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廻天列系における輪廻の格律  作者: トトホシ
廻天列系における逃走の格律*アストロラーベ*

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『リート』1 疑問

 地球日本本日晴天。


 まだ太陽が南に上りきらない午前、光さす部屋の真中、俺は固いフローリングの上でもんどり打って悶えていた。


 まずいって。まじで。いやほんとにまじやばいって。


 ここ数日間、周りにだれもいなくなったら、日課のように頭を抱えて転げている。転げたいわけじゃない。転げるしかないのだ。


 近隣宇宙全域に流された指名手配の映像。ばっちり映し出される俺。弟がいる手前、歯を光らせて俺もウォンテッドだぜ! って格好つけてみたものの、実はちびりそうだった。


 星間越えて指名手配ってどういうことだよ。賞金首ってどこの海賊王だよ。しかも生死問わずってなんだ。もうだめだ。終わった。人生終ったよ。


 地球はまだまだ未開の星だ。他の星との交流などないのだから、指名手配犯引き渡しの協定とかあるわけがない。協定終結していないのではなく、協定がないというのは厄介だ。つまり、星間警察とか宇宙連合警務隊とか賞金稼ぎとか、その他色々厄介なやつらがなんの連絡もなしにどしどし地球に入ってきて、問答無用で俺をしょっぴくことができるのだ。もういやほんと勘弁。


 こうなったらこの際、原動アスガルドとの間で引き渡し協定に合意していないどこかの星のどこかの国に逃げ込もうかな。至軸ニザヴェリルなら仲が悪いし、協定に合意していないような……、いや待てよ。俺を指名手配したのってそもそも本当に原動アスガルドなのか。国じゃなくてその星の総意で指名手配を出したってんなら、惑星クラリヲンに戻れもしないのか。じゃあ惑星クラリヲンとの間で指名手配犯引き渡しに合意をしていない星は、えっと地極インフェルノと……、天極エンピレオかよ。これじゃ牢獄に逆戻りだ。


 だめだ。考えがまとまらねぇ。


 俺が転がる度に光に反射したほこりがきらきらと舞う。漂うほこりを眺めて、まだ掃除機をかけていないことを思い出し、洗濯も溜まっていることに俺はまた頭を抱えて丸くなった。


 いや、今は掃除よりも重大なことがある。生活よりもまずは生命だ。


 まず根本的なことから考えてみよう。疑問その一。俺脱獄以外に何か悪いことしたってか。


 話せば長くなるが、俺は至軸ニザヴェリルの封域というところに住んでいたのだが、ある日、原動アスガルドが攻めてきて紛争になった。徹底抗戦の後、ついには捕虜として捕らえられ、それはそれはたくさんのアスガルド兵を殺したため、牢獄に入れられた際には、毎日酷い暴行を受けた。捕虜への暴行は国際法で禁止されている、とは言うが、よい子の喧嘩じゃあるまいし、それを守っていたら戦争にならない。


 でもそこでまぁ、ちょっと色々あって、俺はアスガルドの将軍ハガラズの管轄下に置かれることとなり、捕虜や囚人としての扱いから解放された。しかし、常勝将軍、最凶の軍人、冷血の特殊能力者(ルーン)、皇国の野獣、ヒトの皮を被った化物などなどと呼ばれるハガラズ。俺の扱い方はまるでヒトではなくモノだった。早い話が奴隷だ。もちろんそういう言葉は使っていないが、フタを開けてみたらそうだった。


 ハガラズのおかげで、牢獄も出されたし、捕虜という肩書きもとれたわけだが、あいつの下での毎日は牢獄にいるときと同じくらい酷いものだった。まず、そいつの機嫌が悪いと俺に罪はなくともサンドバックにされた。……いや、もういいや。あのときのことはあんま思い出したくない。


 まあ、それで奴隷生活を送っていたある日のこと。俺はまた牢獄に入れられることになった。ハガラズがいないときに、黒いコートを着た男たちにあっさりと連れて行かれたのだ。惑星そのものが一つの牢獄であるという、天極エンピレオという星に。


 どうしてかはわからない。先の紛争での罪かと思ったが多分そうではない。けれど、理由は教えて貰えなかった。黒服の男達は事務的に俺を連行して天極エンピレオに捨てていった。黒コートの男達が誰なのかもわからない。


 天獄エンピレオ。罪人の星。エンピレオに入れられる罪人といったら、懲役五千年とか死刑百回とかとんでもない罰をくらうような最強最悪の罪人だけだ。窃盗や暴力沙汰、ましてや一人や二人殺したくらいでは入れられない。戦争での殺人ならなおさらだ。

 そこには筋肉ムッキムキとか顔中に傷があるやつとか、いかにも見た目に悪い奴らが多かった。そんな恐ろしい罪人の仲間入りをした俺。か弱い一般市民。


 エンピレオには牢屋や鉄柵など囚人を入れておくような部屋があるわけではない。一見すると、ただひたすらに大自然が広がっている緑の豊かな星だ。魚は豊富にいたが、鳥や四足の動物はほとんどお目にかかれなかった。おそらく長い歴史の中で囚人達が食いつくしたのだろう。


 もともとエンピレオでは囚人同士殺し合いをするようになどとは言われていない。罪人はただ裁判官から判決を受けて、その星に捨てられるだけだ。だが普通の囚人と違って、食事が出るわけではない。魚は豊富だが、エンピレオに入れられるような人間が魚がかかるまで釣り糸を垂らして待っていられるわけはない。やつらはたいがい短気だった。そうなれば話は簡単だ。囚人同士が殺しあって、その肉を食うしかない。


 そこでの毎日はジャングルや砂漠でのサバイバル生活そのものだった。まず血を見ない日はなかった。気を抜いたら殺される。相手が悪ければ骨までしゃぶられる。殺さなければ生きていけない。そこには俺のように、わけも分からず放り込まれた人間もいたが、そういう奴らはすぐに死んだ。


 しかし唯一救いだったのは、その牢獄がどうぞご自由に脱獄くださいという、とんでもない牢獄だったことだ。ただし、できることならね、という追記アリ。とにかく俺はその99.99999パーセント脱出不可能といわれた牢獄の星を、色々なんやかんやああだこうだすったもんだの出来事の末、最終的にエスタの力も借りて脱獄に成功し、地球にやってきたのだった。


 疑問その一の疑問が晴れない。何故に脱出してもいいよって牢獄から脱出したのに、また指名手配出されて追いかけまわされるんだ。殺人脱獄犯なんて罪名絶対ウソだろ。人殺して脱獄した程度であんな額出るわけないだろ。なんらかの理由で俺を抹殺したい誰かが裏で暗躍してるに違いない。だとしたらやはり封域で関係のあるアスガルド人か。


 それにしてもあんな莫大な賞金どこから出るんだよ。税金か。いたいけな市民の血税か。やめとけやめとけ。血税をかけてまでして捕まえる価値など俺にはねぇ。まぁ、どこぞの誰かのポケットマネーってことはねぇだろう。いや、ありうるか。被害者の家族が賞金かけるって話、聞いたことあるもんな。


 もしかして俺、知らないうちに誰か偉い人の子供でも殺してたんかな。


 なんだ、もしかして、あれか、死体をぶつ切りにして池に抛り込んで魚の餌にしたあいつか。いや、あれは仕方ないことだったからノーカウントで。俺は悪くない。


 多分悪くない。 

 

 きっと悪くない。



 そして今日もどうすればいいかの答えは出ない。


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