資産家独居老人の道楽3
深夜2時場所は剛田甚左衛門邸の地下にある秘密の地下道場。
剛田は新しく手に入れた派手な現代刀を振っていた。
ビュ!っと風切音が道場に響く。
「いや、驚いたのう。実に振りやすい重心じゃわい」
ワクワクしてくる気持ちを剛田は抑え切れない。
「しかしのう、強盗団のブラックリストに載ると暇でいかんのお」
剛田は巻藁を1本立てて試し斬りをする。
ビュ!
何の抵抗もなく巻藁は切れてピクリとも動かない。
もう一刀。
斬った巻藁の上を袈裟懸けで斬るも巻藁は崩れなかった。
2度刀で斬っても斬れ味が鋭すぎて巻藁は真っ直ぐに立ったままだ。
「現代刀も馬鹿にできんのう」
その時である。
背中に視線を感じた。
剛田は自分の目の前にある鏡越しに狐の面を被った男を見た。
「うむ、この気配の消し方はただ者ではないのう」
狐の面の男はスラリと刀を抜き払った。
「強盗という、わけでもなさそうじゃの」
剛田も平青眼の構えで狐の面の男と向き合う。
狐の面の男が霞崩しの構えをした。
「天然理心流かの?」
剛田甚左衛門は狐の面の男の霞崩しの構えのあるクセで、懐かしいある人物を思い出した。
「塩澤琢磨か?」
「流石!甚さん!覚えててくれたかい?」
「琢磨なのかい?」
狐の面の男は面を取り、刀を納刀した。
剛田も納刀して懐かしい剣友の顔をまじまじと見つめた。
「琢磨は強盗でもなかろうに、なぜ忍び込んだのじゃ?」
「甚さんよう、少し噂になってるぜ」
「なにがじゃ?」
「強盗が押し入るも難攻不落の邸宅、誰も生きて帰れないとな」
「1人生きて帰してるのじゃがのう」
「まあ、いいさ警告ってほどでもないんだが、甚さんあんた隠れた現代の剣豪に狙われてるぜ」
「それは本当かの?なんか楽しみになって来たわい」
「ところで甚さんよ、刀の趣味変わったのかい?」
「おー!これは秘蔵の現代刀なんじゃわい」
「派手過ぎだろう」
「まあ、式波・アスカ・ラングレーモデルのレプリカじゃからの」
「なんだそれは?」
「馬鹿にできんぞ琢磨、巻藁を見てみろ」
塩澤は興味深げに巻藁を見て回る。
「甚さんの腕もあるとしても、すさまじい斬れ味だな」
「そうであろう、そうであろう」
2人の話しが盛り上がっているのに水を差すように剛田の携帯電話が鳴る。
「こんな真夜中にいったい誰じゃ?」
剛田は無造作に携帯を手にして耳にあてる。
「こんな年寄りに何時だと思っているのじゃ」
「剛田さん!!アキです!!助けてください!!」
「アキか久しいの何があったのじゃ」
「剛田さんが私以外全員斬ってしまったから、私が裏切ったって追われてるの!!剛田さん!!お願い!!助けて!!」
「仕方ないのお、どこにおるんじゃ?」
剛田はアキの居場所が近いことを知って、迎えに行くことにした。
「甚さん?何かあったのかい?」
「ちょっと野暮用での、1人娘が追われていて迎えに行くんじゃよ」
「なんか分からんが面白そうだから俺も行くぜ」
「好きにせい」
剛田は鍛錬用の道着から普段着に着替えて、杖を持って玄関を出た。塩澤琢磨も付いてくる。
「甚さん?それはマズくないかい?」
「この杖は抜かなければ問題あるまい」
アキの指定した場所に行くと、アキが1人の男に腕をつかまれていた。
「お願いだから!離して!」
アキが必死の抵抗をしている。
剛田はその間に割り込むようにして杖で男の右腕を叩いた。
ボキ!
開放骨折である。
「うぎゃあああ!腕が!腕が!」
「騒ぐな馬鹿者!」
そしてその声を聞いた4人の男がアキ、剛田、塩澤の周りを囲む。
「じいさん達、俺らはその女に用があるだよ。とっとと帰りやがれ!」
剛田は男たちの手元を見ていた。
特殊警棒2人。
ベア・ナックル1人。
何じゃ?あれは?スタンガンかのう?
と。
敵勢力の分析をする。
「琢磨よ、左の二人はおぬしじゃ」
「了解だぜ。甚さん」
スタンガンを持った男が剛田に無防備に歩み寄る。
「じいさん!邪魔するんのかよ!?」
スタンガンがバチバチと火花を散らす。
その男が剛田の胸にスタンガンを押し付けようと腕を近づけた時に、剛田はその男の掌にそっと手を押し当て持ち上げてやる。
スタンガンは剛田には触れられず、その腕ごと持ち上げられて男の顎にスタンガンが当るとバチバチと火花を散らし全身に痙攣が走り、その場に倒れた。
横から特殊警棒が振り下ろされる。
剛田は少し身を交わし男の左足を踏みつけて、杖の柄で下顎を思い切り突き上げた!
飛び散る前歯、上唇を突き抜けて歯根が姿を現す。
その男も白目を剥いて倒れた。
「お、いかんのお。琢磨は無手じゃったわい」
剛田は塩澤のほうに目をやると1人は制圧され倒れており、もう1人が塩澤と格闘していた。
ベア・ナックルの男である。
剛田は塩澤の闘いに手を出すのも無粋だと思いながら、ベア・ナックル男の右足のすねに杖で強力な一撃を放った!
ベキッ。
骨折である。
剛田は何も気にする様子もなく、アキと塩澤の方へと歩み寄る。
「クッソ痛え!てめえら!舐めてんじゃねえぞ!」
脚を折った男はズボンの後に隠していた拳銃を手に取りためらわず発砲した。
剛田は仕込み刀を半身だけ抜いて銃弾を斬った。
そして瞬歩でベア・ナックルの男へと寄ると側頭部に杖で一撃を加える。
「クリアじゃのう」
「剛田さん!ちょっと話しがあるから家に連れて行って!」
アキがすごい剣幕で剛田に言う。
「初めからそのつもりじゃ」
剛田甚左衛門邸
「剛田さん!助けてくれてありがとうと言いたいところだけど、私が強盗を剛田さんの家に手引きしたんじゃなくて、私が強盗を剛田さんに差し出したって言われてるの!お店は少し半グレとの繋がりもあるし、あの時SNSで募集した闇バイトの子達も意味も分からず殺されて、店は辞めさせられるは、命は狙われるはで私本当に大変なの!責任とってよね!剛田さん!!」
「責任のお。良くわからんがしばらくお前さんを匿えばいいのじゃろ?」
「ええ、そうね。そういうことよ」
「悪い、甚さん!俺は裏の世界に住む人間だから言えることだけど、甚さんが全部悪いぜ」
「そうかの?」
「当たり前じゃないか甚さん?このアキちゃんだっけ?この子の身柄の安全は甚さんの責任でなんとかしないといけねえぜ」
「しかたないのう」
こうして奇妙な剛田甚左衛門とアキの共同生活が始まるのであった。




