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神様気分  作者: みつる
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車中にて

僕は彼女を実家に送り届けるために車を走らせていた。彼女の実家は山を突っ切った所にあるらしく、曲道やトンネルがとても多い。この道は鹿もでるらしいので、気を付けていないとすぐ事故を起こしてしまいそうだ。

あの後、僕は八咫烏を結界から解放して手厚く介護してあげた。もちろん痛んだ羽へのケアは怠らない。動物愛護団体に所属している僕としては彼女の行為は許されざる行為であり、普段なら殴ってでも止めるとここに明記しておきたい。八咫烏は僕の手厚い看護にいたく感激したようで

「君はイイ奴みたいだな。君の事はあの方に良く言ってあげよう。吾輩は1週間ほど帰るのを遅らせることにする。君達はその間に報告を済ませるといい」

と言って、飛んでさってしまったのだ。そこには遺恨というものはなく、悲しみや憎しみとは無縁のものだったとここに記しておく。


彼女は「んー楽しみですね」と言い、足をパタパタさせていた。彼女は白のワンピースを着ていて、僕から見ても気合が入っているのがわかる。なんでも立派になった所をご両親に見せつけてやるのだそうだ。なんで、そんなとこに僕がついて行かなきゃいけないかというと

「あなたは信者第一号兼召使いとして両親に紹介させてください、お願いします」

と頼まれたからである。もちろん、そんなの男のプライドが許さない嫌だ嫌だとのたうちまったが、それからの事は想像にまかせることにする。今、僕が召使いとして彼女を実家に送り届けているのがその答えだ。

「あ、そうそう」

彼女は、何か思い出したように唇に指を当て呟いた。

「粗相があれば殺しますから」

直球ーー!いきなり内角高めにキツイ球を放りこんできた。普段はオブラートに包む彼女のめずらしく直接的な物言いに僕は動揺を隠せない。これは何かの罰ゲームなのだろうか?召使として彼女の親である神様に紹介され、もし粗相があれば殺される。一体、どこに僕にとっての得があるのだ・・。

一応、事が無事に済めば彼女が僕に満漢全席を振る舞ってくれるという手筈にはなっているのだが、死んでしまっては元も子もないだろう。美味しい料理につられずやめておけばよかった・・。後悔ばかりが募っていく。

彼女はんーっと伸びをして「つまらないので、何か面白い話をしてくださいよ」と無茶振りしてきた。何で僕がそんな事せなあかんのだ?なぜいつもコイツは唐突なのだ?どうせ話したとこでツマラナイツマラナイと言うのだろ?と数々の疑問が湧き出てきたが、僕も暇ではあったので、面白い話をしてやる。

「じゃぁ野球選手の名言これは誰でしょうクイズをしましょうか?まず、第一問」

「いや、いいです。おやすみなさい」

彼女はそう言うと寝たふりを敢行した。わざとらしく「スピースピー」と口で言っている。最初は寝たふりだったのだろうが、いつしか寝息は本物となり、本当に寝てしまったようだ。

僕は腹が立って彼女のデコに軽くデコピンをしてやった。彼女は「ん、んん・・」といって眉をひそめたが、また可愛らしく寝息を立てはじめた。その後、何度かデコピンをしてやった。少しだけ僕の憂さは晴れた。男としての価値は相対的に下がった気もするがまあいいだろう・・・。


2時間ほど車を走らせ、もうすぐ目的地というところで彼女が目を覚ました。

「お!もうこんなとこですか。召使としては、まぁまぁの腕前ですね」

こんな嬉しくない賛辞があるのだろうか?彼女の主人としての腕前はひたすらないように思えた。

「あ、あそこの石から先が私の土地なんですよ!あの山からあの山まで、ぜーんぶ私の土地なんですから」

親のだろう・・。僕はそう思いながら彼女が言っていた石を車で通りこしたその時、

「グドロキマナスギテナコナヅナキイヲスキウウウウウ」

様々な獣の入り混じった叫び声が轟ろいた。そして山中の鳥たちが一斉に飛び立ち、僕等と反対方向に逃げていった。

「素敵な歓迎ですね・・?」

彼女は僕の皮肉に「制裁ですね」とポツリと呟いた。



その頃、彼女の実家では山の異変に気づき、彼女が帰ってきたことをすべての神々が察した。ある者は親が危篤だと逃げ、ある者は子供の運動会が始まったと意味の解らない事を呟き早退し、ある者は理由も言わずに行方をくらました。残ったのは立場上逃げられない者や、彼女に対して、極力嫌がらせをひかえていた先見の明があったもの達だけであった。そのうち何人かが遺書をしたため、彼女という災害が無害に通り過ぎていくのをひたすらに願っていた。




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