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神様気分  作者: みつる
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ハウス君と喧嘩とモールス信号

ハウス君についてのあれこれ

彼女が造った ペットのような存在 何かの魂を使ってるらしい 箪笥が本体 彼女が命名 ハイカラな名前をつけたかったとか 家を操る 彼女によると基本優しいらしい。


ハウス=Houseである。でも、犬に自分の小屋に戻れと命令するときに使う躾の用語でもある。多分その犬というのは・・・。



「私は格闘技が見たいんです。暴力こそ、この世の真理です。誰も彼も最終的には殴り合うはめになるんです。アインシュタインだって戦争は最終的には腕っぷしで戦うんだーって言ってるくらいなんですよ!」


「僕だって、こればかりはゆずれません。好きな野球選手の特番があるんです。野球こそ人類が生み出した英知の結晶であり、人類が最終的に到達するであろう目的地です。人類はそのうち国家同士で野球をして争うことになるでしょう。そこには高度な情報戦、心理戦があり、終わった後は互いの健闘を称えあい人類は幸福と平和へと向かうのです。今日がその第一歩となるかもしれない記念すべき日なんですよ?!」


彼女は僕の話を聞いてポカーンとして、ハッとして


「あ!あなたやっぱり馬鹿だったんですね!薄々そうじゃないかと思ってたんですけど今確信しました!」

「・・・あなたには言われたくないです!」

「フンッなんにしろここの家長は私なんですからねチャンネルの優先権は私にあります」

「たまには僕にも・・・」

「ダメです格闘技はリアルタイムで見てこそなんです」

「わかりましたよ・・!じゃぁ僕は出ていきますからね!」

.


彼女と喧嘩した。テレビのチャンネル争いというくだらない理由だったのだけど、どちらも譲らず、ついに僕は怒ってしまいこの家を出ると彼女の前で宣言してしまった。彼女は僕の発言に一瞬驚いた顔を見せたが、「そんなに出ていきたいんなら好きにすればいいですよ」と投げやりに言って、テレビのほうに向いてしまった。

僕はそんな彼女に何も言わず部屋をあとにし、そのまま玄関へと向かっていった。今日は漫画喫茶にでも入ってゆっくりと野球の特番を見よう。僕はそう考えながら靴を履き、玄関を出た。


目の前で彼女がテレビを見ていた。


一瞬、何が起こったか頭が追い付かない。僕は確かに玄関にいて、家の外に足を踏み出したはずである。それなのにどうして、また、自分から出ていった部屋に入ろうと足を入れているのだ。僕の頭は混乱したが、すぐに答えにたどり着いた。ハウス君の仕業だ。こんなことは彼女でも無理だろう。ハウス君の意図はわからないが、彼女はまだ僕が後ろにいるということに気づいている様子はない。僕は彼女に気づかれないよう静かにこの部屋を出ようとして、後ろを向いた。すると後ろには暗黒が広がっていた。まるでその部屋を境に暗幕でも張ったかのように真っ暗だ。僕は生唾をごくりと飲み込んだ。この先は一体どうなっているのだろか・・想像もつかない。僕は財布から10円玉を取り出し、その暗闇に投げてみた。10円玉は暗闇に入ったとたんに姿かたちが見えなくなり、すぐそこに投げたはずなのに落ちた音すらしない。退路は断たれたか・・・。さすがに人生をかけて、野球の特番を見たいとは思えない・・。所詮その程度と言われればそうなのだろう。僕は人類を幸福に導く事など到底不可能だと悟ってしまった。そんなくだらない事を考えていたら、畳に足がめり込んだ。「ッヒ」と自分で聞いたこともないような声が腹の底から漏れる。畳は僕の足首まで飲み込み、そこからもゆっくりゆっくりと僕を飲み込んでいっている。足にピタリと張り付いた畳のイグサの冷えた感触は僕の心を心底震えさせた。こ、殺される・・。直観的に生命の危機を感じた僕は必至に畳から足を抜こうとしたのだがピクリとも動かない。叫ぼうにも上手く声が出ず「ヒッヒッヒッヒッヒッヒ」とまるで呼吸をするかのように悲鳴が漏れた。その間にも畳は僕をどんどん飲み込んでいって、ついには膝まで畳の中にピタリと納まってしまった。だが、なぜかそこで畳の動きが止まったのだ。僕はあまりの恐怖に少しも動けないでいる。汗が流れ、自分がまだ生きていることを気づかせてくれた。テレビからは解説者の熱のこもった実況が聞こえているがうまく頭に入らず、どこか遠くの出来事のように感じる。彼女はまるで僕に気づく様子もなく、静かにテレビを凝視していた。いつもなら盛り上がってる場面ではワーワーうるさいはずである。そうこうしてるうちに、僕の手前の畳がズズズとのめり込み、中からポリ袋に入ったミカンが出てきた。

僕はそれを見てハウス君の思惑をすべて察する。大丈夫だ。僕ならうまくやれる・・・。僕は自分を奮い立たせた。ハウス君から僕に提示された選択肢は二つだ。ハウス君にこのまま飲み込まれ行方不明となるか、もしくは・・・


「みかんを持ってきました。一緒に見ながら食べませんか?」

彼女が僕に気づいて振り向いた瞬間、後ろの部屋も、僕を飲み込もうとしていた畳も、すべてが元どうりとなった。彼女の目は赤くなっていて、一瞬驚いた顔をしたものの

「しょ、しょうがないですね・・今、いいとこなんですから、早くそれ持ってきて座りなさいな」

そう言って、テレビに向き直ると畳をバンバンと叩いた。僕はしょうがないと思いながら彼女の向かいに座った。テレビはどんどん盛り上がり、盛り上がりすぎた彼女は僕にバンバン技をかけ始めた。

・・・だから嫌だったんだ。



疲れて寝るために自分の部屋に戻ると、部屋の明かりが不規則に点滅していることに気づく。切れたのかなと思い、替えがあるかどうか押し入れを漁っていたら、また畳に足がめり込んだ。どうやら違うらしい・・・。

ネットで調べてみると、どうやらモールス信号になっているらしかった。ハウス君は僕に何かを伝えたいらしい。


--・-- --・ ・-・・ ・・ ・・-・・ ・・-


意味は ありがとう だった。


・・・・どういたしまして・・・。



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