2 まわるまわるよ俺はまわる
幼いころ宇宙飛行士に憧れていた少年は、長年見ていた夢を実現させ、覚めることのない夢とともに、骨になって宇宙に埋葬された。
医者になろうと、毎日教科書とにらめっこしながら、必死に机にかじりついて数年間努力した少年は、浪人留年を繰り返し、ついに念願叶って道端で通りすがりの人間の腹を切り裂いた。
彼は巷で敗者と呼ばれたが、聞く人によれば歯医者と聞こえなくもないから、夢を叶えられたと思っていいんじゃないか。
しかし、ああ、なんと世知辛い世の中だろう。
俺はといえば、オリンピックのフィギュアスケーターに憧れて、必死にターンの練習をしたら、あらびっくり。お巡りさんになった。
まわっていることに違いはない。でも、俺がしたかったのは、こんな回転じゃない。
いや、確かにマシさ。さっきの奴らよりは。だが、男としたら、この回転違いは空しいばかりだ。俺はキャンデロロのような、銀盤の上を華麗に舞う三銃士になりたかった。
しかしいくら嘆いても、現実はお巡りさん。とある小さな田舎のしがないお巡りさん。
つい先日なんて、落し物だとニワトリが届けられた。眼光鋭いたいそう立派な雄のニワトリだった。いや、落し物には違いないかもしれない。
だが、なあ、なんと言うんだこういう感情は。