終わり
ここはどこだろう・・・気持ちも心もフワフワしていて何も考えられない・・。なんだか気持ちいい。
僕はどこか知らない河原を歩いていた。花が咲き乱れ、この世のものとは思えない景色がどこまでも、どこまでも続いている。少し遠くに川があり、川で隔てられた土地を木造の渡し船が何隻も何隻も何度も何度も何度も行き来していた。漕いでいる船頭は深く帽子を被り顔がよく見ない。乗っているのは人間だけではなく、ありとあらゆる生命、像やキリン、昆虫や見たことのない鳥まで、向こう岸に渡るために皆静かに船に乗っているようだった。
僕はその光景を見てもおかしいと思わず、あぁこういうものだったっけ、と深く納得してしまう。
僕が歩いて対岸に近づくと向こう岸で老人が手でおいでおいでと招くような仕草をしていた。あ・・あれは子供の頃よく遊んでくれたおじいちゃんだ。迎えに来てくれたんだ。
僕も早く船に乗って向こう岸に行かないと。でも、ここはどこだろうか?そんなものは些細な問題のような気がしてすぐに頭から掻き消えてしまう。早く向こう岸へと渡らないと、その気持ちがいっそう強くなる。
「やっと見つけましたよーもー手間かけさせて・・・さぁ早く帰りますよ」
いきなり後ろから声をかけられた。この場に合わない明るい声。僕は振り向く。これは誰だっけ・・・?うまく頭が回らない。
「なにボーっとしてるんですか。しっかりしてください」
頬を思いっきり叩かれた。なんでだろう、この感じなつかしい・・・。でもうまく思い出せない。僕も皆と一緒に向こう岸に渡りたい。
「もぉーこんなとこに長居してもしょうがないですよ。早く行きますよ」
そう言ってその人は僕の手を引き無理矢理引っ張って行った。皆がいるとこからどんどん離れていく。僕はうまく抵抗できず、その人に黙って引っ張られる。嫌だ・・皆と一緒に行きたい。そっちに行きたくない・・。
「ほら、あなたはあれに乗ってください」
その人が指さした先には・・・・・モーターボート。。。。?
ドルルンドルルンドルルン・・・・
この景色をブチ壊しにする無骨なエンジン音が辺りにこだましていた。
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僕等は川の流れに沿ってモーターボートを走らせていた。おじいちゃんは僕を追いかけてくれたのだが、老人の足ではまるで歯が立たなかったらしくすぐに見えなくなった。
先に進むにつれ生命の気配はどんどん無くなり、今では花すら咲いてない。土地もどんどん荒れていき地面は乾き、ひび割れていっている。霧が出てきてどんどん前が見づらくなっていく。・・こっちでいいのだろか・・・?だけど、前で運転している人は、そんな事は全然気にしていない様子で明るい口調で僕に話しかけてくる。
「もーあれから大変だったんですよ?救急車から来た人は私と永遠ちゃん見えませんでしたし、神主も首の骨いっちゃてたらしくて誰も説明する人がいなくて救急車の人も警察の人も困ってたんですからね」
なんのことだろうか。。?けど、なぜだか僕に文句を言うのは間違ってる気がした。
「ホント、ぼーっとしてますね。普段からぼーっと生きてるというのに・・・あぁそっか今生きてないんですもんね」
どういうことだ?
「まぁいいです。ほら?もうすぐですよ」
その人はそういうと近くにボートを止めて「よいしょっと」と言って自分だけ岸へと降りた。霧が深くてこの先の景色が全然見えない。どうなってるんだろうか。。。?僕も下りないと。その人に続こうとして立ち上る。するとその人に止められた。
「ここからはあなた一人で行ってください」
その人は僕に微笑む。なにか嫌だ・・。嫌な予感がする・・。コイツのこういう温度のない笑顔の時はろくな目に会った試しがない。ん??こいつ・・?僕はこの人を知っている・・?
「もー仕方ないですねぇ」
その人は、岸からまたモーターボートに飛び乗り僕をなだめるように座らせた。
「ほら、ここからは危ないですからシートベルトもしっかりしておいてくださいね」
そう言うとその人はいつのまにか持っていた手錠の輪の片方を僕の手にかけ、もう片方の輪を船へと掛けた。あれ・・?シートベルトってこういうものだっけ・・・?
「警察の人から盗…借りてきたんですよ?」
その人はフフフとイタズラっぽく笑う。なぜだろう全然笑える気がしない。
「んー行ってらっしゃい」
その人はそう言って、船から岸へとまた飛び移り笑顔で手を振る。
ドルルンドルルンドルルン・・・。
船は操縦者が居ないというのに勝手に動き出した。
ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ
嫌だ。嫌だ。僕は抵抗する。だけど、僕の力ごときでは手錠は壊せそうにない。船はどんどんスピードを上げて行く。どこに連れていかれるというのか・・。突然目の前の景色が途切れた。はい・・・?僕の思考は加速する。つまり・・?船がグラリと傾く。え・・?え・・?その瞬間はスローモーションだった。船は角度を変え僕に見せつけるようにゆっくりゆっくりと下に向く。見えた景色は底などなく僕はゾクリと
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
目が覚めると僕は真っ白な天井を見上げていた。ここはどこだろうか?.なんだかとっても悪い夢を見ていた気がする。僕はどこにいるか確認するためにキョロキョロと辺りを見回す。すると目に物凄いクマを浮かべ椅子に座っている彼女と目が合った。
「おかえりなさい」
色々と言ってやりたいこともあったのだけど、とりあえず
「ただいま」
僕は帰ってきた。
それから・・・・・
医者に見放された×6回
親が医者に今夜が山ですので傍に居てあげてくださいと言われること×3回
彼女にどこか知らない河原で滝壺に落とされた×49回
最後の方はとても簡略化されていて
1、僕を見つけ次第、無言でおもいっきり頬を叩く。
2、僕が驚いてボーっとしている隙に船まで連れていく。
3、船に拷問器具のような椅子が設置されており、そこに僕を固定する。
4、そのまま自動操縦で滝壺までGO
この間わずか5分である。おじいちゃんは最初の方は僕を手招きしてくれていたのだが、15回を過ぎたあたりで手招きから手を頭の上で横に大きく振りbye bye の仕草をすると、それ以来姿を見せなくなった。
僕はあまりの肉体的な苦痛と精神的な苦痛の両方で、情けない話なのだが・・泣きながら彼女にお願いした。
「いっそ・・死なせてくれませんか・・・?」
「ダメです」
初めて彼女を神様としてちゃんとお願いしてみたのだけど要求はすぐに却下された。だけど彼女はめずらしくとても真剣な表情をしていて、僕は・・泣きながら笑ってしまった。




