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序章『Be-yond』

 どこだが検討もつかない荒野に、一軒の小さな小屋が建っている。井戸は小屋からそう遠くない位置にあり、充分に生活できるだろう。

 軒先にはここで暮らしているらしい青いジーンズに白い開襟シャツ姿の青年がロッキングチェアに腰掛けて新聞を読んでいた。それは日本語で書かれていた。

 彼は肌や髪、顔つきなどから、モンゴロイドであることは用意に想像できた。歳は二十歳ぐらいに見える。眠たげにしぱつかせ、かけていた眼鏡を正した。

 ふぅ、とため息をついて新聞から目を離すと、ちょうど来客がやってきたところだった。日差しはきつく照りつけていたが、薄汚れたミリタリーグリーンらしいジャケットを羽織っていた

「やぁ、いらっしゃい」

 すると、相手は無言のまま目深に被っていたソンブレロを取った。来客は彼と同じくモンゴロイドだったが、性別は異なっていた。

「よう。ここまで来るのには骨が折れたよ」

 彼女は白い歯を見せて笑った。しかし、それは口角を吊り上げた不敵な笑みだった。

 失礼するよ、と了解も得ずにづかづかと家へ上がった。長いポニーテールをゆらゆら揺らしながら戻ってきた彼女の手にはカナダドライのジンジャーエールのボトルが一本握られていた。表面からは水滴がいくつかツーッと伝っている。

「どうやって冷蔵庫が動いてるのか興味があるな。なんてったって、辺りは見てのとおり荒地だからさ。電柱の一本すらありゃしない」

 口を動かす間にボトルの蓋を回し、ラッパ飲みする。瞬く間にボトルの中身は消えてゆき、ついには無職透明になった。

「あぁ、うまい――こう暑いと、カーッと一杯やりたくなるからな。それもこの砂漠とも荒野とも言いつかない場所を進んできたせいだ」

「それで、君の用はなんだい?」

 途端に彼女はジャケットの内側に手を突っ込んだ。取り出したのはニッケルめっきの施されたトカレフ・TT―33だった。即座に遊底を引いて撃鉄を起こす。それからコンマ数秒も経たないうちに薬室へ初弾が送り込まれた。

「用は二つだ。まず、カラカラに乾いた喉を潤すこと。それは今さっき片付いた。そして、もう一つはお前に銃弾をブチ込んでやるだけだ。こいつは今からやる。すぐに終わるだろうな」

 すると、青年はクックッ、と押し殺したような独特な笑い声を上げた。

「いやぁ、さすがにそう来るだろうと思った。さすがは君だ。君は、クリエイターの決めた定めに刃向かうべき存在なんだ。実に見事だ。すばらしい」

「ほざけ」

 と、彼女は男の顔を殴りつけた。眼鏡が砂地へ跳ね飛び、鼻から勢いよく吐き出された鮮血が小屋の壁に付着する。声を上げる間もなく続けてロッキングチェアが蹴飛ばされ、男は木造られた床面へ叩きつけられる。男はニヤニヤと笑って顔を上げると、7.62ミリの銃口が彼の眉間を捉えていた。

「お前のゲームに付き合ってる暇はねぇんだ。悔いることがあるなら今この場で洗いざらい吐け」

 彼女の言葉は落ち着いていたが、呼吸は荒々しく、いつ引き金を絞ってもおかしくはなかった。

「そうだね……じゃあ、僕の知っていることを全部話すとしよう。何しろ、随分と長い間他人と言葉を交わしていなくてね。僕は楽しみで仕方がないんだ」

 そう言って、男は柔らかな微笑みを見せた。

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