく差し込む日光を全身に受けながらビーチパラソルを砂浜に突き立てる。ふん、と体重を込めて地面に差し込むと、足の爪に砂を食い込ませながらビーチサンダルが砂に埋まっていく。夏の太陽に熱された砂は素足だと火傷するくらいに熱い。砂をかぶった足の甲の皮膚を通り越して骨のちょっと前、肉の深いところまで浸透してきた熱が痛い。


「ヒトトセが来られなかったのは残念だけど、晴れてよかったわね」


 肩から下げていたクーラーボックスを下ろし、アキが眩しそうに目を細めて空を見上げた。大きな浮き輪を片手に水玉模様の水着を着たそよそよと、既に浮き輪を腰にはめたおまるが目を輝かせて海を見ている。


 そよそよの水着、おまるの浮き輪、ビーチパラソル、バーベキューセット、クーラーボックスとその中身、すべてオマタ持ち。魔法のカードの威力を思い知った。

 その魔法のカードが、いつか請求がやって来るのだという全く魔法ではない現実的なカードだと再認識するのは来月以降。だから、今は現実を忘れて海を楽しむことにする。


「サザエやカキを彷彿とさせる磯の香りがするよ~」

「ぐばぁ~」

「なぁ~ん」

「海は食材の宝庫だね。およだれじゅるじゅるだよ」

「じゅるなん」

「おい、おまる。はしゃぎすぎてアキの前でうっかり人間語出すんじゃねぇぞ」

「ぐわぐわ」


 小声で注意すると、おまるは一旦アヒルのように鳴いてから、心得てますわい、と胸を張りつつ小声で答えた。本当に大丈夫か。アヒルを気取っているくせに、浮き輪を腰に装着している時点でもう怪しいぞ。

 

「な~」


 俺の頭の上で、ベコナも興奮したように羽をばたつかせている。

 ぺコナはニザヴェリルに多く分布している鳥だ。ニザヴェリルに海がないわけではないが、彼らの分布の多くが内陸部なので、もしかしたら海を見たことがないのかもしれない。水鳥じゃないし水浴び以外で水に浸かることはないだろうから、あまりはしゃぎすぎないよう見張っていなければ、おぼれる危険がある。波のある海ならばなおのこと。水鳥じゃない鳥の羽は水をはじかないから、下手をすると沈んでしまうのだ。


「……ヒトトセの家にいた鳥、ぴーちゃんだったかしら、じゃないわよね、この子。色が違うわ。また新しい鳥を買ったの? これ、飛んでいっちゃったりしないのかしら」


 俺の頭からそよそよの頭の上へと飛んだベコナを目で追って、アキが不思議そうに首を傾げた。


「驚かせない限りは、慣れてるから大丈夫」

「な~」

 

 宇宙生物だしな。人間と同等の知能を持っている。とは言えない。


 そう、と頷きそれきりベコナに興味を失ったらしいアキが、着ていたパーカーを脱ぎ捨てて水着姿になった。瞬間、足下でおまるが小さくグバーと歓喜の声を上げる。布地の少ないいわゆるビキニというやつで、彼女は少しも恥ずかしいような仕草もみせず、堂々と惜しげもなく露出度マックスで若い女体を披露している。

 車の中で宣言していた通り、俺は海には入らずにパラソルの下で荷物の見張り役兼バーベキュー準備係。泳がない言い訳を考えるのが面倒だったので、かつて海で溺れたことがあって海が恐ろしいのだということにしたら、アキは特に不審がりもせずに納得してくれた。


「じゃあ行きましょうか。おまるも海に入ってどこまでも逃げていってしまわないのよね?」

「おまるも慣れているから大丈夫なんだよ」

「ぐば~」

「こいつ、鳥だけど男だから女の人が好きだから。よろしくな、アキ」

「ぐばっぐばっ」


 尻をふりふりおまるが返事をする。


「そよそよ、ベコナのこと頼むな」

「合点承知だよ。ベコナは海には入らずにそよの頭の上に乗ってるって」

「そうか。ふたりとも気をつけろよ」

「なんなん」

「じゃあクライチさん、ここはよろしくね」

「あいよ。俺は炭焼きの用意しとくから、子供たちのことよろしく」


 頭にベコナを乗せたそよそよとおまるを連れだってアキが海に向かう。正午に近い時間だからか人はそこそこ多い。家族連れ、カップル、友人同士。だが、多すぎて浜辺で遊べないというほどでもない。あまりに人がいないと逆に怖いけど、ちょうどいいにぎわいといったくらいだ。

 心洗われるような波の音。白い太陽の浮かぶ空にこだまする子供たちのはしゃぎ声。大人たちの笑顔。なんと清々しいこの瞬間。海もいいものかもしれない。が、それにしても……。


「でけぇな」


 海へと向かうアキの後ろ姿を眺め、思わず独り言を呟いた。


 アキのおっぱいはすこぶるでかかった。メロンかスイカか。ぱふぱふどころか両側から圧迫されたら最後、圧死すること確実。歳をとったらどうすんだ。富永一郎のアレのように確実に垂れるぞ。上から吊るのかな。

 普段はそれほどでかいとは思わなかったのだが、着やせするタイプだったということか。オマタのやつ、前の星の時代から、おっぱいでっけぇ女ばっかり好きになるな。顔じゃなくておっぱいで女を識別するタイプだな、最低だな、あいつ。


 改めて海へと消えゆく背中を見て思ったのだが、アキは背も高いしかなりスタイルがいい。自分もそれを知っていて、体のラインを強調できるそれなりにセクシーな感じの水着を選択したという風だ。黒ビキニって素人でも着るもんなのな。モデルがスタジオで着るもんだと思ってた。すごすぎて逆に迫力がある。浜辺の視線は独り占めってか。オマタのやつ、これを心配していたのか。


 だが、中身を知っているおれは微塵も欲情しない。


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