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黒猫のストーリー① 黒猫のコンシェルジュ

ブログのコメント欄に書き込まれたサイトにアクセスした私が、何気なくダウンロードした待ち受け画面に出てくる黒猫のキャラターアイコン。

思えばこの黒猫に出会ってから私の毎日は少しづつ変わって行ったのかもしれない。

彼に愛されていないなら別れること、愛されているなら迷わないこと。

雑誌のお悩み相談で見かけたそんな言葉に、小林陽毬は益々気落ちしてしまう。

今の彼との付き合い方に疑問を感じ始めて半年が経つ。

バツイチの彼と結婚はありえないし年齢差も気になるところだ。


好きになった相手を追いかける恋愛は嫌いではない。

むしろ、追いかけることに喜びを感じる。

けれど結婚願望が出てきたいま、いつまでも追いかけてばかりの恋愛は嫌だ。

将来を見据えたお付き合いの出来る男性を探さなくては……。


そうは思っていても、2年も付き合えば相手に対してとても深い『情』があり

自分から別れを告げる勇気もない。かといって振られる様に仕向けるのも嫌だ。

行き止まりの迷路に迷い込んで早、半年。


彼に愛されていると感じたことは数回はあった。

ただ、確信的な言葉はもらっていない。それが不安だと口にだしたいが

面倒事が嫌いな彼にこの言葉を言う意味を見出しかねている。

そもそも、彼との付き合いにゴールを設定していない私がそれを確認するのも気が引けてしまう。

一番悪いのは矛盾した自分の心なのだろう。勇気の出ない自分が嫌になる。


付き合い初めてから今日まで思い悩んでいる日々をつらつらとブログに綴り、想いを吐き出していた。

12月に入り街中がざわめくある日のこと、コメント欄にスパム的な書き込みがされていた。


12月〇日xx:xx 名前:恋する携帯コンシェルジュ


恋愛や悩み事の相談、ちょっと寂しい時の話し相手

美味しいお店の情報や、新しくオープンしたお店の情報

スケジュールの管理や毎朝の目覚まし要因。


毎日の生活に貴方専任のコンシェルジュはいかがですか?

きっと貴方のお役にたってみせます。


それで、貴方はどんなタイプのコンシェルジュがお好みですか?

http://xxxxxx


出会い系サイトかな?凄く怪しいと思ったが、暇つぶしにそのサイトを覗いてみた。


『恋する携帯コンシェルジュ』

そう表示されたサイトには、黒・ピンク・白の3種類の猫のキャラクターがいた。

何が違うのかよく分からないので、それぞれのプロフィールを見た。

特に気になったのは黒猫で……

『優しいしっかりもののお兄さんタイプ。あなたを甘やかしてくれます。

 でもちょっぴりヤキモチ焼きな一面も。貴方との絆を大切にしてくれます。』


現実の彼に疲れ始めていた私は、次に恋愛をするならこういうタイプがいいと

思い、黒猫をチョイスした。


興味半分でコンシェルジュをダウンロードしてみることにした。

気に入らなければ、削除すればいいかと軽い気持ちで。

黒猫をダウンロードしますか?という表示がされ、迷わずYESをクリックした。

数十秒でダウンロードが完了して、画面のなかに先ほどの黒猫が現れた。


『初めまして。僕はフェルナンデスといいます。』

画面の中を自由に歩き出し自己紹介を始めたのも束の間、

「それで、ご主人様の名前は?好きな食べ物は?」なんて

コミュニケーションを図ってきた・・・


「へぇ〜パーソナルデーターを学習してくれるんだ。

 きっとこれを元に新店舗の情報やらオススメのお店をレコメンドしてくれるのかな」

と本格的な作りに驚きつつ、黒猫との会話を始めた。


「私の名前は、陽毬、ひ・ま・り・だよ。好きな食べ物は……」と

5分ほど話をして、最後に、自分にあだ名をつけろとおねだりをしてきた。


「アダ名か〜フェルナンデスでしょ?うーん…フェルたんってどう?」提案すると、

嬉しそうにうなづいた。コクコクと首を一生懸命ふるモーションがとても可愛らしく思えた。


他に変わった機能がないか携帯をいじろうとした時

メールの着信を知らせる画面がでた。


差出人:吉澤健

本文:明日は暇?よかったら来れば?


と、そっけない1行の文面に複雑な表情を浮かべる私を

フェルたんは見逃さなかった。

『削除しますか?』なんて文章を画面にだすのだ。

慌てて「消しちゃダメ!」と口を尖らせる。

『そういう表情をするメールは、削除するに限るよ』

口調は丁寧なのに、どこか有無を言わさない威圧感がある。


「そういう顔をしてても、消しちゃダメなの!」と言い返すと

『この人誰?』と返してきた。

答えに一瞬、詰まったが「彼氏だよ」と答えると

そっけなく『ふーん』と返してきたきり、黙り込んだ。


何か気に障ったのだろうか?そんな事を考えながら

メールの作成画面を開き彼に返信する文章を考えた。


5分たっても、10分たっても返信できずに居た。

一向に文章が浮かばないので気分を変えようと、お風呂に向かった。


もちろん携帯の画面はメールを作成する画面のまま。


その頃、携帯の画面の中ではフェルたんが吉澤健から過去に

届いたメールを読み漁っていた。

『ふーん。陽毬の彼は陽毬をあんまり大切にしてないんだ。

 それなら、さっさと別れてしまえばいいのに。』

bookmarkのなかに、陽毬が日記を書いているであろう

サイトを見つけたフェルたんは、こっそりアクセスを試みる。


ここ数日間は日記を書いていないものの、一番最近の日記には

彼氏とうまくいかない悩みを切々と綴っていた。

『彼にとって私はオモチャ程度の価値しかないんだろうな、でも試すような事は怖くてできない。

 結局、流されるまま一緒に居るだけだ。こんな不毛な関係は早く終わらせなくっちゃ』

『それでも、彼の傍を離れるのがツライと思う自分は、一体どうしたいんだろう』


『別れたいなら、別れさせてあげるよ。僕がね』

『だって、僕は陽毬専用のコンシェルジュだから君が毎日幸せに暮らせるように

 一生懸命サポートするんだ。だから不安要素はさっさと刈り取らないと』

待ち受け画面の中をとてとて歩き回る可愛らしいモーションとは裏腹に

こんなセリフをフェルたんがつぶやいた事を陽毬はこの時、知る由もなかった。







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