暗転
「いいですよ、今日のところは帰ってもらってまた明日来てください」
「へ?」
僕はついつい間抜けな声を出してしまった。彼女がドロンと濁った目つきでこっちを睨んでくる。
「なんですか嬉しくないんですか?もうすぐ夕方で暗くなると危ないですし、今日のとこは帰っていいですといってるんです。」
「今度はなにを仕掛けたんですか・・・?」
「私の信用度0ですね・・・少し寂しいです・・」
そう彼女は寂しげに笑うのだったが、ちっとも同情できない。0どころかマイナスですよと訂正してやりたくなる。だけど彼女の気が変わらないうちに早くこの魔界から立ち去るべきだ!僕の頭がフル回転でうなる。
「明日、今後の事について話し合いましょ。あなただって生活があるんですしね。身の周りの整理・・・んー違うな・・心の整理をしっかりしてきてくださいね?」
「はいわかりました」
誰がするか。だけど何か含みのある言い方が気にかかった。でも、そんな事は些細なものだ。この家からさえ出れれば彼女の影響は及ばないだろう。何より早くここから立ち去りたかった。
「じゃぁ、すいませんこれで失礼します。」
「はい、気を付けて」
僕は後ろを振り返らず障子を開け、そのまま廊下に出る。外は先ほどより薄暗く、もうすぐ日が落ちるのだろうということが感じられた。彼女に一瞥もせず、そのまま廊下を歩き出す。何も考えず壁の奥の方へ方へ。
5歩くらい歩いただろうか、後ろの方で障子を閉めたピシャッという音が聞こえた。その音は距離を感じさせ僕が確実に進んでいることを決定づけてくれる。前へ前へ。すんなりと壁まで歩く事が出来た。そういえば彼女に玄関の場所を聞いてなかったなと思ったが、その壁を折れると、玄関らしきものが見えていた。そこそこ大きいそれは、家まで大きいことを示していた。
玄関につくと、ちょうど真ん中に僕の靴が丁寧に揃えてあった。この家の仕業かなと一瞬頭をよぎったけど、そんなはずないと打ち消す。今日1日不思議な体験をした、友達に自慢してやろう。僕は神様と会ったって。
部屋で彼女は一人お茶を啜る。時々向かいの誰もいない場所を見ては一人微笑む。
「楽しかったな。またきてくれるよね」
彼女は一人の時間が長かったのだろうか。誰もいないというのに想いを声に出す。言葉は彼女が発したのち、どこからも返ってこない。それは彼女も十分にわかっているのだろう。気にせず続ける。
「帰る場所はもうないもんね。驚くだろうなぁ楽しみだなぁ」
さて、夕飯は二人分作らないとね。そういいながら彼女はコタツから離れる。可哀想だし今度からお金は取らないようにしてあげよう。そんな事を考えながら。




