二月の寒空の下、相撲を取るという愚かしさについて(二)
早く始めて早く始めて早く始めて!!!
寒さのあまり、勝敗などどうでもよくなってきた僕の頭の中はこればっかりだった。早く終わらせて廻しの上からでもいいから何か着たい!寒い寒い寒い。
そんな僕をよそに彼女は元気よく
「のこったー!のこったー!」
と掛け声の練習をしていた。神主はそんな彼女を恨めしそうに見て、何かブツブツ呟きながら震えている。
いちおう観客として永遠ちゃんを呼んである。
「誰も見てくれないなんて寂しいでしょう?」
という、彼女のいらないおせっかいの結果だ。永遠ちゃんは、この観戦にお呼ばれした時、嫌がった。それはもう烈火のごとく嫌がった。
「私、何か神様に対して悪いことしましたか・・?なんで?こんな汚い男達が半裸でこねくりあってるとこ見せられなきゃなんないんですか???あの・・私、なにか罰を受けるようなことしましたか・・??」
だそうで、相撲は好きだけど、僕等は嫌いらしい。永遠ちゃんはその言葉違わず、パイプ椅子を用意して座り、全身を温かい恰好で包み、ひざ掛けをして本を読んでいた。ヘッドホンをして何やら落ち着いた音楽を聴いているようだ。まるで、こちらの世界を断絶するように。ひざ掛けの上にはハウス君の木箱を置いている。いちおうハウス君も観客扱いみたいだ。僕が永遠ちゃんのお膝の上に居れるなんて、ハウス君羨ましいな~とまじまじ見ていると、たまたま顔を上げた永遠ちゃんと目が合った。永遠ちゃんは、ハァ・・と大仰な溜息をついた後、そのうなだられるままに本に目を落とした。僕はなぜか少しだけ身体が温まった。
だけど、風が吹くたんびに身体を震えさせていることは変わらない。僕は彼女に早く始めるよう促す。
「そろそろ始めましょう。寒くて死んでしまいそうです」
「そうだ!早く始めろ!なんで俺がこんなことしなきゃなんないんだ・・」
神主も震えながら、神様に悪態をつく、久しぶりに喋ったと思ったらこれだ・・恨みは深いらしい。
彼女は震えている二人にやっと気づいたようだ。彼女の頬は紅潮している。掛け声の練習をしているうちに身体が温まったようだ。どうして行司が一番やる気に溢れているんだろう。たぶん今日一番楽しんでいるのは彼女で間違いはなさそうだ。
「もー盛り上がってたのに・・わかりましたよー・・・」
どうやら脳内で僕等を戦わせ、それに合わせ掛け声をしていたらしい。どうやらいい勝負だったらしく、途中で邪魔が入った事が気に入らないらしかった。
「じゃぁ位置についてください」
彼女は少しだけやる気のなさそうな合図を出すと僕等を開始位置にまで導いた。やっと・・ここまできた・・長かった・・・。僕は色々な事を思い出す。ここで初めてお賽銭をしたこと、ハウス君の中に連れ込まれ脅されたこと、半場強制的にここに住むことになったこと、行方不明者を二人救ったこと、神様がアイドルをしようとして止めたこと、彼女と遊んだこと、そして今日裸のおっさんと相撲を取る事・・そうか・・僕は一つの結論に辿り着いた。心の中だけでもいい、叫ばずにはいられない。廃れるわけだよこの神社ああああああああああ。
そんな僕をよそにして、彼女は楽しそうに行司をこなす。
「見合って見合ってー」
僕と神主は開始位置に立ちにらみ合う。お互い殺さんばかりの勢いでにらみ合う。かがんで・・・ん・・?あ、あれ・・相撲の開始の合図ってどうするんだろ・・?僕は目の前で射殺さんばかりの目でにらむ神主を不安げに見る。神主はじっとして何かを待っているようだった・・。なにを・・??そう・・僕は土俵造りや廻しの正式な締め方にかかりきりで、相撲のルールなど、ろくに調べていなかったのである。僕が不安な心持で彼女の方を見上げると・・いきなり神主が突っ込んできた。僕は突っ込まれた勢いのまま後ろに転がる。ま、負け・・負けてしまった・・。僕が茫然としていると彼女が叫んだ、
「待った待った待った―!立ち合い不十分です!!」
どうやら、神様としての彼女より、行司としての彼女の方が優秀らしかった。




