隣町の神社に行こう!
「ホントに誰も来ないんですね・・・」
「まぁいつものことです。大事なのは慣れですよ?慣れ!」
慣れたら終わりだろ・・。そう思いつつも、この先が見えない生活に慣れてきてしまっている自分が嫌になる。
今日は曇っていて、なんだか余計に暗い気持ちになってしまう。彼女と僕は寒いので、枯れた落ち葉や枝を集めて焚き火をしていた。煙を見た近所の人が心配してここまで来ないかなという淡い期待もあったのだが今のところ音沙汰ない。
「なんだか火を見ると落ち着きますね」
「火って昔から神様と深く関わってるらしいですもんね-。あなたって、もしかしてそれ系の神様なんですか?」
「それ系って・・・~属性みたいな言い方凄い失礼ですよ。まぁそういう言い方をするなら、私は・・・えっと。。無属性ですかね・・・?」
「え・・・?そういえばあなたって、何の神様なんですか?」
「・・さぁ・・?」
「・・・」
それっきり会話が無くなってしまった。パチパチという枝が破裂する音だけが僕等の無言の隙間を埋めている。彼女と僕はぼーっと火を見ていた。そこに感情といったものは無く、二人して自分の未来を案じているのだった。
自分が何の神様かわからないって、それは神様といえるのか・・・?
「きょ、今日はなにしましょうかねー?あなたがしたいことしましょうか」
話題を逸らすために最近の彼女にしては珍しく、やけに下手に出た態度で話しかけてきた。
「そ、そうですね・・どこかに行ってみませんか?気分転換にもなりますし」
僕もそれに乗っかって、さきほどの話題から逃げるようにして話を逸らす。逃げていい話題ではない気もしたが、深く掘り下げれば掘り下げたぶん、何も出なかった時の恐怖は何事にも代えがたいものがあった。世界の平和はあらゆることから目を背けることで保たれているのだ!
「あなたと外出ですか?二人っきりで?えー・・・」
「今の流れでよくそんな嫌そうな顔できるな・・」
「どこに連れていくきですか?はぁ・・・」
「よくそんな溜息つけるな・・・。そうですね・・・隣町の神社に行ってみませんか?」このままでは良くない。そう判断した僕はひとまず、栄えている隣町の神社に行ってみようと提案してみた。何か参考になるアイディアが浮かぶかもしれないし、暇潰しにはなるし・・・。
「それはいいですね!行ってみましょう!」
やけにノリがいい彼女を見て気づくべきだったのだ。この後の参事に。
隣町の神社は僕がそう呼んでいるだけで隣町にあるわけではない。だいたい僕の車で30分くらいの距離だ。彼女の移動手段は徒歩らしく仕方がないので僕の車で隣町の神社まで行くことになった。
「神様って飛んだりできないんですか?」
「できる神様もいるみたいですけどね、私は無理です」
「そういうもんなんですか」
「車はいいですね。歩くのも好きですけど、車は速くて風を感じます」
そんな事をいいながら。欠伸をして彼女は目を瞑った。眠いのかなと思いながら僕は隣町の神社まで車を走らせる。
「着きましたよ。起きてください」
「あぁここがそうなんですか。なんだかやけに殺風景ですね。」
「・・・ここは駐車場です」
「・・・」
そう、この神社には地元民以外にも人が集まってくるのだ!遠くから来る人のために有料の駐車場を完備しているのである!一時間500円!現在八台=四千円!
「ッチ、いけすかないとはこのことです。絶対一時間以内には帰りましょうね」
彼女はそう言いながら車のドアをバンッと強めに閉めた。目つきも悪くてなんだか機嫌が悪そうだ。
「そうですね、ここまで規模が大きいと逆に参考になりそうもないですしね」
敷地的には僕等の神社の3倍はあるだろう。しかもパワースポットとやらがあるらしく、最近のブームに乗って有名になったのだ。
「パワースポットなんて、本物だとしてもそこに住むぐらいしないと恩恵もらえませんよ。それより私の神社に賽銭したほうがよっぽどご利益がありますよ」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。他所は他所ですよ」
「あなたがそんなんだからダメなんです」
うーん、なんだか機嫌が悪いな・・連れてきたらまずかったかな。そんな事を考えながら少し歩くと鳥居が見えてきた。鳥居は神社の玄関みたいなもので、ここで神域と俗界を区画しているらしい。この前彼女が説明してくれた。
「あ、結界が張ってある」
彼女が鳥居の手前で急に立ち止った。
「僕には何も見えないですけど、ホントに結界なんてあるんですね」
「うちにも張ってあるんですよ。超すごいやつが」
「そうだったんですか」
意味ない。超意味ない。
「へぇ・・なかなかいい結界だ。私が通れないなんて」
「神様なのに通れないんですか・・?」
「神様だからですよ。人間だって知らない人に勝手に入られると嫌でしょ?」
神様にも色々あるんだ。じゃぁしょうがないし帰りましょうか。そう言おうとおもったのだが、彼女が腕を振り上げた。僕がなにをするんだろうなと思った矢先。
「えい☆」
彼女は鳥居の真ん中あたりの何もない空間に向かってチョップをした。その瞬間ガシャーンとガラスが割れるような音がどこかから聞こえた気がした。
「い、今なにをしたんですか・・?」
「はて?なんのことですか?さぁ行きましょう」
彼女はそう言って易々と鳥居をくぐり、悠々と歩いていった。僕はそんな彼女についていく。さきほどより距離を開けて、無関係を装う準備をしながら。




