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廻天列系における輪廻の格律  作者: トトホシ
廻天列系における逃走の格律*アストロラーベ*

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『リート』6 天気のいい日に殺しは合わない。洗濯に限る

 わけのわからん女を無視して、お魚コーナーを通り過ぎ、日用品の棚に目を走らせる。そういえば、そろそろ洗濯洗剤なくなりそうだったんだよな。柔軟剤も。


「クライチさん。あの人の好きな柔軟剤が何か知っている?」


 金魚の糞のごとき弟の元彼女が、中段の棚にある柔軟剤に手を伸ばした俺に向かって、再びオマタに関する質問を投げかけてきた。伸ばした手が思わず止まる。

 一体何だってんだ。かまってちゃんが。これ見よがしに特大のため息をついてから、柔軟剤を引っ掴んで買い物かごに入れると、女はぼそっと「それ違う」と呟いた。


「俺、化学的な匂いが嫌いだから、柔軟剤は自然派無香料のヤツを使ってる」

「あなたのことなんて聞いてないわよ」

「あいつは何だって良いって言ってたぜ」

「クライチさんは、あの人のパンツまで洗っているの?」

「そりゃ離婚間際の熟年夫婦じゃねんだからな。つか、兄弟だぞ俺達。パンツ洗って何が悪い!」

「あなたのパンツと一緒に洗濯しているんでしょ!?」

「んだよ、思春期の女子と違うんだから、パンツくらい一緒に洗ったっていいだろ!」


 ぱんつぱんつと連呼する俺たちを白い目で見ながら客が通り過ぎてゆく。見知らぬ誰かの視線が痛い。


 しかしこの女、おかしいだろ。なんでそんなにつっかかってくるんだ。なんでそんなに敵対心燃やしてんだ。俺はアイツの兄であって、新しい恋人なわけではねぇんだぞ。


「あのなぁ、別れたんだろ、お前たちは。もうとっくに彼氏彼女の関係じゃねぇんだろ。アイツの生活に口出しすんな」


 そういうとアキははっとしたように目を見開き、急に大人しくなった。


 まずい。少し言い過ぎたかもしれない。謝ろうかどうしようかと逡巡していると彼女はびしりと俺の頭を指さした。


「クライチさん、あなた、髪の毛がずいぶん長いわね」


 突如として変わる話題に頭が痛んだ。ヒトの話聞いてねぇなこいつ。


「私美容師なの。今度お店にいらっしゃい。ところでクライチさん。あなた、なでしことパパイヤどちらがお好き?」


 なでしことパパイヤ? 何かの暗号だろうか? シャンプーの香りとか? 全く脈絡のない話の内容に俺の頭はさらに痛みを増した。


「腹の足しになるのはパパイヤだな」

「そう。じゃあアフロにしてあげるわ」

「あ、ごめん。俺、なでしこの匂いが好きかな」

「じゃあ、ソフトアフロね」


 なめんな。アフロにソフトもハードもあるか。


 冗談かとも思ったが、そう言い放ったアキの目がぎらぎらと光っている。ちゃんと話を聞いていたんだな。どうやら俺はとても恐ろしい人物を敵に回してしまったようだ。

 

 星間警察や賞金稼ぎに捕まる前に、こいつに頭を爆発させられそうな予感がする。脳味噌が飛び散るような感じで物理的に。


「アンタなぁ。俺に何か恨みでもあんの?」

「あるわよ」 


 アキの目つきが変わった。先ほどまでの人を茶化すような雰囲気が消えて、正面から俺を睨みつけてくる。


「あなたが現れなかったら、ヒトトセとこんな風にはならなかった」

 

 その言葉を聴いたとき、脳みその奥が凍りつくような感覚に襲われた。

 確かにな。俺が現れなければ、アンタはあいつと今も幸せな恋人同士でいられたよな。その前に、俺がオマタの送り先に地球を選ばなければ。だからって今更どうしようもねぇ。


「とにかく、アンタから三行半を突きつけたんだろ。俺も忙しいんだ。こんなところでいつまでも井戸端会議を開いている暇はねぇ」


 俺は洗濯機の中で脱水されたぱんつたちを思い浮かべ、アキに背を向けた。


「待ちなさいよ! まだ話は終わっていないわ!」


 うっせぇ。


「あいつにはお塩と一緒に新しい彼女も紹介してやるから、心配すんな」

「っ」

「アンタはもう過去なんだよ」


 俺もどうしてこんなにムキになっているのだろう。さすがに言い過ぎたかと思ったが、とまらなかった。一言口をついて出ると、決壊したダムのように次々と棘のある言葉が流れ出てきた。

 そして案の定、俺の言葉にアキが深く傷ついたような顔をした。


「どうして」


 彼女はしばしうつむき、拳をきつく握り締め、歯軋りをした。そして少しだけ震えて、再び顔をあげると、潤んだ目で正面から俺を睨んだ。

 心底忌々しげなものを見るような目だ。こんな目で見られたのはいつ以来だろう。


 思わず上着のポケットに隠しておいたナイフを握った。柄の部分がひんやりと手のひらを冷やす。だがその冷たさはそこで寸断され、思考までを冷やしはしなかった。

 心が少しだけ揺れた。そして、おかしくもないのに口角があがった。牢獄での感覚が蘇る。恐ろしくもないのに、全身が総毛立つ。 


 そういう目で俺を見るな。頭では違うと理解していても、体がお前を敵だと認識してしまう。俺は、飛び出しそうになる右手を必死に押さえ込んだ。


「どうして、私たちを引き離そうとするのよ」

「どうして?」


 どうしてって、決まってんだろ。そりゃアンタが、あいつよりはるかに早く年老いて死ぬからだよ。本当に傷つくのはオマタじゃない。


 ひとり老いて逝くアンタだよ。

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