うりふたつ
「ー今日はどんな髪にする?」
そう聞いたのは、美容師の高橋友也で、ケープを巻いている。
客はにこりと笑うと、注文する。
「夏でも暑いから、短くきって」
「はいはい。分かりました、翔」
翔ー小田翔は14歳、若い客だった。
2人は魔法グッズの仲間で、うちとけていた。
夏の日差しがスポットライトを当てようとするので、ブラインドで阻止する。
エアコンが効いており、室内はちょうどいい温度だった。
「短くね、短く」
友也は呟くと、ポケットから折りたたみ式の鏡を取り出す。
そして手のひらサイズの鏡を開くと、手を当てる。
すると鏡の中からもう1つの手が出てきて、友也の姿となる。
「ーはい、任せた」
手を出すと、もう1人の自分とハイタッチし、友也は腕を組んで様子を窺う。
「出た!! 魔法の鏡!!」
翔が興奮気味に言う。
友也は静かにうなずくと、翔に聞く。
「今日も魔法の靴で来たのか?」
「もちろん!! 時速40キロくらいかな」
ケープから手を出し、親指を立ててくる。
友也はやれやれと微笑むと、1言告げる。
「バレるなよ? それと危険なスピードは出さないこと。いいな?」
「うん!! 友也さんの言う通りにする」
翔が明るく言うと、室内がパーティーしているみたい賑やかになる。
その間、もう1人の友也は動いており、翔の髪の毛を何ブロックにも分けてゴムでとめていく。
「友也さんだって、一歩、間違えれば危ないぜ? 美容師免許を持っているのに、どうして魔法の鏡を使うの?」
「大人の事情だ、大人の」
「何、それ。子ども扱いするなよな」
翔が膨れると、友也はくすりと笑う。
見ていて飽きない少年だった。
「そうだ!! 新しい仲間を見つけたんだよ!!」
「え…? 魔法グッズの?」
「そう!! 空飛ぶ傘を持った可愛い子」
「どんな子?」
「秘密。友也さんに取られたくないもの」
「この野郎。じゃあ言うな」
全くと首を振ると、もう1人の友也が髪のカットを始める。
友也はそれをじっと見、大丈夫そうだとOKを出す。
ーしかし中学生で彼女か。懐かしい。
多感な時期に恋人を作れるなら、この子は大きくなっても大丈夫だと安堵の息を吐く。
恋愛にいかず、勉強ばかりだと、息が詰まってしまって、いい大人になれるかどうか分からなかった。
ーもう何年の付き合いだ?
翔を発見したのは、10歳くらいの時で、すでに魔法の靴を使いこなしていた。
「ー髪を切るか?」
そう聞くと、にんまり笑ったのを思い出す。
「空飛ぶ傘か。なかなか面白いな」
「そうなんだよ!! たまたま出会ったんだけれど、その、明日葉学園の娘で、制服が似合っているんだ」
「そうか。頭の良い学校の娘なんだな。…お前は? 学校、どう?」
「勉強はさっぱり。得意科目は体育!!」
「体育ね…。それもいいけれど、ちゃんと大人になったら、何になりたいか考えろよ。時間はあるようでないんだから。早くしないと、じじいになるぞ」
「えー。じじいは嫌だな。何しよう?」
「好きなこととか、得意なことを伸ばしたほうがいい」
「じゃあ…スポーツ関係の仕事がいい!! 身体を動かすのが好きだし」
「なるほどな。…あ、そこはもう少し短く」
もう1人の友也に言うと、命令通りに動いていく。
翔と会話しながら見ていないようで、見ているのだった。
どんなことでも手を抜かない、それが友也のモットーだった。
「スポーツ関係か。体育教師とか、野球、サッカー、色々とあるぞ?」
「うん。急いで決める」
「馬鹿。急いで決めるな。大事なことはよく考えるんだよ」
「えー!! 早くって言ったり、ゆっくりって言ったり、面倒くさいな」
「大人になるってことは、面倒くさいことなんだよ」
翔の耳を引っ張ると、彼は顔を歪め、「痛っ」と呟く。
本当は頭を叩きたかったのだが、もう1人の友也がいるのでできなかった。
「あと少しで出来上がりだ。今のところはどう?」
「いい腕前!! 気に入った」
「毎回、気に入ってくれて、ありがとう。お前、正直だし、素直だから助かる」
「そうなの?」
「中にはうるさい奴らがいないわけではないんだけど…。理なんか言いたい放題だぞ」
「え、あの優しそうな人が? まじで?」
「あいつは私に甘えているんだよ。俺のほうが30代で年上だし。全く、俺だって甘えたいよ」
ぼやくと、正面の大きな鏡を見る。
14歳の翔と30代の友也では、大人と子どもと分かる差があった。
ー美は一瞬。でも昔に戻りたいかというと、そうでもないんだよな。
もう1人の友也も鏡に映っており、ハサミを動かしていく。
そろそろいいかと思い、口を開く。
「ストップ。もういい。後は私がチェックするから」
鏡を差し出すと、もう1人の友也が手を差し出し、鏡の中に消えていく。
大事そうに魔法の鏡をポケットに入れると、翔の髪の毛を構う。
「さらさらなんだよな、お前の髪。猫の毛みたいだ」
「そう? 俺的には、ヘアーワックスでまとまらなくて困っているんだけれど」
「スプレーとかムースとか、使ってみろ。人間、教わるのもいいけれど、体験するのが一番だ」
「分かった。色々と試してみる」
「よし」
翔からケープを取り、楽にさせてやると、友也は優しく声をかける。
「お茶、飲んでいくか?」
「もちろん!!」
「理からもらったパウンドケーキがあるんだよ」
「わお!! ますます食べたい!!」
「はは。分かった、分かった」
床に広がった髪をほうきで掃きつつ、了承すると、翔が鏡の前で全身を眺める。
「どうした? 気に食わないか?」
「あ、違う、違う!! 気に入ったから見ているの」
「そうか。それならいい」
髪の毛をゴミ箱に捨てると、ほうきを置き、手を払う。
「すぐに用意するから、座って待っていろ。…あ、安心しろ。理の魔法はクッキーのみだから」
「知っているよ。楽しみ、楽しみ。へへ」
明るい翔に救われ、友也は奥へ引っ込んでいく。
飲み物は何にしようとか、他にも何か出そうかなど考えつつ、ポケットを叩くと、
「これからも、よろしく」
と呟いたのだった。




