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神様気分  作者: みつる
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昔の話

「ごめんください。私、ここの神社に神様として新しく派遣されてきたものです。どなたかいらっしゃいませんか?」

スーツケースを横に携え、お洒落な恰好に身を包み、麦わら帽子を被った彼女は呼びかけた。人の気配はするのだが、誰も彼女の声に答えるものはいない。たぶん彼女の声は届いていないのだろう。彼女を認識できるのは、もうすぐ死んでしまう人間か、なにか霊的な力がある人間だけだから。

彼女もその事を自分でわかっていて、何の許可もとらずに靴を脱ぎ、家に入っていった。もしかしたら私が見える人かもと少しばかりは期待していたのだが、それは徒労に終わったと確認して。


これは彼女がこの神社に来たばかりの話である。


始めの頃は張り切っていたそうだ。親元を離れ、親の庇護がないこの土地で自分の力を思う存分試してやろうと。だけど十日も立つ頃には自分が置かれている状況の悪さに辟易してしまったらしい。

境内はあまり手入れが行き届いていなくて、人も全然来ない。なにより

「がハハハハハ」

このテレビを見て馬鹿笑いしている神主である。神主としての仕事を全くといっていいほどやっていない。神主の仕事というのは、常に神社を清い状態に保ち、その神社に祀られている伝統や作法を受け継いで次の世代まで守り続けていくものだ。決して楽な仕事というわけではない。誰かに褒められるわけでも、ましてお金をたくさんもらえるわけではない。地味といっていい仕事だ。だけど、神様と人の橋渡しをするということに対して誇りや喜びを感じているはずである。少なくとも彼女の実家ではそうだった。有名処の神社の娘として生まれてきた彼女は、自分の実家がどんなに恵まれていたかをここに来るまでまったく知る由もなかった。


今現在、神社の数は全国に八万以上ある。だが、神職者の数は2万人ほどしかいない。つまり、複数の神社をかけもちしているか、または神社として人々に忘れられてしまったかである。まだ彼女が来たこの神社は神職者がいるというだけで恵まれている方なのだ。だけど、それを彼女は判らない。ただただ、この目の前の神主が不真面目で、神様に対して礼儀を知らず、野蛮で、不躾な、彼女が知っている神主とは似ても似つかぬモノにしか見えなかった。彼女はひとつきが立つ頃には部屋の片隅で涙を流し。

「お父さんお母さん会いたいよぉ」

と物凄いホームシックに陥っていたという。


だけど、彼女はずっと下など向いているはずもなかった。まずは徹底的にいたるところを掃除した。いつ誰かがお参りにきても気持ちよく、私に願いを告げられるように、神様自ら掃除した。だけど神主は所々が綺麗になっていくというのにまるでそのことに気づく気配がない。それどころか彼女が掃除をして住みやすくなったのだろうか、食っちゃ寝を繰り返し体重を5キロ増加させていた。同じだけ彼女の鬱憤は増加した。


気分転換である散歩の時間はどんどん長くなっていった。あの神主とあまり同じところに居たくないという思いがあったのだが、そういう負の側面から彼女は目を背けていた。いつかあの神主も神職に真摯に取り組むに違いないとかたくなに信じていた。その散歩で彼女は一冊の本を拾い、運命は変わっていく。

「ドラえもんひみつ道具大辞典?ひみつ道具なんて素敵ですね・・・・なになに・・こ、これはすごいです!!・・これはフィクションです?人の名前かなにかでしょうか?とにかく凄いひみつを拾ってしまいました・・」

彼女は横文字には疎かった。こうして運命の歯車は回りだした。歯車に巻き込まれるのは今、自分の神社にどんな神様がいるのか、何も知らない神主なのだが。







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