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渦潮の話

ははは初投稿です・・・!

 渦潮に巻き込まれて自殺しようとする人がいる、また、自殺した人がいる。

 私はそれを見るけれど止めることはできない、そこに留まるばかりである。

 それを目の当たりにする人は沢山いる、ひとつ観光客と言っても大学のサークルだったり、恋人同士だったり、はたまた親子だったりする。

 自殺する人は他の所から来るひともいれば、地元の人だったりもする。どの人もあまり良い顔をしていない、これから死にますと顔が語っている。そんな顔で船をまたいでいく。

 どの人を見ても悲しいとは思うのだが、どうも涙が出てこない。

 仕方ないのだ、と毎回溜息をつく。悲しいと思うんだけどね、駄目なんだ。と。

 結局渦潮に巻き込まれて死んだ人は戻ってこないのだから。どうやったって、私だって取り戻すことはできないのだから。

 昨日もまた船から飛び降りた。相変わらず同乗者は悲鳴を上げてたじろぎ、狼狽し、足をすくませる。私は特にこれといった反応も見せずにただ立っている。日常茶飯事と言ったら不謹慎極まりないのだが、つまり慣れてしまうくらいのペースで渦潮に巻き込まれて自殺する、しようとする人がいるからどうも最近なんともないように感じてしまうのだ。駄目だな、と自分を叱ってみる。

 私はどこからとなくいつもの風景を見つめる。今日はなんともないみたいだなと安全確認をした。


 一週間、なんとなく渦潮を見つめ続ける日が続いた。


 相変わらず透き通った水色をしていて、我ながら凄く美しいと思うし、誇りに思う。それがぐるぐると渦を巻いていい具合に白波を立てている。ロリポップみたいだと言った人が昔居たような気がするが、まさにそうな気がする。その人も自殺してしまった。その人が言った、ロリポップのように甘い渦に巻き込まれて。

 死ぬのは美しいという人がいるけれど、この渦潮は人の死を引き立てることは出来ないようだ。

 それとも死ぬのは美しくないということなのだろうか。どの道死ぬのは良くないと思うね、個人的な思想が入るけど、まだ楽しいことは沢山あるだろうしね。人はどうしてすぐ諦めるんだろう、それとも私の時間の感覚が違うからだろうか。割とすぐに、すぐそこに良いこと、幸せなことがあると思う。

 ・・・個人的な思想は、絶対の自信と見せかけた空想を生むからいけないって隣の奴に怒られたな。

 もしかしたらこういう思想が積み重なって渦潮に巻き込まれて死のうとするんじゃないか、と今思ったけれど、少ししっくりきただけでそれ以上の進展はなかった。

 

 さて、今日もまたいつもの場所だ。ずっとここから見つめている。ストーキングじゃない、見回りだと思ってくれればいい。

 一隻の小さなスクーターが走っている。人は運転手一人、乗客が一人居る。目は良い方なんだ。乗客は少し細い人、20歳後半で、地元の人のようだ。潮風を浴びるためかテラスのような所で目を細めて笑っていた。運転手の人が「これから渦潮の一番近くまで行きますからねー!」と威勢のいい声で言った。乗客は笑みを絶やさずにそうですか、と返した。

 相変わらず美しい所だ。とさっきも言ったような気がするけれどまた語ってもいいだろうか?

 ・・・駄目かあ。

 渦潮の一番近くに差し掛かった、これ以上近づくと船ごと渦潮に巻き込まれてしまうからね。

 

 あ

 乗客に動きが見えた。

 悲しい事が始まってしまうのだろうか。このままだと始まるんだなと確信した。

 船から飛び降りようとする乗客。

 運転手の人がそれをとめようとハンドルを操作する。しかし無駄だと見た。どれだけハンドルを切っても切っても、一定の距離を置かないと渦潮に巻き込まれてしまう。

 ああ駄目だああ駄目だ

 私の目の前でまた死んでしまうのだな、私はまた留まるのだな、ずっとそこに留まるのだな、何の反応もないままに留まってしまうのだな。

 乗客が呟いた

「こんなに綺麗な所で僕は死ねるのかな?」

 また呟いた

「駄目だよね、こんな綺麗な所僕には似合わない。」

 嗚呼

「ごめんなさい運転手さん、変に迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい」

 嗚呼

「こんな雄大な景色を見ていたらどうも僕の悩みがちっぽけに思えてしまってね、本当に申し訳ない」

 こんなことがあるのだろうか

 雄大だと、綺麗だと。そう言ってくれることなどあって。

「ありがとう運転手さん、綺麗な所じゃないですか。僕は生れてずっと此処で生きていますが、ずっと渦潮を見たことがなくて。最期なんだから見にいきたいと思ってですね。此処に来たんですよ。」

