謎の温泉回
トットットットットット廊下が鳴いて、ピシャっと障子が開いて。
「す、凄いこと思いついちゃいました!!!温泉を掘りましょう!!!」
無茶振りが来た・・・!
「いやー温泉神社なるものは、そこそこあるんですけど、温泉に入れる神社っていうのはないんですよね。神聖な場所だから仕方ないのかもしれませんけど。だけど、そこが狙いです」
彼女は手書きのプリントを僕に配り、黒縁の大きめな眼鏡をかけ、どこから用意したかわからない白衣を着ていた。たぶん気分は先生?なのだろう。ここは広間の一室であり、僕はこのせんせーから突っ込みどころ満載で時間の無駄な講義を受けている最中なのである。
「温泉を掘り当てて、そこを一般の人達に無料で開放するんです!そんな気前のいい神社は他にないでしょ?そこはかとなく、料金の代わりにお賽銭をするように仕向ければ一千万なんてあっというまですよ!どうですか?!」
「すいません、抜けてるところばかりなので質問していいですか?」
彼女は僕の問いに少し間をあけて、眼鏡をくいっと直してから一言。
「どうぞ」
うぜえ・・・馬鹿だってわかってるから余計なしぐさがすごくうぜえ・・・
「あの、温泉ってだいたい何メートル掘ればいいのかご存じなんですか?」
彼女は額に手を置き・・・少し考えてから
「温泉っていたるところにありますよね?つまり誰でも掘れるということで・・だいたい10mくらいですかね?」
A,温泉となる条件は、19の決められた成分のうち一つでも入っているか。または水の温度が25℃以上あるかどうかだそうです。中には勝手に湧いてくる温泉などあり、だいたい何メートル掘れば湧くのかは場所によって違ってくるそうです。ただ、地熱の関係で2000mほど掘れば25℃に達するので、その深度で水脈を掘り当てれば必ず温泉になるそうです。最近、いたるところに温泉ができているのはこういった背景があるそうです。つまり、25℃さえあれば成分関係なく温泉!意外と闇が深い!
「だいたい掘るといっても1mあたりどれぐらいお金がかかるかわかってるんですか・・・?」
「0円です」
A,業者に頼むと1mあたり6~7万だとか、ただ深さの度合いや岩の固さなどでまた違ってくるそうです
「馬鹿ですかあなたは。僕が調べたら、だいたい100mで1000万くらいかかるそうですよ。それだけあれば実家に帰れるでしょーが」
「0円です」
「いや、だから・・」
「私とあなたとで掘るので0円です」
ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・・ザク・・
「おーい、そろそろ100mくらい掘れましたかー?」
「まだ!僕が見えてるだろーが!!!」
あれから2時間ほどの時間が立った。僕は嫌だ嫌だ無理だ無理だとごねたのだが
「私は毎日ご飯を作ってます。あなたは何をしてくれるんですか?ところで全然関係ない話なんですけど、ハウス君、神主がいなくなって遊び相手に困ってるそうですよ?」
という脅しが決め手になり、僕は今、一生懸命穴を掘っているのだ。さすがに1500mは無理だと僕が言うと、じゃぁ私が最初に言った10mでいいですよと慈悲をもらえた。だが、まさか穴掘りがこんなに重労働だとは思いもよらなかった。とてもじゃないけど10mは無理だろう、危ないし。
「お昼作ってきたんで、ご飯にしましょう」
僕は快く彼女の申し出を受けることにし、掘った穴をかけあがった。だいたい1.5mほど掘れたかな。ただここからは、穴を補強したり空気を循環するよう何か考えなければなるまい。
「今日はここでお昼にしましょう。おにぎりと卵焼き、ウインナーも焼いてきました」
「美味しそうですね。すいません、ありがとうございます」
彼女はビニールシートを穴の横に広げ、持ってきた弁当を開け、水筒からコップに2つ分お茶を注いだ。彼女にしては簡単な料理だが、ピクニックという趣なのだろう。味付けは濃い目で、疲れた僕にはとても美味しく感じられた。
「お昼終わって休憩したら、次は私が掘りますね」
「いえ、まだいけそうですし、もう少し掘りますよ?」
「いいですよー休み休みいきましょう?私も穴掘りしたいですし」
穴掘りしたいんだ・・・うーん、なんとなく乗り気なのはそういうことなのだろうか?変わった趣味だ。
「わかりました。じゃぁ僕が食器とか片づけるのでお願いしますね」
「よーし頑張るぞー」
そう言って、休憩もせずにスコップを持って穴の中に入っていった。僕はやれやれと思いながら弁当とビニールシートを片づけ始める。すると
「で、でました!!温泉です!!」
何を馬鹿な事を言っているんだと思って穴の中を見てみると、彼女の足元に確かに水がたまっていた。
「あ、熱いです!これは25℃以上ありますよ!」
彼女は穴の中から這い出してきて僕に確認を求めてきた。僕が驚きながら靴を脱ぎ穴に入ると確かに水が温かく25℃以上はあるようだった。
「こ、これで私は億万長者です!実家にも帰れるし・・・やはり私は凄いです!!」
彼女は狂喜乱舞してるが、いまだに信じられない僕は唖然としていた。こんな簡単に温泉が掘り当てられるなんて聞いたこともない。それにここは温泉地帯というわけではなく、近所に温泉があるわけでもない。彼女の神力なのだろうか・・?お湯は少しづつ湧き出ているようで、今では僕の膝を濡らすぐらいになっていた。
「手続きに2か月・・?手数料数十万・・?面倒です。やめましょう」
個人で使う分には関係ないらしく、こうして僕達のお風呂は温泉になった。
30分ぐらいでネットで調べたことなので、この話の情報は鵜呑みにしないでくださいね。




