隣町の神社に行こう!(三)
「水盤を破壊したり、お守りを燃やしたりしたのはお前達だろ?どういうつもりなんだ?警察呼ぶぞ!」
神主らしき人は僕達を呼び止めるなり、至極真っ当な事を言ってきた。誰だってそんな事をされたら頭に来るだろう。だけど、一つだけ訂正させてもらえるなら、お前達ではなく、お前だ。共犯者にしたてあげられた僕だが、やったのはコイツです!とまるで名探偵のように彼女を指さしたいものである。だけど、そんな事をすれば指が自分でも曲げたことのない方向に彼女によって曲げられるだろう。というわけで、彼女の出方を伺いつつ、神主さんの機嫌を損ねないよう振る舞わなければならない。ようするに板挟みである。
「水盆は、もともとヒビが入って割れやすくなってました。お守りは、お祓いもちゃんとしてないようなので、燃やしました」
彼女は、木を見たまま振り向きもしないでそう答えた。
「やっぱり貴様らがやったのか、とにかく割った水盤と燃やしたお守り、弁償してもらうからな」
「私は、××神社の者です。××さんから命じられてこの神社に調査にまいりました。」
彼女はそう言うと、ようやく神主さんの方へ振り向きニッコリと笑った。木陰に守らて巨木を背にした彼女はなぜだか迫力があった。神主さんはその神社と名前に聞き覚えがあるのか、唖然とした表情で彼女の顔を見ていた。
「お勤めご苦労様です。調査の結果は後日××さんから伝えられると思います。そろそろ時間なので、私は失礼します」
「ま、待ってください!それならそうと早く言ってもらえたら・・・違うんです!」
よほど××さんとやらが恐ろしいのだろう、神主さんは必死に彼女をいかせまいとする。だけど調査?××さん?そんな話は彼女から一度たりとも聞いたことがない。やはり神様だから、神類関係の情報網があるのだろうか。彼女は必至に止めようとする神主さんを振り切り、その場を後にした。
「では、さようなら。また今度、落ち着いたら会いに来ますね」
去り際にそう言った彼女の事を神主さんはキツク睨んでいた。後ろの木がザワザワと風もないのに葉をゆらす。
「ふぅーなんとか乗り切りました、危なかったです。」
彼女は車に乗り込むと、体の力を抜きそう言った。首をコキコキと可愛げに鳴らす。
「ですね、危うく全部弁償させられるとこでしたよ。よく咄嗟にあんな嘘つけますね・・・。」
「そっちじゃなくて駐車場。もうすぐ一時間過ぎちゃうとこだったじゃないですか」
「えぇ・・そっちのことですか?」
「アハハ。500円でもお金はお金ですよ?大切ですからね。というかさっきのは嘘じゃないですよ?さっきの木に頼まれたんです」
「え?」
「最近真面目にやってないから、××神社の××さんに報告してくれって」
「木と喋れるんですか?」
「だから、あれは本物ですって。長いこと生きて神様が宿ったんでしょ。結界張ったのもあの木らしいです。最初どんな化け物が入ってきたかと身構えたそうですよ。アハハ」
化け物と大差ないと思うけどな。やってた事は化け物のそれだし。
「一度、あなたとはお会いしておきたかったって言われちゃいました。私はあの木の事なんて全然知らないのに私ってやっぱり業界内では有名人なんですよ!」
たぶん悪い意味でだろうな。僕は無言で彼女に答えた。
「そういえばあの神主さんあなたの姿が見えてましたね。あれやばいんじゃないですか?」
「それもあの木のお蔭みたいです。長い事パワースポットにいるおかげで半端に力がついてるそうですよ。あの木、神主さんの祖先に恩があるんですって。それでずっとあそこを守ってるらしいです。でも最近たるんでたからちょどよかったって感謝されちゃいました。また嫌がらせに来てくれって頼まれたんですよ?」
「それは皮肉も入ってるんんじゃないんでしょうか・・?」
「そんなことはないですよ!あの木と私、友達になったんですよ!ご近所神友ができました!」
だから機嫌がよかったんだ。彼女はふふふと嬉しそうに笑った。確かにこの神様は敵にするより友達になったほうがずっと得だろう。神主さんはこれから大変だろうな、彼女は友達にはとっても甘いから。
「そういえば、うちの神社って神主さんはいないんですか?」
僕は何気なく彼女に聞いてみた、大した意味はなく会話のついでにふと思ったことを口に出しただけだったのだが
「あ・・・そういえば忘れてました」
なにをだ。




