夫がソープに行きました
それは夫のモラハラに耐えかねて弁護士相談に行った二日後の昼過ぎ。
離婚に有利な情報を探して夫の部屋に入った時のことだ。
(ふーむ、カードローンの残高は相変わらず三十万くらいか……、ん?)
『花やしき さゆり 二万千五百円』
ミミズみたいな夫の手書き文字で記録されている。ちなみに我が家は浅草から飛行機の距離である。
(スナックでも行ったんかな……)
スマホの検索欄に入力してみる。
『花やしき さゆり』
夫のこづかいとはいえ、月十八万の生活費でやりくりする我が家にとって二万は大金だ。
『ソープランド 花やしき』
検索欄の一番上に近所の繁華街のソープランドがヒットする。さゆり、いやさゆり嬢はこのお風呂屋さんの従業員らしい。
夫が風俗に行くことはなんとなく予想していた……というかまあ、離婚前の夫婦関係の悪さ、セックスレス期間を考えたら浮気か風俗行ってもしょうがないよねーという感覚だ。浮気は男の文化だとか本能だとかどこぞの芸能人も言ってたし、それを悲しむピュアさは分娩台に忘れてきた。そんな私なので悔しいとか悲しいとかそんな謙虚な気持ちの前に
(吝嗇な夫が大枚払って挿入希望した人物を見てみたい)
というスケベ心でさゆり嬢のページをタップしたのだった。
『さゆり 十八歳業界未経験素人 Bカップスレンダー』
モザイク越しでもわかる色白ロリ顔。黒髪セーラー服でベッドに寝転ぶさゆり嬢の写真が表示された。素人の風俗嬢とは一体どういうことだろう。店を通して働いてお金を稼いだらそれは経験者でプロだ。清楚系AV女優のような矛盾だ。失笑しつつもなんとも言えない生生しさがみぞおちに広がる。決して夫がロリコンだったことに引いている訳ではない。そんなことは想定済みだ。家族の性の相手の顔を見るというのは得てして生理的嫌悪感が伴うものだ。こんな気持ちになったのは実父のハメ撮り動画を偶然見つけてしまった時以来である。
夫は、この子供のようなさゆり嬢に渋沢栄一を握りしめ中顔面を最大限に伸ばしながら会いに行ったのだ。我が家のお金が夫の排泄
代として流れ、さゆり嬢はお店と折半された取り分をすすきののホストかメンズ地下アイドルに流すのだろう。懐かしい夜遊びの記憶がふっと蘇る。
壱萬円札の肖像を福沢諭吉から渋沢栄一に変えた人は、壱萬円札の持つ独特の生生しさを肌感覚で知っていたのではないかと思う。昼間のまっとうな仕事で得る金銭は福沢諭吉が確かに適任であるが、こういうシーンでは渋沢栄一の方が似合う。福沢諭吉は夜の世界ではインテリ過ぎるのだ。腹の出た四十五歳の男が十八歳の女の子に挿入希望できるチケット。風俗で働く女の子が自分だけの王子様を買えるチケット。愛妾がいて遊郭が好きだったという渋沢栄一は人間の生生しさを埋めるチケットの顔としてはまさに適任なのである。
栄一の話はさておき、夫の話に戻そう。私は決して出羽亀精神で夫のこづかい帳を開いたわけではない。あくまでも有利な条件で離婚するための手段なのである。夫がソープランドに行った、この事実は私にとって良い材料なのかそうではないのか、そこが重要なのである。
『夫 ソープランド 離婚』
『夫 風俗 離婚』
スマホの検索欄に入力する。
『風俗に行ったからといってそれが必ずしも有責になるわけではない』
『ポイントは確実に性交渉を行ったかどうか』
『回数、金額が多ければ離婚の原因になりうる』
知らない弁護士や有識者がする回答を合わせると、一回こっきりのソープでは有責材料として弱いらしい。
(もう少し泳がせておくか……)
ばれない様に元あった位置にこづかい帳を置きなおす。
趣味として時々二万円なら常識の範囲。ハマらなければ、遣いこまなければ、病気をもらわなければ……
ふと思いついてもう一度花やしきのページをタップする。
『完全S着』
(よかった……サル痘持ち込まれたらぞっとする)
頑なに私には避妊しない夫が店ではちゃんと『着けていた』ことに安堵する。もう少し、この生活を長引かせよう。準備が整うまで。女は強いのである。
「ねえ、栄一?」




