彼女の正体(二)
「地球の神様・・・?」
あまりに突拍子がない、その言葉に僕はたまらず聞き返してしまう。そんな僕を見て神様にもあまりうまく伝わってないのが伝わったらしく。
「わかりやすくいえば・・・そうだね、あの子は後半のピッコロだ・・・」
と神妙な面持ちで、判りやすく例えてくれた。
「ピ、ピッコロですか・・・?」
「そう、ピッコロだ・・」
「つ、つまり・・?」
「え・・・?君は・・ドラゴンボールを読んだことがないのかね?」
「あります・・・けど・・すいません。真面目な話とばかり・・・」
「私はあの子についての!!真剣で!!真面目な話をしているッッ!!!!!」
怒った、超怒った、マジだった。本気と書いて本気だった。僕とお父様を挟んでたテーブルはお父様が怒ったと同時に下ろされた拳で真っ二つに分断された。まるで僕とお父様の絆みたいに真っ二つに分断された。
「次にふざけたことを抜かしたら、君がこうなると思っていてくれたまえ」
間違いなく彼女の親だった。
「ドラゴンボールというのはだな・・・」
え・・・そっち・・・?
~30分後~
「私は鳥山先生のサイン色紙がどうしても欲しくってね。神職者に乗り移って、貰いに行ったんだよ」
結構アクティブー!ではなく・・あまりにも関係のない話が延々と続きそうなので、さすがに時間が惜しくなり僕は自分から話を戻すことにする。
「つまり地球の神様ってことですよね?」
「・・・そうだ・・あの子は自分の神力を上手い事使えないだろ?」
色々思い返してみると、確かにそんな話をしていた気がする。あまり気にはならなかったけど。
「あの子の神力は文字どうり桁が違う。なんたって地球なんだ。それを僕等の真似をして人間サイズで使おうとしているんだ。いうなれば地球を人間一人に押し止めるようなものだ。上手くいくはずないよ」
「・・・だったら本当の事を教えてあげればいいじゃないですか?」
「私もずっと、そればかり考えていた。だけど・・あの子が私達の間に生まれたのは何か意味があると思うんだ。私は人間の神様だ。だから、とりあえず人間の事を深く知ってほしかった。」
なんで僕にこんな大事な話をするんだろう。
「君が今、一番あの子の近くに居るからだよ。今、私達はあの子を地球の神様として迎え入れる準備をしているとこなんだ。」
「準備・・ですか」
「だから、無理を言ってあの子をこの神社から遠ざけている。君にはあの子の正体を知っていてほしかった」
「どうしてですか・・?」
「君には過ぎた願いなのは解っている・・。でも、願わくば、あの子を本物の神様にしてやってほしい」
どういうことだろうか?その後、僕と神様は少しだけ彼女の事を話して、この場はお開きになった。僕は長い廊下を歩きながら神様が言っていたことを考える。
「あの子を本物の神様にしてやってほしい」
僕には今の彼女が本物なのか偽物かすら見分けがつかなかった。そもそも本物の神様ってなんだろう?
そんな事を考えながら歩いていると向かいから彼女が歩いてきた。彼女は真っ白なワンピースから真っ赤なワンピースへと着替えていた。彼女の本性というか暴力性を知っている僕としては白よりこういった、情熱的な色の方が彼女にはよく似合っているように思えた。彼女のほうも僕に気づきテトテトテトと少し小走りで近づいてくる。
「あらら、私も今から相席しようと思ってたんですが、汚れを落とすのに時間かかっちゃって・・もう話はいいんですか?」
「はい、あなたのお父さん、娘がそんなに立派になったのか?!って泣いて喜んでましたよ」
「おぉ!あなたもたまには役に立ちますねぇ!!よろしいよろしい許してあげましょう!!」
・・なにをだろう・・。大丈夫、お父様とは口裏を合わせてある。本当の事を報告したところ
「あっはっはっは、そんなことだろうと思ったよ」
と豪快にわらっておいでなすっていた。やはり神様とは懐の深いものなのだろう。
「ところで、そのワンピースよく似合ってますね。着替えたんですか?」
僕は、話をそらすために彼女を褒めてみた。だけど彼女はキョトンとして
「え?着替えてませんよ?」
「え?」
「え?」
「???」
「???」
「まぁいいです」そう言いながら来た道へと振り向いた彼女の背面は、確かに前に着ていたモノと同じ純白の白だった。変わったデザインもあるものだな。まあ紅白は縁起がいいし、いいことなのだろう。
「ん?そういえばこれからどうするんですか?」
「もう用事は済みましたし帰りましょう。お父様も本当は忙しいんですよ」
まさかの日帰りだった・・。
辺りはすっかり暗くなっていた。僕は来た道を気を付けながら車を走らせる。彼女は帰り道、少しだけ自分の子供の頃の話をしてくれた。実家に帰って何か考えることがあったんだろう。僕は彼女のお父様から聞いたことを彼女に伝えようか少しだけ迷ったのだが、やめておくことにした。あちらで準備をしているというし、そのうち彼女も自分の正体を知ることになるだろう。その時この神様が何を思うか僕にはまったく見当がつかない。もう少しで神社につくところで僕は彼女との約束を思い出した。
「そういえば満漢全席つくってくださいね」
「・・約束ですしね。全部つくるのは無理でしょうし。なにか希望とかありますか?」
「んーじゃぁ麻婆豆腐お願いします」
「あはは、満漢全席に麻婆豆腐はないですよ」
「・・そうなんですか・・?」
「そうですよー・・あははは。好きなんですか?まあ入れときますよ」
なにもそこまで笑わなくてもいいだろうに・・作ってくれるなら文句はいうまい。
会話が止まり、静かになったのでふと彼女の方を見ると、一点を見つめたまま固まっていた。
「あれ?私達の家から煙がでてる??」




