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一緒に帰らない?

初めまして、史郎院彼方と申します。

今回、初めての小説執筆&投稿となります。

駄目な部分ばかりでお見苦しいものになるとは思いますが、よろしくお願いします。

5月も半ばとなったある日……神奈川県真那浦(まなうら)市の真那浦南高校……

朝の教室で、雪村春は誰とも話さず、窓際に一人佇み、ボンヤリとした表情で窓から見える景色を眺めていた。周囲の生徒たちは、そんな春に近づき難いのか、談笑しながら遠目にチラチラと見ることはあるが、話しかけようとする者はいなかった。ただ一人を除いては……


「おはよう、雪村くん」


「……おはようさん……」


背中越しに聞こえた挨拶に対し、春は振り向きもせずに小さな声で挨拶を返す。そんな春を見て、挨拶をした女生徒……北見愛奈は優し気な笑みを浮かべた。



「……とりあえず、連絡事項はこんなところだ……じゃ、解散」


春のクラスを担当している、黒いスーツを着崩した女教師、浜崎のやる気の無い一声を受けて、生徒たちは自由に動き始める。席に着いたまま勉強道具を広げる者、帰り支度を整える者、部活動に向かう者と様々だ。

部活動に参加しておらず、勉強熱心でもない春は、今日出された課題をするのに必要な物だけを鞄に入れて帰ろうとしていた。


「あの、雪村くん?」


春が教室の入り口まで歩いたところで、背後から声をかけられる。


「……なんや?」


「一緒に帰らない?私たちと……」


振り向いたところにいたのは、太陽のような笑顔の愛奈と、背が低く目付きの鋭い女生徒だった。


(まさか……俺が誘われるやなんて……)


内心、非常に嬉しかった春は、いつもは無愛想な印象を与える暗い表情が、少しだけ明るくなる。


「え……えっと……」


返事をしようとするが、思わず吃ってしまい、視線は宙を泳いでしまう。


(な、なに吃っとるんや俺……"ええよ"って言えばええだけやん……あ、でも……)


一度は帰宅の誘いに応じようとするが、その瞬間、ある景色が春の頭に浮かぶ。その景色は、自宅への帰り道とは反対方向にある大きな鉄橋と、鉄橋の真下の河川敷だった。


「……今日は……ちょっと、用事があるんや……」


少しだけ考えてから、春は小さな声でそう言うと、愛奈たちに背を向けて教室を出て行く。


「あ、ちょっと……」


すかさず愛奈が声をかけるものの、春は足を止めずに廊下を進んで行った。


「なんなのアイツ?愛奈の誘いを断るなんて……愛奈?」


背の低い女生徒が不満気に呟いて、隣に立つ愛奈を見上げる。


「…………」


愛奈は春が出て行った教室の入り口に視線を向けたまま、ボンヤリとしていた。


「ちょ、ちょっと……なにボーッとしてるのよ?」


声をかけながら女生徒は愛奈のスカートの裾を引っ張るが、愛奈には聞こえていないのか反応が無い。そんなやり取りを、教室に残った生徒たちに見つめられたまま、時間だけが経過していくのだった。



「なあ、あれ……雪村だよな?」


「うん、雪村くん……だよね?すごく背ぇ高いし、髪型も……ちょっと"あれ"だし……」


校門近くにいる生徒たちは、ヒソヒソと、内緒話をするように口元を隠して話していた。そんな彼らの視線の先にいたのは……


「北見……また誘ってくれへんかな……」


高校生活は、楽しくなくても平穏であればいい……そう考えていた春だったが……



「一緒に帰らない?」



愛奈の言葉が脳裏をよぎる。中学時代の自分に決してかけられず、高校でも自分には無縁と思っていた言葉が、春には単純に嬉しかった。

朝、教室で会うたびに"おはよう"と言ってくれる。多くの人にとってはあまりに些細なことかもしれないことにも、内心では大喜びしてしまう春にとって、一緒に帰らないかと誘われたときの嬉しさを、心の中にしまっておくことは出来ず、表情は緩み、思わず鼻歌まで歌ってしまうのだった。

普段の春の印象からはあまりにかけ離れたその様子に、周囲の視線を集めてしまっていたが、少しも気にすることもなく、春は学校をあとにするのであった。

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