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やっぱ……かわええなぁ……

「……あ、あれ?」


放課後の教室……春が教室を出てから、しばらくボンヤリとしていた愛奈は、ハッと我に帰り、辺りをキョロキョロと見回す。


「……大丈夫?いったいどうしちゃったの?」


心配そうな表情を浮かべながら、隣に立つ背の低い女生徒は愛奈のスカートの裾を掴んで愛奈の顔を見上げる。


「あ、加奈江ちゃん……私……」


「まったく……その立派なお胸様をこう……モミモミ……ってしても、まるで反応が無いんだもん。ちょっと心配しちゃったわよ」


キョトンとしている愛奈のスカートから手を離した、加奈江と呼ばれた女生徒は、両手を少し前に出して、胸を揉む仕草を見せる。


「!!……も、もぉ……!それやめてって言ってるのにぃ……」


加奈江の手の動きを見て、愛奈は頬を赤らめながら、腕で胸元を隠す。


「デヘヘ……相変わらず、可愛いリアクションしてくれますなぁ……」


愛奈の反応を見て、加奈江は新しい玩具を手にした幼子のような笑みを浮かべつつ、その表情に似つかわしくない下卑た笑いを漏らした。


「……バカァ……もう知らないっ」


頬を赤くしたまま、加奈江を置いて一人早足で、教室を出て行く。


「アハハ、ちょっと待ってよぉ……」


そんな愛奈を追って、加奈江もまた早足で、教室を出て行くのだった。



「……あいつら、なんも変わりないとええんやけど……」


春が買い物客で賑わう商店街を抜けて少し歩くと、あまり年季の入っていない鉄橋の前に辿り着く。

かつてこの地を治めていた戦国武将の名前から、麻芽橋(あさめばし)と名付けられた鉄橋。利保川を境として北部と南部に区切られた真奈浦市……この鉄橋は、その二つを繋ぐいくつかある橋の一つである。

春は落ち着きの無い様子で周囲を見渡す。これからの自分の行動を、街の者ならともかく、真奈浦南高校……通称"南高"に通う者には見られたくないからだ。特に、自分に声をかけてくれる唯一のクラスメイトには……


(前後左右、よう確認して……と……)


真奈浦南高校の生徒であることを示す紺色のブレザーが見えないことを確認すると、そそくさと河川敷へ下りて行った。


「……よう、元気やったか?」


河川敷へ下り、麻芽橋の真下に位置する場所に来ると、春はそこにいた、二匹の猫に声をかける。一匹は三毛猫、もう一匹は黒猫で、二匹とも雌の成猫であった。そんな二匹の猫に向けて発された声は小さいものの、普段とは違い、とても気さくな印象を感じさせる。

春に気付いた二匹の猫は、特に警戒した様子もなく、春の足元に近づいてくる。


「やっぱ……かわええなぁ……」


春はその場にしゃがみ込むと、近づいてきた二匹の猫の頭や背中を撫でる。撫でられた猫は、黒猫は目を細めながらゴロゴロと喉を鳴らして喜びを表現し、三毛猫は特に気にもしない様子だが、たまに撫でる手を離すと、それに抗議するように身を寄せてくる。


「また、家に帰んのが遅なってしまうな……」


猫たちを撫でながら、春は小さく笑みを漏らした。



「退屈だぁ……」


商店街の中にひっそりと存在する小さな古本屋の中……桜庭冬樹(さくらば ふゆき)は立ち読みに興じながら、溜め息を吐いた。

この古本屋には若い者が滅多に来ない為、ほとんどの客は、初老をとうに過ぎた昔からの常連客である。そんな彼らの一部に、珍しいモノを見るような目で見られていた冬樹だったが、それは、若い客がいる珍しさだけでは無い。黒いニット帽を被り、赤色のパーカーの上から南高のブレザーを着たその体は、どこの力士かと思われるほど大きく、力強さを感じさせる体躯をしていたのだ。


「あー……駄目だ。今日はもう帰るか……」


小さく独り言を呟きながら、冬樹は読んでいた本……数学の参考書を本棚にしまい、出口に向かう。


(ったく……ロクの野郎、三年になった途端に、つれなくなりやがって……)


「……クソッ……ホント、つまんねぇ……」


古本屋の出口まで来た冬樹は、一言だけそう漏らすと店を出て行くのであった。

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