追い詰められていく
そもそも、僕は彼女の横を通り後ろにおいてきたはずである。それが僕が気づかない間に前に行き階段で待ち構えるなど、可能だろうか?境内はほぼ直線な一本道である。若干曲がっているものの、もし後ろから追い抜かれたりすれば、誰だって気づくだろう。僕は若干恐怖を感じた。何か幽霊の類なんじゃないかとありえないと思いつつそう感じていた。
彼女には悪いが、僕の帰りたい値は限界を振り切っていて今にも壊れそうだ。
「逃がしませんよ?お参りするまではね!!」彼女は僕が聞こえてないと感じたのだろう、さっきと同じセリフを放ってきた。
彼女は肩で息をしていてフーフーと唸っている。息は冬で凍えているといっても必要以上に白く、階段の上からでもはっきりとそれが確認できた。僕は走って回り道をきたのだろうと、無理やりながらも辻褄を合わせることにした。
「お、お参り・・・」反応がない僕に不安を感じたようで、その声からは、だんだんと力がなくなってきていた。
「わ、わかりましたよ。しますします最初っからそのつもりでしたし」
投げやりながらも、そう答え僕はお参りをすることにした。なんとなく悪い人には見えず、なんか可哀想だし少しくらいならとそう思ったのだ。
そのとたん彼女は見違えるように顔に光が差し、どよんとした獲物を逃がさないぞという目は蘇り、潤み、涙をしたたせた。
「夢夢じゃないかしら初夢かな。だったらいいな、初夢なら叶うもの。そうよ待ってればいつかは夢は叶うのよ」
何かただならぬ事情があるのだろう・・。だけど帰宅のパロメーターは振り切れれいて、あとはどう穏便に家までたどり着くかを僕はない頭で必至に計算していた。関わりあいになりたくない。ここまで本気でそう思うことは初めてだった。
「じゃ、じゃぁ案内しますねー」
うってかわって彼女は意気揚々と階段を上り、僕の前を歩き出した。たまにこちらを淀んだ顔で振り返り、逃げてないかを確認してくるのが怖い。
僕はあきらめて素直に彼女のあとをついていくことにした。
「ここが、手水舎ですねーまずは身を清めましょう!ホントは潔斎や禊をしてもらいたいんですが、面倒なので、まぁいいです」
面倒って・・・自称神様なのに・・・?
「まずは右手で柄杓を取って、水を汲み、それをかけて左手を清めます。 そして左手に柄杓を持ちかえて、右手を清めます。 」
「なかなか本格的なんですねー」
僕がそういうと少し彼女の笑顔がひきつった。さも本物ですのでと言いたいようだった。
そうして僕は言われたとうりに手を清める。水は澄んでいてとても綺麗だった。手に触れた瞬間冷たくて、なんだか身が引き締まるような気がした。
「今度は再びひしゃくを右手に持ちかえて、左の手のひらに水を受け、その水を口にいれてすすぎます。 すすぎ終わったら、水をもう一度左手にかけて清めてください。」
言われたとうり行動する。水は澄んでいて美味しかった。なぜ自分がこんなところでこんなことをしているのか疑問が浮かんだが水と一緒に飲み込んだ。
「使った柄杓を立てて、柄の部分に水を伝わらせるようにして清め、柄杓を元の位置に戻してください。この時、直接柄杓に口をつけてはいけませんよ?多くの人が使うものですから当然ですよね?」
「僕以外誰もいませんよ?」
「何かいいましたか?」
「水とってもおいしいですね・・・」
「でしょでしょ!すっごい深いとこから引いてきてるんだから!もう!名水なんだから!いやぁ君見る目あるねぇ!ご利益アップしてあげるね!!」
話題を逸らそうとしただけなのに、思いの他食いついてきて引いた。そんな簡単にアップさせるなよ・・ありがたみがどんどん反比例して薄れていく。
もうかなりウンザリしていたのだが早く帰りたい一心で黙ってついていくことにした。
「そしてここがぁ!参拝するとこです!!!」
その佇まいは凛として顔は晴れ晴れ。僕に逃げ場所などないと思い知らすには十分だった。




