いきなり語りだす
「私の両親は、とある有名な神社の神様なんです。私はそこの娘として生まれました。幼少期から両親の仕事を見ながら育った私は、子供心に憧れを抱いていました。子供の頃の私の夢は、両親のような立派な神様になることでして、私が両親にそれを打ち明けると、満更でもなさそうな顔をして二人で笑っていました。」
僕は、どうやって彼女の目を盗んで逃げようかという考えに没頭し、押し黙っていたのだ。すると彼女が急に語り始めた。これは不意打ちに近く、話題を逸らすことも、ましてや寝た振りをすることなど、一切の逃げの選択肢が奪われたに等しかった。
僕がヤツの手練に驚嘆している間にも、ヤツは自分の生い立ちを、聞いてもいないのに語り始める。
「私が成長していくにつれ、両親も厳しくなっていきました。いつの頃からか、私より両親の方が私を立派な神様にすることを夢見るようになっていました。私は厳しい躾に耐え切れず、いつの間にか両親にも、神様にも。憧れを抱かなくなってしまいました。」
わりとよくありそうな話だ。だけど彼女に似合つかわしくない、シリアスな雰囲気は、事の他彼女によく似合っているように思えた。
「私がどんどんやる気を無くしていくのをみかねて、両親も仕事の方に力を入れるようになっていきました。おちこぼれた私はそれでも神様の娘、最近流行りでもある神娘としての役割をまっとうして、雑務など自分のできる範囲の仕事をやっていました」
神様の世界ではそういうのだろうか?間違った俗世の影響を受けてはいないだろうか。僕に不安がよぎる。
「ですが、有名処の跡継ぎであった、私に対する周りの方々の態度は冷たく、もっと神様らしい行いをしろだのなんで上手くできないんだとか、私は散々冷たいことを言われました。そういう輩にはそれ相応の制裁を下してはいたのですが、私は悩み塞ぎ込んでしまいました。」
「え?やりかえしてたの?」
たまらず僕は聞き返した。
「はい、神娘としての力は強大でして。私に正面から逆らう事ができたのは、両親二人がかりがやっとでしたね」
彼女は自慢げに語る。その姿は神様でも邪神という感じだ。
「それじゃぁ立派な神様になれたんじゃないですか?」
「いや、細かいコントロールがまったくできないんですよね。例えば一人に対して、宝くじ3回連続一等とかはできるんですが、その分他の方々に恩恵はまったく行き渡らないんです。これでは神様としては使い物にならないんです」
話が本当なら半端ない。確かにそれでは使いどころが難しいだろう。嘘ならこいつは可哀想な子で相手するのがすごく面倒、僕は寝たふりをすることにした。




