団長リンの日常 会議
騎士団の会議は週に一度は開かれる。
主に三つの騎士団に所属する団長と一部の文官達で行われるのだが、意見が合わないときは徹底して対立してしまう。
それは三つの騎士団が露骨に派閥ごとに編成されている傾向にあるからだ。
リンが所属する第三騎士団は中立派と平民からの若手をメインにで編成されている。
「カリム団長…お疲れ様です。お早いですね」
「お疲れ様です。貴方が遅いだけですよ」
紫の艶やかで癖のない髪、切れ長な氷を思わせるような蒼い瞳、知的で冷静な印象を与えるのが、第一騎士団の団長を務めるカリム団長である。
この人が早く来るときは大体、自分に何か用事がある時なので、少し身構えてしまう。
「…ご用件はなんでしょうか?」
「話が早くて助かります。
次の移動で私の隊からは4名ほど第三騎士団への異動嘆願書が届いています。
受理する予定ですので、必要な書類と迅速に移れるように手配のほうお願いしますね。」
「4名…多いですね。」
移動まで半年あるが、今の第三騎士団は人手が足りないのが現状なので、手続きや編成を考えれば早く教えてもらえるのは助かる。
「分かりました、ありがとうございます。
私の隊からは、異動嘆願書は届いていませんので、届きましたらまたお伝えします。」
「いえいえ。
これは親切にわざわざ教えてあげたので、貸し1つでよろしいですか?」
「…貸しほどにはならないかと」
少し困ったようにリンはカリム団長を見る。
カリム団長はクスリと笑いながら、リンの反応を楽しむ。
「冗談ですよ」
「カリム団長が言うと冗談に聞こえません」
リンは苦笑しながら答え、自分の席に着き、少ししてから殿下達の補佐官や文官達が席に着く。
リンは時間を確認しながら困ったように呟く。
「グレアム団長、遅いですね。」
「あの人は自由気ままですからね。
どうせまた遅刻でしょう」
「…そんな気がしますね」
カリム団長は苛立ちながら、リンは表情には出さずとも、内心困ったなと思いながら扉を見つめた。
「遅くなってすまんな!」
バン!と勢いよく扉を開けて入ってきたのは、少し白髪交じりの恰幅の良い壮年な男性だ。
「グレアム団長、大幅な遅刻です」
リンが苦笑しながら話しかけるも、グレアム団長は気にも留めず、リンに話しかける。
「リン!お前はますますマーサの若い頃に顔が似てきたな!愛想がないのは残念だが、どうだ?嫁ぎ先は決まったか?」
リンは顔が引き攣りそうになるのを懸命に堪えて、表情を保つ。
「祖母に似てきたのは嬉しいですが、会議で話すことではありません。」
「マーサはコロコロと表情が変わる奴だった。その調子じゃまだ決まってないだろ。いくらでも紹介してやるからいつでも言えばいいぞ」
「…わかりましたから、とりあえず会議を始めましょう」
グレアム団長はそうかそうかと嬉しそうに笑いながら、リンの方をバシバシと叩く。
会う度にこのやり取りをしているから正直疲れる。祖父の戦友でなければ関りを避けたい。
けど、悪気が無いから何とも言えない気持ちにもなる。
「グレアム殿はリンの事を気にするより、次の後継を早く決めた方が良いと思いますよ」
「言われんでも分かっておるわ。小童が。お前の隊は若手をもう少しどうにかしたらどうだ?
問題児が多いようじゃが。会議をさっさと終わらせたければ黙っとれ」
「…とりあえず、各団の問題点は各自対処するとして、会議を始めましょうか。」
これは今日も難航しそうだと思いながら、他の官僚たちと目配せをして頷きながら会議を始めた。
今日の主な議題は、学科試験補助制度手続きの簡潔化について。
「儂の隊からも受けたいとかいう奴が増えて困っとる。
自分で手続きできるくらい簡単にせんか!
お前達はいつも損をするときは面倒にしおって。
リン!そもそもお前が手続きをして部下を甘やかすからこうなるんだ!」
グレアムは不機嫌そうにリンに苦情を申し立てる。
「手続きが煩雑な事が問題なので私に文句を言われても困ります。
それに、簡潔化するなら自分で手続き出来るので、グレアム団長の負担はなくなると思いますよ。」
リンはこっちは二年間その手続きをしていたのだがと思いながら答える。
「…貴方はよく二年間もその手続きをやっていましたね。
早く議題に挙げればよかったものを」
「利用者が少なければ制度は変えられませんから。」
「…よくやりますね」
カリムは呆れたようにため息をつきながらリンを見る。
リンはそれを見ない振りをして、議題を進める。
「簡潔化については、文官の方達と詳細を詰めて申請書を提出すれば、数か月後には執行されるでしょう。」
申請書に各団長が署名をし、議題を移る。
ここからが正念場だとリンは気合を入れなおすのだった。
公式行事の警備配置の確認、町の自警団との情報共有や警備体制についての意見交換、通常業務、夜警や見回り、演習の応援要請など、議題は多岐に渡った。
「遠征に私の部下を数名連れて行きたいと?
ボランティアじゃありませんので、申請書と特別手当、部下たちの了承がなければお断りいたします。」
「リン…お前は助け合いの精神というものを知らんのか」
「私の隊は他の隊より2割ほど人数が少ないのです。
数名抜ければ各自の負担が大きく増えます。
交渉の余地があるだけ優しいと思いますが」
「グレアム団長は出し渋らずにさっさと諦めた方がいいですよ。
リン、あなたに演習の出稽古をお願いします。
金額や必要書類はこちらです」
グレアムの要望には慣れたものだが、カリムの出稽古の要請にリンは内心ため息をつく。
「…今回は二人ですか。
ご丁寧に日にちまで指定してくださってありがとうございます」
書類を確認し、日時を見てため息をつきたくなるのをリンはグッと堪える。
ご丁寧に週の中でも仕事量が比較的落ち着いている日を指定されている。
特別手当も文句の付けようのない金額だ。
「あなたが直接指導した方が良いと思いまして」
「…ご丁寧にありがとうございます。」
カリムは、リンを馬鹿にしている騎士たちを真っ向から叩きのめす機会を作ってくれているのだろうが、リンからすれば所属が違うとはいえ、上官を馬鹿にする騎士を放任して、こちらに丸投げされても迷惑なのが本音だ。
グレアムの隊は知識不足の騎士が多いなら、カリムの隊は扱いに困る騎士が多いとつくづく思う。
(…今日はここまで議題をまとめましたし、後はどうとでもなるでしょう。)
リンはチラリと文官達を見て、主導権を明け渡す。
自分の隊は本当に恵まれているのだとリンは改めて思いながら、書類を確認しながら、会議に耳を傾けるのだった。




