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1 見えないもの 見えなくなるもの 見ようとしないもの
君よ、決してその手を離すな。
握りしめたその手を軽々しく開くな。
一度手にしたのなら、しっかりと強く握りしめておけ。
それが手に溶けて体の一部となってしまうくらい強く。
不用意に広げた手から海にこぼれ落ちた水は二度とは元に戻らない。
震えた指の間から砂漠に滑り落ちた砂はもう見つけることはできない。
流れ出た血液は外界を前に君の温もりを忘れて慄き固まり、吐き出された二酸化炭素は君の体温を忘れて散るだろう。
忘れたくないのなら、紡がれた鎖を手放すな。
失ってさえいなければ、例え何度断たれようとも鎖は繋ぎ直せるものだ。




