彼女の正体
扉を開けた先は・・案外普通の部屋だった。スッキリしてると言えば聞こえはいいが裏を返せば何も無い、悪く言えば独房のような部屋だ。そこに一人の男が座っていた。30代半ばぐらいだろうか、少しやせ気味で眼鏡をかけたその男は僕の姿を見つけると、「やぁ」と気軽に声をかけてきた。
これが彼女のお父様??案外普通の人のように見える。それとも彼女に騙されたのだろうか・・。僕が悩んで立っていると、その男も何かを察したようで僕の悩みに答えてくれる。
「この姿は借り者だよ。この人は普段は神職者として修行をしていてね、君とこうして喋りやすいように勝手だけど借りたのさ」
それは本当の話だろうか?嘘か本気かわからない。ただ、僕にはどうしても目の前のこの人が、嘘をついているようには思えなかった。
「神様って、そんな事までできるんですか?」
「私は人間の神だからね。だからこうして人間に対して力を使えるし人間にこんなふうに崇められるのさ。まぁその代わりに人間に良い目をみせてあげなきゃいけないんだが」
神様はそう言うとフフと儚げに笑った。その笑顔はどこか憂いを帯びており、今までに色々なことがあったと僕に想起させるには十分だった。
「まぁ、こっちにきなさい今の私は人間とそう変わらんよ?あまり人間の前に出てしまうと、その者に影響がありすぎるから人前に出ないようにしてるんだけど、ま、今回ばかりは私の娘が世話になっているようなんでね、失礼のないように借りたのさ」
そういって、気さくに笑うこの目の前の人は本物の神様なのだろう。なぜだか僕にもそれだけはハッキリとわかってしまう。
「恐縮です。あなたの娘さんには僕の方こそお世話になっているぐらいです」
社交辞令も交じって入るのだが、いちおう飯の世話やらをしてもらってはいるので本当の事を伝えておく。そう言った僕に対して神様は、なぜかとっても驚いていた。
「君はあの子にどんな弱味を握られているんだい・・・?」
どのように行動すれば、実の親からこのような悪い意味での信頼を勝ち取る事が出来るのだろうか。彼女の昔話が僕の前で花咲く事は、永遠に来ないことがこの時確定した。
返答に困っていると、神様は少し困った顔をしてから微笑んで。
「私もあの子には苦労させられててね。恥ずかしい話だけど、注意して言うことを聞かせるのが精一杯だったんだよ」
それだけでも大したものだ。僕なんかやられたい放題やられているというのに。僕達は互いの目を見つめあうと、どちらともなく手を差し伸べガッチリと握手を交わした。男という生き物はこれだけで無用な言葉はいらなくなるものなのだ。
僕はテーブルを挟んで、神様の正面に座りニッコリと微笑んだ。被害者同士、いまや10年来の友のように感じる。
「ところで、あの子は自分の事を君になんていってるんだい?」
「神様だと言い張ってますけど・・・あれ、本当なんですか?」
神様は難しい顔をして考え押し黙った。
「あなたが人間の神様?ならやっぱり人間の神様なんですか?」
「違う」
それだけは違うと間違いなく否定して
「君は八百万の神という言葉を知っているかい?」
「えぇっと・・・万物に神は宿ってるみたいな考え方でしたっけ・・?」
それが彼女とどんな関係があるのだろうか・・僕にはわからない。
「そうだ・・八百万の神というのは自然万物に神様が宿るといった考え方で、昔はさほどめずらしいモノでは無かったのだが一神教が主流となってからは・・・・(割愛)」
なかなか話が長かった。人に対して教えるのが好きなのかな?なんとなく神様向きだなーと僕はボンヤリと思っていたのでした。
~1時間後~
「つまり、概念さえあれば神様は存在する。それがなんであれね。そしてそれは、誰かが、ナニカが望んだから神様はそこに居るんだよ」
「えっと・・つまりアノ人は何の神様なんですか・・?」
僕はたまらず口を挟む、神様は少し間を空けて。
「あの子は地球の神様なんだ」




