実家にて
「とりあえず、車で待っていてください。私はお父様に挨拶してきます」
彼女はそう言うと僕を置き去りにしたまま、どこかに行ってしまう。彼女の実家は僕が知っているくらい有名だった。確かにその一人娘である彼女は神様としては位が高いに違いない。だけど、彼女は自分でも何の神様か解らないという、そんなことがあるのだろうか?
1時間ほど待っていると彼女が戻ってきた。
「お父様があなたの話をしたら、会って話をしてみたいそうです。来てくださいな」
「えぇ・・行かなきゃいけないんですか?」
「私が立派になったことを立証させるために連れてきたんですから・・上手い事言ってくださいよ?さもなくば・・わかってますよね?」
もはや従うしかなかった。僕は仕方なく彼女の実家に足を踏み入れることになる。
広い敷地に対しても隅々まで整備が行き届いている彼女の実家は、確かに僕がいる今の神社と比べると、物足りなく感じてしまうのも仕方なく思えた。所々にいる神職者と思われる方々が忙しそうに動き回っており、なにやら真面目に神職に取り組んでいるらしい。これでは、あのウチにいた神主の話と比べてしまうと神様として、彼女の神主に対するあの態度は仕方ないのではないだろうか。
そうしていって、彼女は普通に本殿へと入っていった。僕も彼女の後について行く。勝手に入っていいのかと迷ったのだが、どうやら神職者の方々は僕等の事が見えていないようだった。
「あなたは私の召使として来てますからね。ここでは神の使いと人間の半々の立ち位置になるんですよ。だから、普通の人間には認識できないようになったんです」
彼女が言うにはそういうことらしく、そんな都合の良い話があるのか?とは思ったのだが・・・色々あるのだろう・・・色々・・・・・!!
そうして長い廊下を彼女と歩いていると急に彼女が立ち止った。そうして僕の方へと振り向いた彼女はとても良い笑顔であった。
「お父様はあなたと二人だけでお話がしたいそうです。ここからは、一人でお父様のところへ行ってください。」
「えぇ、一緒にきてくれないんですか?」
知らない神様、しかもコイツの父親と二人きりなんて、もしかして僕はただ単にお父様とやらに捧げる生贄なのではないだろうか。嫌な不安が頭をよぎる。彼女は僕のそんな不安をよそに、そのままの笑顔で続ける。
「まぁいいじゃないですか・・。この扉を開けたところでお父様は待っています。あんまり待たしてはダメですよ?私はこれから昔お世話になった方々に挨拶をしてこようと思います。いわゆる、お礼参りというやつですね。」
「ん・・?その使い方間違ってますよ?」
お礼参りとは神仏にした願い事が成就した折にお礼として参拝することである。神様に昔お世話になったからといって使う言葉ではないはずだ。
「いえ?合ってますよ?」
「え?」
「え?」
「???」
「???」
僕等は互いに顔を見つめあった。何か食い違ってる気がする・・・。どういうことだろうか??脳がこれ以上考えるなと警告して僕は思考を止める。ふぅ危ない危ない。
彼女は、「まぁいいです」と言って僕等が歩いてきた道とは反対方向へてくてくと歩いて行った。鼻歌混じりに歩く彼女の足取りは軽く、まるでこれからピクニックにでもでかけるようだった。
彼女の姿が見えなくなって少ししてから「ギャアアアアアアアアア許してください許してください」という叫びが響き渡った。
僕はあまりの恐怖に耳を塞ぎ、つい逃げるようにして、彼女のお父様とやらが待っている扉を開いて中に入ってしまうのだった。




