隣町の神社に行こう!(二)
「手水舎がありますねぇ。どれどれ、お手並み拝見といきましょうか」
「帰りましょう・・。」
彼女は僕の願いをまるで聞こえてないように振る舞い、手水舎に侵攻していった。
「出で立ちは立派ですね。無駄にお金がかかってます」
確かに立派だった。大きく頑丈そうな木造切妻屋根、そしてその中には10人ばかりが一斉に押し寄せても、ちゃんと手を清められるくらいのスペースが確保してある。真ん中には龍の彫刻が鎮座し、その口から水が流れていた。ちなみに我が神社は精々3人が精一杯であり、竹の棒から水を流している。
「見てくれより大事なのは中身ですよ中身。手水舎で大事なのはなんといっても水ですから」
彼女はそう言うと、柄杓を手に取り作法に従い手を清め口をすすいだ。
「っは、水道水ですね、これは」
彼女は吐き捨てるようにそういうと、僕の方を向いてどうだーといいたげな勝ち誇った顔をしてきた。
「フフフン、まずは一勝といったところでしょうか?」
「何の勝負なんですか・・?」
「顧客満足度勝負です」
「そもそもウチはその顧客が来ないんでしょ・・?」
彼女は笑顔のまま固まると持っていた柄杓をバンッと乱暴に置いた。その瞬間、水盤は綺麗に真っ二つに割れ、大量の水が流れ出し僕の靴を濡らした。
「あ」
「あ」
「・・・あらら、だいぶ老朽化してたみたいですね」
「・・・」
「次行ってみよー」
僕達は大騒ぎしている手水舎を逃げるように後にし、次のターゲットへと歩を進めた。
「授与所ですか」
「なんですか、それ?」
「お守りやお札をいただくところですよ。どれどれ」
「帰りましょう・・」
彼女はまじまじとお守りやお札を見ている。八種類ほどあり、僕もよく見たことあるようなスタンダートなものだった。ただ在中している巫女さんが、何かご用でしょうか?と声をかけてくださり、3個ほど授けていただきたくなった。巫女さんいいなー欲しいなー。
「っは、ダメですよこれは、大量生産の粗悪品です」
神様と巫女さんの交換とか無理かな。無理だろーなー。せめてもうちょっとしおらしくなれませんか?
「だいたいそんなものでしょ・・。」
「フフ、私の神社のお守りは完全受注生産の特注品ですよ?作るのに一年ほどかかりますが、ありとあらゆる要望にお応えできます」
「一年・・・安産祈願だったら出来る前に生まれちゃいますね。ちなみにいくらぐらいなんですか?」
「500万ほどかかりますかね」
「誰が買うんだよそれ・・」
「と、とにかく!ちゃんとお祓いもしてないようなお守りなんて、神様として見過ごすわけにはいきません!えーい☆」
巫女さん「あーお守りがいきなり燃え出したー!」
巫女さんはどこかに助けを呼びにいったようだ。
「大丈夫です。お守りに私の神力を無理矢理入れて器を破壊しただけです。そもそも本物なら燃えません。それに他の物には危害は及びません」
「ホントに神様なんですか?あなた」
「ネクストー!」
彼女は自身を守りきれなかったお守りを放置し、次の獲物を探す。
「あ!パワースポットがありましたね!今日のメインディッシュにふさわしいですよ!」
「もう何もやらかさないでください」
「・・・あそこさえ潰せばうちの神社にも少しは人が・・・」
何か今すごい事を言った気がしたけど、聞かなかったことにしよう。
「おぉこれは本物ですよ!すごいパワーを感じます!」
それは、とても大きい木だった。樹齢何百年かはたっているだろう。周りには囲いがしてあり木の周辺には苔が生えている。ずっと昔からここを守ってきたみたいだ。
「たぶん、色んな人がこの木に様々な想いを残したんでしょう。何か特別な場所だったのかもしれません。そういう想いが全部折り重なってすごいパワーになっているみたいです」
「最初からというわけじゃないんですか?」
「はい、人間によって作られたようなものです。たまたまでしょうけど。いやあいいもの見れたな」
彼女はめずらしく興奮しているようだった。じっと木を見て動かない。やはり人が集まるところには、なにかしら本物があるのだろう。なんにしろ彼女がこの場所を破壊するつもりはないようで安心した。
彼女がここを動こうとしなかったので、しょうがないので僕も木を眺めていたら後ろから呼び止められた。
「ちょっと、そこのあなた達こちらに来てもらえますか?」
振り返ってみると、そこには後ろにさっきの巫女さんを従えた。神主らしき人が立っていた。というか、今あなた達って聞こえたんだけど・・・。