 少し言葉を選んでいるようで、歯切れの悪い口調だ。

「嫌になったことが沢山溜まっててですね・・・、本当に嫌になってもう死んじゃいたくなって、ええ、そういえばって思いついたんですよ、あの時は名案だと思いましたね、本当馬鹿ですよね。」

 本当だよ、と叫びそうになった。

「でも、いざ来てみれば、こんな綺麗な景色があるんだって思いましたね。これをずっと見ていなかったんだなって思うと凄く後悔してるんです。これからもずっと見に来ようかなって思ってしまうくらい。」

 そうか、そうなんだ。独りでに頷く。

 嗚呼

 嗚呼

 こんなことがあるのか


 手の甲に涙が落ちた。


 嗚呼良かった、本当に良かった。

 手の甲から伝う涙が海へ落ちた、風に白波を立てている海に落ちた。一瞬こうやって海ができるのだろうかと思ったのだがすぐ違うと見た。

 ああそうか、こういうことがあるのか。

 久々に見た、こんな人。ああどうしてこういう時に限って遊覧船じゃないんだろう。沢山の人に見せてあげたい。そして分かち合ってもらいたい。と、これ程思ったことがあるだろうか。久しぶりだろう。


 ゆるゆると渦巻く渦潮が少し優しく見えた。


 涙をぬぐって改めてその乗客を見た。ごめんなさい、ごめんなさいとペコペコと頭を下げている。運転手は大丈夫だよとでも言うように背中をばんばんと叩いている。乗客がむせた。二人は笑っている。

 どうしてだろうか、涙が止まらない。今は少し位笑っていいはずだ。涙をぬぐう、目が擦れて少し痛い。嬉しいんだ、思いとどまってくれて嬉しいのだ。

 運転手がハンドルを切りだした。乗客は目を細めて笑って潮風を浴びている。渦潮に近づくよりずっと清々しく見えた。

 私の髪を潮風が撫でる。目に潮風が少し染みた。

 凄く安心している、一人の、たった一人の人の一つの行動で。涙が出て止まらなかった。

 

 

  渦潮に巻き込まれて自殺しようとする人がいる、また、自殺した人がいる。

 私はそれを見るけれど止めることはできない、そこに留まるばかりである。

 それを目の当たりにする人は沢山いる、ひとつ観光客と言っても大学のサークルだったり、恋人同士だったり、はたまた親子だったりする。

 自殺する人は他の所から来るひともいれば、地元の人だったりもする。どの人もあまり良い顔をしていない、これから死にますと顔が語っている。そんな顔で船をまたいでいく。

 どの人を見ても悲しいとは思うのだが、どうも涙が出てこない。

 しかし例外というものがあって、自殺をやめた人がそれなのだ。それを見るとどうしてもいつもは堅いはずの涙腺が緩んでしまうのだ。年かな。

 その自殺をやめて思い止まって、生きようって少しでも思ってくれることが、どうしようもなく嬉しいんだと。

 留まるばかりの私に、ほんの少しの勇気を見せてくれることが。

 私はまだまだ生き続けるわけだが、こういうことが増えてくれるといいななんて。

 短い人の一生をさらに短くすることなんて、止められるわけじゃないけどよろしくない。

 まだまだ良いことなんて沢山あるのだから。


 あの乗客のように、渦潮を自殺の道具として使わなくなる日を願い続けよう。


 今日も渦潮はぐるぐると渦巻いている、ロリポップのように、白と透き通った水色と薄い黄緑を混ぜ合わせながら。


 あなたはこれを見る時どのように見ますか?

 自殺の道具ですか?

 美しい自然、雄大な自然とみますか?


 私は絶対、後者であってほしいのです。

徳島にはまだ行ったことないのですがいつか行ってみたいものです・・・

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