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神様気分  作者: みつる
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神友(四)

僕達はカセットテープと共に神社の開けた所にいた。


「ここならダンスの練習にはもってこいですね!永遠ちゃん!準備はいいですね?!」

「ぇぃぇぃぉー」

「テンション低いですよ!もっと上げていかないと立派なアイドルにはなれないですよ!」

「なりとうない・・・」

「・・・ヘイ!カセット係!準備はバッチリですか?あとは押すだけですよ!初めが肝心なんですから初めが!」


今日はよく晴れてて天気がいい。ツンと冷たく空気がからっとしている。僕はパイプ椅子に座り、カセットテープを膝に乗せていた。何気に重いし地面に置いておきたいのだけど、彼女がそれを許さなかった。僕はカセットテープの置台、ボタン係として機能させられているのだった。虚しい。

彼女と永遠ちゃんはというと、着物を着ていた。なんでも神様アイドル神ドルの正装らしい。着物ってダンスには全然向いてないだろうに・・。見た目とインパクト重視らしい。出落ちという感じが否めない。


「アイドルなのに歌わないんですか?」

「まずはダンスからでしょう。ビジュアルさえあれば、あとのことは全部ついてきます」

この神様はアイドルを舐めきっている。歌えない、踊れない、何より見えない。これで人気を得ようというほうが無理がある。だけどカセット係にそんな事を言う権限は無いだろう。僕はあきらめてボタンの上にそっと指を置いて、彼女の合図をただ待った。


「さぁ歴史が始まります!音楽セット、アップ!ヤーハー!」

なにその合図。僕はそう思いながらカセットのボタンを押した。


カチッ きーみーがーよーは ちよ

無意識にボタンをもう一度押した。

「なぜ止めるんですか?!」

「これは、色々とまずいでしょ?!」

「いい歌じゃないですか・・歌いやすいし、誰でも知ってるし!」

「それが問題なんですよ!」

「はぁ・・・あなたは、まともにカセットさえ扱えないのですか?見てください永遠ちゃん。あれが時代に取り残されたみじめで哀れな人間です!」

「ごみクズ・・・」

もうういいや、早く帰りたいな・・。僕はわかりましたと言ってカセットの再生をもう一度押した。カセットからは、この場にそぐわない荘厳な音楽が流れ始めた。僕は何も考えないようにして、感情が死ぬ。


「永遠ちゃん!まずは音楽に合わせて各自好きなように踊ってみましょう。それでいいと思ったら、その振付を採用します」

そんな適当な感じで行くんだ・・。そのいいつつ彼女は音楽に合わせて踊り始めた。手をまっすぐに伸ばして拳を握り、両手を上下に動かして腰をフリフリしている。うわぁ・・本当に適当だぁ。


永遠ちゃんはというと、なにか妙になつかしい踊りをしていた。どこか・・・子供の時によく踊っていたような。あ、、盆踊りか・・・。でもなぜか永遠ちゃんは一生懸命だった。こんな馬鹿みたいな企画でも必死に音楽に合わせ、自分の知っている振付を披露しているふうだった。多分この子の根は真面目なんだろう。

彼女たちは、お互い慣れ始めたようで、しまいにはフォークダンスのように相手を回したり、バレェのような動きを取り入れたり、色々なことを試していた。カセットは何度でもリピートして僕等には終わりなど来ない、そんな気さえしていた。

2時間後、疲れ果て、座り込んだところで僕はカセットを止めた。彼女と永遠ちゃん背中を合わせて座り込みものすごい汗をかきながら、お互いの健闘をたたえあっている。


「まさかいきなり盆踊りをぶち込んでくるなんて夢にも思いませんでしたよ、さすが私が目を付けただけあります」

「あなたも、必死に踊っている私の手を取っていきなりフォークダンスに持っていくとは思わなかった。びっくりしたけど感動した。」

「さすが私の神友・・・やりますね」

「あなたも、やっぱり私の神友だ。。」

彼女達はお互いを抱きしめあった。その光景はなぜか感動的であり、そして僕は彼女達は深いところでよく似ているのだなと思った。自分さえよければ、周りの事はどうでもいいのだ。僕は無意味に拍手をしていた。そうすることで少しでも自分自身に意味を見出したかったのだ。


翌朝、永遠ちゃんは実家に帰るということで彼女と一緒に階段のところで見送ることにした。お土産に味噌尽くしと銘うった弁当を永遠ちゃんに持たせてやる。

「ありがとうごみクズ」

とってもいい笑顔で感謝された、幸せそうでなにより。

「またいつでも来てくださいね」

「うん。。」

永遠ちゃんは笑顔で頷くと階段を楽しそうにピョンピョン下りていった。そうして下りていくうちに、いつの間にか景色の中に消えていた。

「楽しかったですね」

「え、えぇ?」

「永遠ちゃん、いい子でしょ?私にだって友達くらいいるんですよ」

たんに自慢の友達を僕に紹介したかっただけらしい。いい子かどうかはさておき、彼女が楽しそうだったので良かった。

「そういえば、永遠ちゃんって貧乏神なんですよね?どっちかっていうと座敷童って感じでしたけど」

「うーん、私には影響ないですけど。。わりと貧乏神としての力は強いらしいですよ?」

そんなん紹介するな。でも可愛かったしまぁいいか。僕はんーっと伸びをする。これからどうするかまた考えないといけないけど、こんなんでいいかな。僕はそう考えながら神社に帰る。財布がなくなっていることにきづかずに。








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