天罰は物理で行う
「さぁ願いをどうぞ」
僕は少し恥ずかしくなりながら、彼女の顔を見やる。彼女は、最初の頃とは打って変わって、清らかな佇まいだった。お金でここまで変わるのか。僕はお金の力に打ちひしがれていた。
「お金もちになりたいです」
とっさに今思いついた事を言ってしまう。なぜか、浅ましい心を読まれている気がして赤面してしまった。
「私もです」
返答はあっさりとした自身の願望であった。仮にも神様を名乗るならそれっぽいことを言ってください。僕は両手を合わせながら、必死にそう願っていた。
いちおう、作法に従い軽く一礼をして帰る。1000円で大切なことが分かった。自称神様はたいがい役に立ちそうもないということだ。次にこういうやからに会うようなことがあったら、無視を決め込もう。友達や家族にもこの貴重な経験を広めてあげよう。そうすることで騙される人が減って、人類は幸福に近づいていくのではないだろうか。僕は人類の幸福について思案しながら歩を進める。足取りは軽く、今ならば僕が神様にさえもなれそうな気がしてくる。あぁ皆が皆幸せになればいいのにと僕は本気でそう考える。
「もう、帰っちゃうんですか?」
僕は今しがた決めたとうり、彼女を無視した。無言のままに階段に向かう、一度でも返答してしまうとズルズルいてっしまうだろうという予感がなぜだかあった。彼女は僕の隣を並走してきて、なんともうっとおしい
「無視ですか~?天罰くだりますよ~くだっちゃいますよ~いいんですか~?」
さっきまで参拝していた僕に対する態度としては、中々に最悪な対応をとってきた。無視してる僕も悪いけど、そんな簡単に天罰は下していいものじゃないかと僕は思う。
こいつは神様でもなんでもない。僕の中でその確信が真理へと変わろうとしている時、彼女はふいに立ち止った。僕は少し嫌な予感がしたけど構わず歩を進める。
「神様きーっく」
そんな叫び声とともに、いきなり背中を蹴られた。僕はたまらずバランスをくずして、手を地面についてしまう。
「なにするんですか?!」
「神をないがしろにしたあなたに、天罰が下ったのです。」
当然の事が今起こったのです。そういいたげな微笑を浮かべながら彼女はゆっくりと語った。
「天罰がくだると後ろから蹴られるんですか?そんな話聞いたことないですよ?!」
僕は四つん這いの体勢のまま早口でそうまくしたてた。後ろから蹴られるといった経験は初めてで少し頭にきていた。
「そうです」
彼女はほほえみながら、ゆっくりと神様みたいに、うなづいた。
「じゃぁ後ろから蹴る人は神の使いかなにかなんですかね?!いっぱいいそうですけど?!」
「中には神様もいるんですよ?」
今、この人にいきなり蹴られました!街中でそう叫んでも誰も信じてはくれないだろう。こいつを逮捕するには現行犯しかないだろう。そう思わせられるほど彼女の態度は優しげだ。
「あ、やっぱりあなたバカなんですね?!神様とか自分で名乗っちゃうし!ここに人がいないのもあなたのせいじゃないんですか?!」
彼女は微笑のまま温度が下がり、笑顔が凍りついた。僕はとっさにヤバイと感じて、あわてて体勢を変えようとした。
「神様きーっく」
再びそう叫ぶと、四つん這いの姿勢のままの、僕のお腹に向かい下から思いっきり足をつきあげてきた。その威力は大したもので、とても初めてとは思えない見事な蹴りっぷりだった。運悪く鳩尾に入ってしまった僕は情けない事にそのまま意識を失うことになる。
意識を失う前遠くの方から「天罰だ天罰だ」と彼女の嬉しそうな声が聞こえて、僕の意識を遠ざける手伝いをしてくれた。




