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……お前の所為じゃねえよ

「話って……なんですか?」


飛鳥に連れられてやって来た屋上……春は、緊張した面持ちで目の前に立つ二人の少年を見る。


「俺は三年の桜庭だ。こいつは……」


「……二年の四谷だ」


「はぁ……」


冬樹と岳の簡単な自己紹介に、春は僅かに頭を下げる。春を呼び出した翼と飛鳥は、既に屋上を出ていた。


「お前、少し前に中央の一年とやり合ったろ?」


「……!」


冬樹の口から出たのは、自分が聞いた話の真偽を確認する質問、それを聞いた春は眉をピクリと動かす。一文字に閉ざされた唇の奥からは、歯を軋ませる音がした。


「それで、問題なのはな……」


冬樹はそこまで言ってから、少し深く息を吸う。その仕草に、春は思わず息を飲む。


「入院してたらしいから、知らねえかもな……お前に、自分たちの仲間が痛い目に遭わされたとか言って、ウチの学校のヤツらに片っ端から喧嘩吹っ掛けてんだよ……」


「……あっ……」


冬樹から告げられた言葉を聞いたとき、春は何かを思い出したかのように、ハッした表情になるが、すぐに口を閉ざして黙り込む。


「だから、そのことで中央の連中と話をしに行くんだが……お前にも来てもらうぞ……」


「…………」


冬樹と岳は、黙り込む春をじっと見つめる。春は二人の言葉を聞きながら俯いて、過去にあった出来事を思い出していた。


(あの時と同じや……俺がキレてしもて、そんで周りが巻き込まれて……)


「先輩たちについて行ったら……俺は、何をしたらええんですか?」


春は顔を上げると、意を決したように冬樹の目を真っ直ぐに見つめる。


「……話は俺とタケでつける。ただ、中央の一年とやり合った本人がその場にいないってのは良くねえから、ついて来いって言ったんだ……ついて来てくれたら、黙って突っ立ってるだけでいい」


「……それで、ええんですか?」


冬樹の言葉に、春は拍子抜けした様子で聞き返す。自分の喧嘩のことで話をしに行くのに、喧嘩をした張本人に何もしなくてもいいと言う冬樹の考えがわからず、春は首を傾げた。


「いいんだよ。話は終わりだ……明日の放課後、飛鳥に迎えに行かせるから教室で待っとけよ」


冬樹はもう話すことは無いと言わんばかりに、岳と春を置いてスタスタと歩き、屋上を後にする。


「ったく、真面目な話に俺を付き合わせんなっての……それはそうと……」


冬樹がいなくなった屋上で、自己紹介をした後は沈黙していた岳は地面を軽く蹴って愚痴をこぼすと、春にゆっくりと近づく。春の正面間近に来ると、岳は春の顔をじーっと見つめる。


「……なんですか?」


「ちょっと聞きてえんだけど……お前、なんで中央のヤツらとやり合うハメになったんだ?」


「え……」


「どうも……お前見てると、自分から喧嘩売ったとは思えねえし……ちょっと気になったんだよ……聞かせてくれるか?」


「……はい」


眼光を鋭くして聞いてくる岳の迫力に負け、春は利保川の河川敷で起きた出来事を、ゆっくりと話し始めた。




「……そんで、気付いた時には病院にいて……」


「なるほど……」


二人はフェンスに背を預けて隣り合わせで立っていた。

春の話を聞き終えた岳は、神妙な表情を浮かべて、黒縁眼鏡を人差し指でクイッと上げた。


「面倒くせぇなお前……手を出すのは嫌だが逃げるのも嫌……それでボコられた挙句、病院送り……ホントにバカだな」


「うっ……」


呆れ果てたとでも言うように、岳は肩を竦めると、春の肩を軽く叩いた。


「でも……俺、中学ん頃に同じことやらかして……そん時も、俺と同じ中学におるからって、クラスの人や先輩たちが傷付くことんなって……もう、嫌やったんです……あんなのは……」


