強固な絆
「えぇいいんですか?!なんだか悪いなー・・。嫌なら嫌ってはっきり言ってくださいよ?大丈夫大丈夫なにもしませんって」
「い、いやで・・」
「冗談もわからないんですか?」
「・・・」
正に事案である。さきほど彼女の死角から警察に電話をかけようと試みたものの電波が入ってないと表示された。まさかこの家の影響なのだろうか。彼女に確認をとるわけにもいかず僕はひっそりとあきらめる。
「いいんですか?悪い気はしますけど、あなたが手伝ってくれるというなら私としては大変助かります。」
彼女はさきほどと似たような事を続けざまに言う。まさかとは思うが、僕を無理矢理手伝わせたという事にはしたくないのだろうか。どうせ彼女の中では僕が手伝う事は決定事項であろうに。もし訴えられた時のための保険?双方合意の上での契約でした、とでもいいたいのか。だが、僕たち二人しかいない今、そんなことをしたって大した意味があるとは思えない。それに僕が無理矢理言わされましたとでも言えば、それで彼女の詰みである。じゃぁ一体この問答にはどんな意味がある・・?。
「いいんですよ?嫌なら嫌って言ってくれて。無理して手伝わすなんて事、神様である私には、とてもじゃないけどできませんからね・・」
まさか・・・神様だから・・?無理強いはできない・・?この家と同じようにそういうルールがあるのか・・?だったら抜け穴はある!僕はがぜん強気になる。どうやったって僕の了解が得られない事には彼女は動きようがないのである。主導権はあちらが握っているように思えたが、最終的にはこちらにあるということは揺るぎない。
「断ったりしたらどうなるんです」
「それは・・どうもしませんよ・・」
彼女にしては妙に下手な態度に僕は確信した。人に何かをしてもらうには言葉の上だけでも合意が必要なのだ。どこまで当てはまるのかは定かではないが、このまま断り続けても彼女は強制できない。彼女の許しがないと家からでれないのは問題だが、強制力はないのだ。本気で出ようと思えばなんとかでれるはずである。思えば彼女が無理に事を運んだことはないはずである。いつも下手にでて僕をなんとか誘導しようとしていた。僕は勝利を確信する。
「いやです。手伝いません。早くここから帰してください」
「え・・・いやに強気ですね?どうしたんですか?痛いの好きなんですか?」
ま、負けない・・
「早く帰せっていってんですよ」
いつのまにか炬燵の下の足が四の字固めという、プロレス技で固められていた。僕はできるだけ表情にださないよう歯を食いしばる。
「あらあら足がからまっちゃいましたねーあれあれほどけないー☆」
足に力が込められる。想像を絶する痛みに僕は腹の底から呻いてしまう。
「なんだか苦しそうですねーあー可愛い女の子に足を絡められちゃってますもんねー羨ましいなー私も早くほどきたいんだけどなーパスワードが必要みたいですねーコレ」
あはは、機械でもないのに不思議ですねー?と彼女は心底楽しそうだ。折るか折らないか強弱をつけた絶妙な力加減は僕の心の方を先に折ろうとしてくる。
「絶対に手伝いません。なにがあろうとです。足をほどいて帰してください」
もう彼女には足を緩める以外選択肢はないだろう。あれ逆に強まった・・?
「折ったら動けないよね」
ボソっと呟いた彼女の言葉に戦慄する。これを強制力といわずして他になんと呼ぶのか。僕は知らない。
だけど負けない、もうネタは割れているのだ。叫ぶように彼女を打ち負かす。
「神様だから人に強制できないんでしょ?もう僕は絶対手伝いません早く帰してください」
「なんのことですか?」
神様はキョトンとして僕を見る。僕もキョトンとして神様を見る。四の字に固められた足はギリギリと音をたてそうなほどしめあげられ、すれ違った二人とは裏腹に、強固な絆であるかのように僕を痛みと共に離そうとしてくれない。




