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中身……気になる?

「ふぁ……そんじゃ、また明日……」


春たちの担任である浜崎は欠伸を噛み殺しながらそう言って教室を後にする。


「はぁ……」


賑やかになる教室の中で、愛奈は溜め息を吐いて立ち上がると、鞄も持たず早歩きで教室を出て行く。


(どうしたんや、北見のヤツ……)


春は愛奈の様子がいつもと違うことに疑問を抱きながら、鞄に荷物を入れていた。


(あの封筒のことやろか……)


「雪村、ちょっといい?」


「ん?」


突然、隣から聞こえた聞き覚えのある声に、春は考え事をやめて隣に視線を向ける。

春の視線の先には、愛奈の席に座った加奈江がいた。


「あんた、これから暇ならちょっと話さない?」


「俺と?」


加奈江の突然の申し出に、春は困惑しながらもそれを顔に出さず、鞄を閉じる。


「そ、あんたと。愛奈の用事が済むまでだけどね」


「……ええけど……」


春が加奈江と言葉を交わすのは、この時が初めてではない。

入院している間、愛奈が毎日のように見舞いに来ていたが、加奈江もそれについて来ていた。

愛奈と違い、加奈江は春に積極的に話しかけようとはせず、基本的には愛奈が間に立つことで会話を成り立たせていた。

その為、二人だけで話をしたことは無く、春は加奈江が人見知りなのではないかと思っていた。

そんな加奈江が、なぜ自分を話相手に自分を選んだのかサッパリわからないと思いながら、春は加奈江の申し出に応じた。



(戦艦三隻で援護防御か。弾もエネルギーも残り少ねえのに……こりゃ、しくじったか?)


放課後、岳は屋上の出入口近くの梯子を登ったところにある貯水タンクの近くに座り、ヘッドホンを繋いだ携帯ゲーム機の画面を睨むように見つめていた。


「どーすっかな……お?」


岳は考えがまとまらず、画面から目を離すと、屋上で何やら話している男女の姿を捉える。


(なに話してんだろうな……ま、俺には関係ねえけど……あ?)


ヘッドホンから聞こえるBGMで会話の内容はあまり聞き取れないが、元より興味の無い岳はゲーム機の画面に視線を戻すが、話をしている二人のうち、女子生徒が見覚えのある人物であることに気付き、再び視線を向ける。


(あいつは確か、北見……もう一人は……誰だ?)


岳は男子生徒の姿を目を凝らして見てみる。

だが、セットされた茶髪にガッチリとした体格、鋭い目付きの男子生徒を岳は知らなかった。

岳はおもむろにヘッドホンを外し、二人の話し声に耳を傾けてみる。


「ごめんなさい……」


「あ……いや、いいんだ……」


愛奈は目の前の男子生徒に深々とお辞儀をしながら謝罪の言葉を口にする。

男子生徒は見るからに落胆した様子で、愛奈に顔を上げるように促す。


「えっと……失礼します……」


顔を上げた愛奈は、それだけ言うとそそくさと屋上の出入口に向かう。


(おっと……)


盗み見をしているところを見つかりたくはないと、岳は身を低くした。

岳の耳には、屋上のドアが閉まる音が聞こえた。


(屋上で告白……ってとこか?まさか、そんな現場を生で見ることになるとは思わなかったな……)


愛奈が屋上を出たことに気付きながらも身を低くした岳は、しみじみとそんなことを考えていた。




「……なんやそれ?」


春と他愛の無い話をしていた加奈江は、四つ折りにされた紙を春の目の前でちらつかせた。

それは、封筒の中に入っていた履歴書だった。


「愛奈宛てのラブレター。あんたが愛奈に渡した封筒に入ってたのよ」


「…………は?」


間を置いてから間抜けな返事をした春を見ながら、加奈江は履歴書の内容を思い返す。

履歴書には、差出人と思われる男子の顔写真と、学歴、趣味といった当たり障りの無いことも書いてあるが、志望動機の欄を見ると、差出人が愛奈に対して抱いている想いが綴られていた。


「中身……気になる?」


「……別に……」


どこか含みのある笑みを見せる加奈江に、春は目を逸らしながら素っ気ない返事をする。


「いやいや、気にならないはずないでしょ。だって……」


「あれ?加奈江ちゃん?」


加奈江は春を追及しようとするが、その時、ちょうど教室に戻って来た愛奈が加奈江の姿を見つける。


「待っててくれたの……って、あぁ!」


加奈江に歩み寄る愛奈は、加奈江の手にある四つ折りの履歴書と、春の姿を見て思わず大きな声を挙げると、素早く近付いて加奈江の手から履歴書を奪うように取り、春と加奈江の顔を交互に見る。


「か、かかっ、加奈江ちゃんっ?ゆ、雪村くんに……見せたの?」


「ううん、中身は見せてないわよ。ねぇ雪村?」


「お、おう……」


明らかに狼狽した様子で加奈江に問う愛奈に、加奈江は冷静に答えながらチラリと春に視線を向ける。

春は愛奈の様子に戸惑いながらも、コクリと頷いた。


「そ、そう?……なら、良いけど……」


加奈江と春の反応を見て、愛奈は安堵の表情を浮かべた。

そんな愛奈を笑顔で見ながら、加奈江は席を立つ。

そして、春と愛奈に視線を向けながら、二人にとっては予想外の言葉を口にした。


「それより、用事は済んだんでしょ?それなら、さっさと帰りましょ……行くわよ雪村。今日は一緒に帰るんでしょ?」


「えっ?」


「……え?」


加奈江の発した言葉に、愛奈は少し驚きながら春の顔を見る。

一方の春はというと、加奈江の言葉を受けて頭に幾つもの疑問符を浮かべるのであった。

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