トイレの神主さん
「ハウス君ハウス君、昔神主居たでしょ?出してもらえませんか?」
すると、突然トイレの白い壁が人型に浮き上がり
ウボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
と壁が叫んだ。
「ぎゃあああああああああ。何ですかソレは!早く早く!しまっちゃってください!!」
彼女がそういうとトイレの壁は何事もなかったかのように元通りになり普段の静けさを取り戻した。
「ハァハァ。嫌なものを見てしまいましたね。とりあえずお茶にしましょうか・・」
え?どうすんのあれ・・?
僕達は作戦会議と評して居間に移動し、彼女の提案どうりお茶を飲むことにした。
「ふぅ、やっぱりお茶と言えば緑茶ですね。緑茶は体にも良いんですよ?リッラクス効果もあるし美容にもいいんです落ち着きたい時はお茶を飲むことをオススメします」
「いや、どうでもいいんですけど・・。アレ・・どうするんですか?忘れてたでは済まないでしょ・・・。」
「記憶力向上やボケ防止にもいいんですよ。緑茶最強です緑茶」
「へぇ・・じゃぁいっぱい飲んだ方がよさそうですね・・」
「・・・しょうがないじゃないですか!!忘れてたもんは忘れてたで!神主がいなくなって、過ごしやすくなったんですもん!たぶん嫌すぎて脳みそが記憶を消去してたんですよ」
「でも、5年くらい立ってるんでしょ?よく無事でいられましたね・・・」
「あぁ、ハウス君に飲み込まれたからでしょ、肉体的な時間は止まるんですよ。精神的な時間はそのまんまですけど・・・」
「それ、地獄じゃないですか・・?」
壁の中に5年って・・・それは発狂してしまっても仕方ない
「ハウス君が嫌がらせもかねてケアしてくれてたそうです。役割や楽しみを与えるなどして適度な生き地獄として神主を守っていたそうです」
「なんか滅茶苦茶な話ですね・・・」
神の前で放屁とはそこまで罪が重いのか?
彼女はさっきの事を忘れようとしているのか、いつもより多めにお茶を飲んでいる。僕も流されそうになってしまうが、同じ人間としてさすがにこのまま放置では気分よくこの家で過ごすことができないだろう。
「このままほっとくわけにはいきませんし、出してあげましょう。また記憶を無くすなどして」
なんだかこの神様から悪い影響を受けている気がする・・・。
僕達はさきほどいたトイレに戻り。またハウス君にお願いする。
「ハウス君ハウス君、神主出してあげてください。しょうがないですよ・・可哀想ですし」
ゴトッとトイレの中から音がした。彼女はトイレのドアを開き中を確認する。
そこにはズボンを下げたまま涎を垂らし失神した小太りの神主が座っていた。
「ギャアアアアアアアアアアア」
バタンッ!彼女はトイレのドアを勢いよく閉めなおした。
「ハァハァ・・お茶にしましょう・・・・」
彼女はそう言うと早々と居間に向かって歩いていった。逃げるんだ・・・。僕はそう思いながらトイレのドアを開いてみた。するとそこには誰もいなかった。
「あんな状況聞いてません。ハウス君めっ!ですよめっ!!」
彼女は箪笥に向かってプンプン怒っていた。僕に怒る時とは随分と対応が違いソフトな気がするけど気のせいだろうか?
「もぉ・・しょうがないですね。このままハウス君に消化してもらいましょうか・・・」
「しょうがなくないです!死因がズボンを下げた姿を見られたからとか可哀想すぎます!」
「じゃぁ、あなたが引きずり出してくださいよ・・私はここで何かあった時のために待機することにします」
「何があるというんですか・・・?」
「テレビの特番です」
そうですか・・最早何を言っても無駄だろう。このままあの神主はズボンを下ろした姿のまま彼女の嫌な記憶カテゴリに分類されてしまい、また忘れ去られてしまうだろう。
しょうがない、人類代表として悪い神様から神主を救わねば。
僕は席を立ちトイレに向かって歩いて行く。部屋を出る間際に彼女の様子を確認したら煎餅をかじりテレビを見て笑っていた。なんとなく彼女が昔、神主に抱いた感情はこんなんだったのかなと思った。
「ハウス君、神主戻してください」
僕はトイレの前に立ち誰ともなくそう告げる。すると先ほどと同じようにドサッとトイレの中から音がした。
ドアを開けると、ズボンを下ろしたまま失神した神主が座っていた。僕は溜息をつきながら神主をトイレの外まで引っ張ってやる。このままどうしようか困ったが、とりあえずそのまま外まで引っ張って行った。
「起きてください」
僕は神主の頬をぺチぺチ叩いて起こす。ほどなくして神主は呻きながらも目を覚ました。
「だ、誰なんだお前は??ここはどこだ?出れたのか?」
ん、記憶が消されてない・・?神主はキョロキョロ辺りを見回すと、彼女の家を見つけ
「うわああああ」
といって神社から逃げ出してしまった。
「あちゃーなまじ飲み込まれていた期間が長かったから神力に対して抵抗力がついたんでしょうね。記憶は消せませんでしたか困ったなあ」
夕飯を食べながら彼女は、んーと唸っていた。
「でもいいんじゃないですか。記憶を無くしていなかったら僕とか知らない間に住みついてる変な奴になりますし」
「そうですね・・・神主は勝手に逃げちゃいましたしこれでよかったのかもしれません」
あははは、僕達は笑っていた。だが、彼女は人間というものがどういったものなのか理解しているとは思えなかった。
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