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ちょっと屋上までついて来おおぉいっ!!!

(…………?)


退院翌日の朝、教室の扉を開けた春は、思わず立ち止まる。ホームルーム開始十五分前の教室の中から聞こえていた生徒たちの話し声が、春が現れた途端に止み、クラスメイトたちの視線が自分に向けられたことに、春は戸惑っていた。


(なんやいったい……)


クラスメイトたちの向ける視線には、久しぶりに学校に来た春を歓迎してくれているという感じは見受けられない。特に、男子からの視線は刺々しさすら感じられるものだった。


「…………」


春はその視線を無視するように伏し目がちになりながら窓際の一番後ろにある自分の席に腰を降ろし、カバンから取り出した勉強道具を机の引き出しに入れていく。

そんな春を時折チラチラ見ながら、クラスメイトたちは声を潜めて話し出す。春は居心地の悪さを感じながら、頬杖を着いてボンヤリと窓から外を眺める。それから少しだけ時間が経ち……


「あ、あれ?みんな、どうしたの?」


愛奈が教室の扉を開けた。教室の雰囲気に困惑しながら、愛奈はクラスメイトたちを見回す。


「オッス、北見」


「おはよー、愛ちゃん」


「うん、おはよう……あっ……」


クラスメイトからの挨拶に左手を小さく振りながら柔らかな笑みを浮かべた愛奈は、外を見つめる春の姿を見つけると早歩きで近づく。


「おはよっ、雪村くんっ!」


「っ!……おう……」


以前と違い、愛奈は春の肩をポンッと叩いて挨拶をしてくる。思わぬ不意打ちに春は一瞬体を震わせるが、何事も無かったかのように小さく返事をした。


「あ、それと……退院、おめでとうっ!」


「…………おぅ」


まるで太陽のように眩しい笑顔で祝いの言葉を発した愛奈をまともに見れず、春は伏し目がちになってますます声を小さくして返事をした。



「おっと、もう終わりか……じゃ、明日の授業の始めに小テストするからな……点数が四割切ったら、課題を増やすんでそのつもりで」


四時限目の終了を告げるチャイムが鳴り響いてから、五十代ほどの数学教師の告げた言葉に生徒たちは溜め息を漏らす。


「あと雪村……怪我で入院してたからって、お前も例外じゃないからな……」


そう言い残して、数学教師は教室をあとにした。


(小テストか……ま、四割ならなんとかいけそうやな……)


そんなことを考えながら、春はカバンの中から紺一色の弁当袋を取り出したその時……


「ねえ、ゆきむ……」


「雪村はいるかあぁ!?」


春に話しかけようとした愛奈の声を遮るように、教室に大声が響き渡る。


「お、オカベっち……声でかいって……」


教室の入り口にいたのは、金髪のショートヘアに、両方の耳に三つずつピアスを付けた見るからにヤンキーといった風貌の少年、岡部翼(おかべ つばさ)と、頬に絆創膏を貼った、明るめの茶髪をソフトモヒカンにした少年、毛利飛鳥だった。


「うるせえぞ飛鳥あぁ!!」


「オカベっちが一番うるさいって……」


「……はあぁ……」


やたらと大声で吠える翼と、それをたしなめようとする飛鳥に、春は大きく溜め息を吐きながら近づいた。


「なんか、間近で見るとでけえぇぞおおぉ!!」


「ちょっ、そんなこと大声で言っちゃ駄目だって……」


「…………」


間近にまで近づいて二人を二人を無言で見下ろす春は、翼の大声に顔を顰める。


「ちょっと屋上まで来おおぉいっ!!!」


「だ、大事な話があるから……来て欲しいんだけど……」


「……ええけど……」


なんとなく嫌な予感を感じながらも、春は二人の誘いに応じる。


「しゃあっ!!ついて来ぉい!!」


そう言うと翼は、春と飛鳥を置いて走り出した。


「……ゴメンな。普段は、あそこまでうるさくないんだけど……そ、それじゃあ、ついて来てくれ……」


「……おう……」


申し訳なさそうにそう言うと、飛鳥は翼が走って行った方に歩き出し、春もそれについて行った。


「あっ……行っちゃった……」


成り行きをオロオロしながら見ていた愛奈は、春が教室を出て行くのを見ると溜め息を吐きながら小さく肩を落とした。


「やっぱり、私だと加奈江ちゃんみたいにうまくいかないよね……」


「何がうまくいかないって?」


「ふぇ!?あ、加奈江ちゃん……」


呟きを漏らした愛奈に、いつの間にか近づいていた加奈江が声をかける。声をかけられるまで気づかなかった愛奈は、思わず変な悲鳴をあげる。


「"ふぇ"って……なにそれ……ちょっと、可愛いんだけど……」


「ちょっ!やだ……え?」


加奈江の言葉に、愛奈はみるみるうちに顔を赤くしていく。その時、ふと周囲から視線を感じて見回してみると……


「…………いい」


「…………やっぱ、いい」


学食に行かずに教室に残っていたクラスの男子が、妙に恍惚とした笑顔を浮かべて愛奈を見つめていた。


「うぅ……バカァッ!」


「クスッ……はいはい」


小走りで教室を出て行く愛奈を、加奈江は笑顔をで追いかけて行った。

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