春は河川敷での出来事を話す中で、気付けば自分の思いを聞いてほしいとまで思い始めたのか、普段と比べてかなり饒舌になるものの、たどたどしい感じは抜けなかった。


「……中学のときも、相手から喧嘩売られてはやられっぱなしで通そうとして、結局ブチ切れてたのか?」


岳が聞くと、春はコクリと無言で頷いた。


(……周りの連中が痛い目見るのを自分のせいだと思ってるとはな……ったく……)


「……お前の所為じゃねえよ」


「……いや、俺の所為です……」


(……ホント、面倒くせぇ……)


苛立たしげに出た岳の言葉に、春は自分の耳を疑い言い返す。岳の口から出たその言葉を、春は認めようとしなかった。


「だから違うっての……相手に問題があるって……」


「それはそうかもしれませんけど……俺がやり返したりしなけりゃ、みんな巻き込まれんで済んだかもしれませんし……」


「いや、だからな……」


「……そもそも……」


二人はいつの間にか、押し問答に突入していた。その行為は、苛立っていた岳を更に苛立たせ、春もまた、額に青筋を浮かべるほどの苛立ちを抱え始める。


「だから違うって言ってんだろ!!お前の所為じゃねえ!!」


「俺の所為やって言うとるやないですか!!」


いつの間にか、春と岳は言い合いになっていた。春に非は無いと言い張る岳と、自分の責任だという考えを決して変えない春……そんな言い合いはいつしか……




「頑固な野郎だなぁ!!"俺は悪くねぇ"って言えばいいんだよっ!!オラッ、言えよっ!!」


「くっ……じゃああんたは、自分の喧嘩に巻き込まれる形で怪我した人にそう言えるんかあっ!?」


言い争いを通り越して殴り合いとなっていた。普段はおとなしいを通り越して無口な春が口調を荒げ、敬語も使わなくなり、人を殴ることを頑なに嫌がっていた人物とは思えない。屋上の地面には、岳の眼鏡が落ちている。


「ちっ……言ってみりゃあ案外わかってくれっかもしれねえだろっ!!」


左の頬を殴られた岳が、叫びながら春の頬目掛けて右の拳を叩き込む。


「ぐあっ!!」


頬に直撃をもらった春は、屋上の地面に倒れ込むが、すぐに身体を起こして岳を睨みつける。


「っう……そんなん無理に決まっとるやろがっ!!」


そう言った次の瞬間、岳の腹に衝撃が伝わる。腹には、春の放った膝蹴りがしっかりと入っていた。


「おぉ……くっ、言ってもねえくせして、無理とか言うなぁ!!」


地面に崩れ落ちそうになるのを堪えた岳は、お返しと言わんばかりに春の腹部目掛けて前蹴りを放つ。


「あっ……が、はぁ……人んこと何も知らんくせして……勝手なことヌカすなアホんだらぁ!!」


雄叫びをあげた春は岳の胸ぐらを掴むと、岳の顔面に一切の躊躇も見せずに自分の額をぶつけた。


「先輩に向かってアホって言うなぁ!!このクソバカがあぁ!!」


鼻血を垂れ流す岳は、視界のボヤける目でなんとか狙いを定めると、その場から春に向かってジャンプし、体重を乗せた右ストレートを春の顔面に叩き込む。


「っ……くあぁ……」


「ぐぅ……ぜぇ……」


強烈な一撃を受けて、屋上の地面に背中から倒れる春。

一方で、ジャンプしながらパンチを放った岳も、着地と同時に地面に膝を着き倒れ込みそうになる。


「どうしたぁ……もう終わりかぁ……」


「……クソがぁ……」


ヨロヨロと立ち上がる岳は、表情だけは余裕綽々と言いつつ、既にフラフラの身で春を挑発する。

春はそれに応えるかのように、なんとか身体に力を入れて立ち上がる。

もはや本題からは離れてしまっているが、二人はそれを気にすることもなく、互いに声を張り上げながら殴り合いに没頭していくのであった。

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