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廻天列系における逃走の格律  作者: トトホシ
廻天列系における逃走の格律*ジャイアント・インパクト*

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8 そよそよのチョイスは渋い

 時空の揺らぎを感じてからどう行動しようか考えたり、ポインコのキャラ弁作ったり、色々もじもじしてたら、あっという間に一日が過ぎ去った。俺の日常はなんの変化もない。

 勘違いだったのか、もしくはただの星外からの観光客だったのか。今頃どこかに潜伏して俺を探し回っているのかもしれないが、オマタに聞いたところによると、近辺で不審者の目撃情報はないらしい。追っ手や星間警察だって見た目に不審者ばかりではないだろうが、田舎は怪しい人間がいたらすぐに噂が広まるから、そこのところは信用していいはずだ。特にこの辺は噂好きのばあさんが多い。


 用心するに越したことはないが、とりあえずは安心できそうだ。明後日はアキたちと一緒に海へ行く約束をしている。このままなら心配はないだろうが、一応フードを目深にかぶって、若い人間としては少し目立つこの灰色の髪の毛を隠していくのがいいだろう。身長はニポン人サイズだから髪さえ隠せば目立つことはない。

 どうせやつらが握っている俺の情報なんて、低身長ってことと髪と目が灰色ってことくらいだろ。


 勝ったも同然な気分でアパートの庭先で洗濯物を干していると、背後からぶぶぶぶぶ、と次第に近づいてくる音が聞こえた。これは多分やつらの羽音だ。

 

「クロイツー、水着買いに行こうよ。困ったことに、ニポンの砂浜では素っ裸でいてはいけないらしいんだよ」


 フラッジル、と書かれたオマタの黄緑色のパンツの皺をのばしていたところ、そよそよとベコナ、そしておまるが大騒ぎしながら押し寄せてきた。忙しく家事をしている俺の都合なんてまるでお構いなしだ。パンツを持ったままの俺の頭に、ぼすんぼすんと立て続けに小鳥二羽が着地し、同時におっさん鳥が勢い余って洗濯カゴに激突する。


「あ、おぱんつ。派手だね」

「なーなん、なー」

「兄上殿、池でしか泳いだことのない老いぼれには浮き輪が必要ですじゃ。オマタ殿にはおねだりしてオーケーしてもらいましたじゃ。早速買いに行くですぞ」


 正直今の俺には追っ手よりもこっちの方で手一杯だ。


「ニポンは温泉の混浴も廃止方向らしいし、女と男が裸で一堂に会すことはいけないことらしいんだよ。お国柄なのかお星柄なのかよくわからないよ」

「いや、それアスガルドでもいけないことだったぞ。俺封域生まれだから内地のことはよくわかんねぇけど、多分ニザヴェリルでもいけない方向だぞ、それ」

「そよのところは別にそういう風潮はなかったよ」

「なんなん」

「そりゃ、そよそよとかベコナみたいに、デフォルトが裸なやつらの多いスヴァルトアールヘイムではそうだろうよ」

「わしもスヴァルトアールヘイムに行ってみたいですじゃ」

「普通に服の着てない野鳥が飛んでて、服の着てない犬が走ってて、服の着てない馬が草食ってるのがいるだけだぞ。残念ながら、エロアヒルが考えているようなところじゃねぇ」

「えろ……」おまるがかたかたとくちばしを震わせる。

「なー」おまるはなぜか嬉しそうだ。

「でも最近はオシャレ階級が鳥の姿でいる時も服を着始めたんだよ。せっかく美しい羽があるのに、嘆かわしいよ。あまつさえ蝶ネクタイとか、お笑い以外の何モノでもないよ」

「なーななー」

「うん、ベコナはな、海パンはかなくても大丈夫だよ。アスガルドではそうだった」

「でも、ここはチキウだよ。わけのわからないニポンなんだよ。話している最中にすぐ首をかくかくするニポンなんだよ」それは俺もそう思った。

「それは話を聞いているという、合図らしいですじゃ」そうだったのか。

「頷きすぎだよ」

「ふむ。よし。ここでもう一回チキウについて調べてみるか。宇宙人だとアラを出さないように」

「そうするのがいいよ。そよもお勉強し直すよ」

「そういう常識とか、セイショに書いてあるかな。寿命が違うとかオマタに指摘されたんだよな」

「世界一売れている本だからといって、正しいことが書いてあるとは限らないんだよ」確かにそうかもしれない。俺は浅はかだった。「古い本ならなおさらだよ。罪悪や常識は時代に沿って認識が変遷していくものなんだよ」そよそよの言うとおりだ。

「それもそうだな。とりあえず、水着や浮き輪を買う前に、本屋に行くか」

「さんせーい」


 三羽が一斉に手を挙げる。俺もようやく最後のパンツを干し終えた。


「そよ、狐狸庵先生の本が読みたい。ぐうたらシリーズ!」

「よしよし、狐狸庵先生の本なら、オマタのもつ魔法のカードで買ってやろう」

「わーい!」

「なー! なー!」

「よしよし、『学研恐竜の化石』もオマタの魔法のカードで買ってやろう」

「なーん!」

「ぐわっ! ぐわっ!」

「アヒノレ語でしゃべってもわかるぞ。残念ながら魔法のカードですぐりふみえのヌード写真は買えねぇ」

「ぐばぁ~……」


 とりあえず追っ手のことをすっぽり忘れた俺は、後できっちりお金を請求される魔法でもなんでもないけれど、心だけは何でも買える気になるその点不思議な魔法のカードを握りしめて、三羽と共に街へと繰り出したのだった。

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