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廻天列系における逃走の格律  作者: トトホシ
廻天列系における逃走の格律

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33/84

33 ツァラトストラはかく語りき

「おーい」


 クロイツがこちらを振り返り、エスタに向かって手を挙げた。


「後はよろしく頼む」

「うん」


 力強く頷いてエスタがその場に立ち上がった。今度はなにが始まるのかと、顔を上げた俺を見下ろして、エスタが微笑んだ。綺麗な笑顔に思わず顔が火照る。


「一瞬だからね」

「はい?」

「ほいっ」


 綺麗な笑顔のまま、エスタがぱちんと指を鳴らした。


 途端、地べたに横たわった男たちの死体が、ぼっと音を立てて燃え上がった。


「エッ」


 予想しなかった事態に、俺は燃え盛る男たちをぽかんとした顔で見ることしかできない。


 うん、これって火葬だろ。


「うっ、うおおおお!」


 我に返った俺は暗黒の夜空に向かって絶叫した。


 こんな所で火葬するか、普通。しないだろ、普通。死体損壊容疑だ。もっとこう、シリウス・ブラックみたいにふわっと消すとか、ロマサガみたいに分子分解するとかして、ぱっと遺体を完全消滅させるとかできないのか。宇宙人なら。

 灰が残ったらどうするんだ。それを埋めるのか。それにしても明るい。明るすぎる。人が来たらどうしよう。ウフフフ。俺もう警察官として終わったがな。


 そのとき、ふと気がついた。人間が燃える嫌な臭いがしないのだ。宇宙人を燃やすと無臭なのか? 鼻をひくつかせるが、夜の風のにおいしかしない。疑問に思ってエスタを見ると、私の炎が特殊なんだよと言った。


 炎を物ともせず、近くで踊るおまるがひときわ大きく羽を広げた。それに併せてそよそよちゃんも大きく腕を広げる。なぜかそよそよちゃんまでもが、大きな鳥に見えた。いや、天使といった方が正しいかもしれない。


 男たちを取り巻く炎が徐々に消えて、その身体が今度はオレンジ色の光りはじめた。太陽が海に沈むときの色だ。燃え尽きる炎の色。身体の内側からあふれ出すように、光が周囲に漏れ、周りの景色がオレンジ色に染まる。夜なのにそこだけ夕方みたいだ。


 白いおまるの体が、燃えているように赤く光を受ける。

 燃えていたはずの男たちの体が、オレンジ色の光を帯びて空気中に溶けていく。ひとつの有機体が小さな粒子に分解されて燃え上がる。体が燃えて拡散して空に還る。


「銀眼人種は魂を消す。私は魂の抜けた身体を天に返す。せめてその体が天を廻り、循環して、再び生まれてくるように」


 見たことがある気がする。この光景を何度も目にしたことがある気がする。命あるものはやがて死ぬ。体は星に還りまたいつか何かを構成する。パンタ・レイ。万物は流れ去らない。万物は流転する。

 シヲンが今俺の横にいる彼女を形作る分子の一部となったように、俺のこの指先も、誰かの目の一部だったかもしれないのだ。


「ツァラトストラ」

「なに」

「ツァラトストラ。ゾロアスター教。その鳥葬を思い出した」

「チョウソウ?」

「死体を鳥に啄ばませるんだ。鳥は空を飛ぶ。魂を空に還す」


 男の身体が空気に拡散していくように、散り散りになったと思ったら、再び粒子が重なり合って一本の線になり、ゆるゆると螺旋を描いて廻りながら天に昇っていった。

 それも次第に、視界から消えていく。


 無事にもとの星にたどり着けただろうか。もし辿り着けなかったとしても、彼らの一部は雨となってこの星に降り注ぐだろう。そうなればやがていつかは、誰かの喉を潤すことになるかもしれない。そして彼らは誰かの一部となって世界を廻るのだ。


 ヒィヒィフゥフゥ息をきらしておまるが戻ってきた。そよそよちゃんも頬を紅潮させて、ひとつ大きな息をついた。


「ふぅ、一汗かいたよ」

「おまた殿とも一緒に踊りたかったですなぁ」

「すごく上手だったよ、ふたりとも」


 俺は頬を上気させた二人の頭を撫でてやった。

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